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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1、三人の旅
23/25

新たな仲間を加えて





 魔獣の咆哮が遠ざかり、戦場には、ようやく静寂が戻った。

 フィルは、盾を握っていた手の感覚が変わったことに気づく。


「…………」


 焼けるように疼いていた手の甲が、嘘のように静かになっていた。


「……はぁ」


 思わず息を吐く。

 フィルはゆっくりと呼吸を整え、肩の力を抜いた。


「フィル、大丈夫か?」


 シオンが剣を収め、ルーンとジェイクも武器を下ろして駆け寄ってくる。


「……うん。もう平気」


 そう答えると、三人も同じように息を吐いた。

 フィルは掌を見つめ、そっと盾を背中に戻す。


 脳裏に浮かんだのは、魔獣たちを従えていたあの女性――シエルの姿だった。


「……シエル……」


 眉尻が、自然と下がる。


 船着き場は、魔獣の襲撃によってあちこちが壊れていた。

 倒れた荷車、割れた木箱、逃げ遅れた品物が散乱している。


「……こりゃ、大変だな」


 腕を組んで、ジェイクが呟く。


 そのとき、ギルドのある方角から、誰かが走ってきた。

 白い衣服を身にまとった男女が数人、船着き場に到着して立ち止まる。

 その中にいた黒髪の男性が一歩前に出て、声を張り上げた。


「被害状況を確認したら、各自、仕事にかかれ!」


 その号令と同時に、白衣の人々は一斉に散っていく。


「……なにあれ?」


 それを見て、ルーンが首を傾げた。


「あれは清掃員だ」


 シオンが答える。


「清掃員?」

人気(ひとけ)の多い場所、つまり…町や、ここみたいな公共の場所が魔獣に襲撃されて壊されたとき、その修繕や片付けをする連中だ。ギルドから派遣される」


 白い衣服の袖には、《清掃員》と書かれた腕章が付いている。


「……へぇ」


 ルーンは納得したように頷いた。

 彼女の掌の上で、ブルーテイルが顔を上げる。


「きゅう」


 少しだけ、元気を取り戻したらしい。


「ブルーテイル、大丈夫?」

「きゅうっ」

「………よかった」


 けれど、油断はできない。

 パープルの雫を飲ませてから、だいぶ時間が経っている。


 ブルーテイルの体調が悪化する前に、早くレッドの雫を飲ませなければ。



+


 その後、四人はギルドへと戻る。

 テーブルにつくなり、ルーンは地図を広げ、指をすべらせた。


「……さっきの咆哮、たぶんレッドよ。声が聞こえたのは、ここから……北東」


 そこには、深い森が描かれていた。


「すぐに発つのか?」


 腕を組んで、シオンが問う。


 頷くと、ブルーテイルが「きゅう……」と小さく鳴いた。

 元気は、完全には戻っていない。


「一体、何の話してるんだ?」


 シオンとルーンの会話を聞いて、ジェイクが首を傾げる。


「お前には関係ない」

「つれねぇな」


 素っ気なくシオンが答えれば、ジェイクは肩を竦めた。

 ブルーテイルをブローチへ戻し、地図を荷物袋にしまう。


「行きましょう」


 そして、彼女たちは歩き出す。


「待て」


 けれど、そこで背後からジェイクの声が飛んだ。


「何だ」


 振り返るシオン。


「お前ら、森に行くのはいいとして……通行証は持ってるのか?」

「……通行証?」


 ルーンとフィルは顔を見合わせる。


 この南の大陸では、どこへ行くにも通行証が必要らしい。

 各地に王都が設置した検問所があり、そこで通行証を見せなければ先へ進めない仕組みとなっているのだそうだ。


「……森へ行く道にも検問所がある。通行証を持ってなけりゃ、門前払いだ」

「……なんでそんな面倒くさいシステムなの」


 ルーンは呟く。


「……通行証なんて、持ってないよね」


 フィルがシオンを見る。


「どこで手に入る」

「王都だ。しかも場所は森の真逆のここから北西」

「………」


 ますます面倒だ、とルーンは思う。


「だが、王都に行く必要はねぇ」


 ジェイクは首を振り、そう言って、懐から四角い板のようなものを取り出した。

 そこには、王都の紋章が彫られていた。


「通行証は、ここにある」

「それを……俺たちにくれるのか?」


 シオンが言うと、


「馬鹿言え。こんな大事なもん、人にやれるか」


 ジェイクは否定してから、にやりと笑う。


「だから――俺も一緒に連れて行け」

「……は?」


 三人は、同時に目を丸くする。


「久しぶりに会ったってのに、このままさよならってのは勿体ねぇだろ」


 通行証をひらつかせながら、ジェイクは言った。


「…………」


 シオンとフィルは顔を見合わせ、ルーンを見る。


 戦力は多い方が楽になるのは確かだ。ジェイクの実力は先程の戦闘で確認済み。

 だが、この旅は危険と隣り合わせ。ただ"強い"というだけでは素直に頷けないのも確かだった。


「………」


 息を吐いて、ルーンは一歩、ジェイクに近付く。


「……私たちについてくること、後悔はしないかしら?」


 眉をひそめて、彼女はジェイクを見つめた。

 その真剣な問いに、ジェイクは一瞬きょとんとしたが――


「しねぇよ」


 と、力強く頷く。


「……なら、いいわ」


 彼の答えを聞けば、ルーンはそう言って背を向けた。


「んじゃ、そういうことでこれからよろしくな。また、てめぇと組めて嬉しいぜ、シオン!」

「…………」


 はっは。と、笑うジェイクにシオンは腰に手を当て、肩を竦める。


 そして四人はギルドを離れ、北東にある森を目指して港町を出発した。



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