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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1、三人の旅
21/198

襲撃





 ギルドを飛び出すと、外はすでに騒然としていた。


 港の方角から、悲鳴をあげながら人々が走ってくる。

 商人、船乗り、旅人――誰もが振り返りもせず、必死の形相で逃げていた。


「……船着き場だ。急ぐぞ」


 シオンがそう呟き、ルーンと顔を見合わせる。


 言葉はいらなかった。

 二人は同時に走り出す。


「おい、待て!」


 背後からジェイクの声が飛び、彼もすぐに追ってきた。


 港へ向かう道は、逃げてくる人々で溢れている。その流れをかき分けながら、三人は船着き場へと向かった。


 やがて視界が開け――そこに、魔獣はいた。

 巨大な影が、桟橋の上に立っている。


 そして、その近くには――


「……フィル?」


 ルーンが、小さく呟く。


 その近くには、宿屋で休んでいるはずのフィルがいた。

 盾を構え、桟橋の中央に立っている。


「フィル!」


 シオンが叫び、駆け出そうとした瞬間――


「待て」


 ジェイクに肩を掴まれ、無理やり止められる。


「少し、様子がおかしい」

「……何?」


 シオンは眉をひそめる。


 フィルは、盾を構えたまま、苦しそうに表情を歪めていた。

 額には冷や汗が浮かび、歯を食いしばっている。


 その彼を取り囲むように、数匹の魔獣が蠢いていた。

 獣の唸り声が、港に響く。


 そして――

 その後ろに、ひとりの女性が立っていた。


 灰色の長い髪。

 手には、身の丈ほどもある大きな杖を持っている。

 彼女はその杖の先を、まっすぐフィルに向けた。


「――行きなさい」


 その一言で、魔獣たちが一斉に動く。


「――っ!」


 魔獣たちが、フィルに襲いかかる。

 フィルは盾を振り上げ、必死にそれを受け止めた。

 その瞬間、盾を持つ手に浮かぶ刻印が焼けるような痛みを走らせる。


「ぐ……っ!」


 歯を食いしばり、フィルは盾を振り回す。

 だが、数が多すぎる。


「フィル……!」


 ルーンが叫ぶ。


「助けなきゃ……!」


 シオン、ジェイクと視線を交わし、彼女たちは同時に駆け出した。



+



「――っ、フィル!」


 船着き場に到着し、最初に飛び込んだのはシオンだった。

 剣を抜き放ち、魔獣の群れへと突っ込む。


「どけ……!」


 一閃。


 前にいた魔獣の首が、風を裂く音とともに飛ぶ。

 勢いを止めず、シオンは次の一匹へと踏み込み、横薙ぎに斬り払った。


「グギャッ!」


 獣の悲鳴が、港に響く。


 ルーンも続く。

 足元に魔法陣を展開し、詠唱した。


「――風よ!」


 放たれた魔法の矢が、魔獣の胴を貫いた。

 その背後から、ジェイクが豪快に飛び込み、拳で魔獣を殴り飛ばす。


「うらあ!」


 魔獣たちは次々と倒れていく。

 その光景を見て、フィルは目を見開いた。


「…シオン…ルーン…っ!」

「無事だな」

「貴方、宿屋で休んでいるはずじゃなかったの?」

「あ、えっと……、いろいろありまして……」

「おい、てめぇら。話してる暇なんてねぇぜ!」


 フィルのそばへ駆け寄り、彼を守るようにしてシオンたちは魔獣の前に立ち塞がる。

 魔獣を従えていた女性は、ふっと口元を歪めて、息を吐いた。


「……邪魔が入ったわね」


 そう呟くと、彼女は杖を高く掲げる。


「来なさい」


 地面に魔法陣が浮かび上がり、闇の中から新たな魔獣が姿を現した。


「――っ、また来るぞ!」


 シオンが叫ぶ。

 そのとき、女性がフィルを見据えた。


「……フィル。よかったですね、助けてくれる人が現れて」


 静かな声だったが、港の喧騒の中でも、はっきりと届いた。

 その言葉に、フィルの肩がびくりと跳ねる。


「……、シエル」


 眉尻を下げて唇を震わせながら、彼は彼女の名を小さく呟いた。


「……貴方、あの人と知り合いなの?」


 あまりにも小さな声だったが、ルーンには聞こえた。

 フィルは顔を伏せ、弱々しく首を振る。


「……違う。あれはもう……オレの知ってる彼女じゃない……」

「え?」


 ルーンは首を傾げる。

 その言葉は、どういう意味なのだろうか。

 疑問に思ったが、その疑問はすぐに、戦場の音に掻き消された。


 新たな魔獣たちが、唸り声をあげる。




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