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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1、三人の旅
21/25

襲撃





 ギルドを飛び出すと、外はすでに騒然としていた。


 港の方角から、悲鳴をあげながら人々が走ってくる。

 商人、船乗り、旅人――誰もが振り返りもせず、必死の形相で逃げていた。


「……船着き場だ。急ぐぞ」


 シオンがそう呟き、ルーンと顔を見合わせる。


 言葉はいらなかった。

 二人は同時に走り出す。


「おい、待て!」


 背後からジェイクの声が飛び、彼もすぐに追ってきた。


 港へ向かう道は、逃げてくる人々で溢れている。その流れをかき分けながら、三人は船着き場へと向かった。


 やがて視界が開け――そこに、魔獣はいた。

 巨大な影が、桟橋の上に立っている。


 そして、その近くには――


「……フィル?」


 ルーンが、小さく呟く。


 その近くには、宿屋で休んでいるはずのフィルがいた。

 盾を構え、桟橋の中央に立っている。


「フィル!」


 シオンが叫び、駆け出そうとした瞬間――


「待て」


 ジェイクに肩を掴まれ、無理やり止められる。


「少し、様子がおかしい」

「……何?」


 シオンは眉をひそめる。


 フィルは、盾を構えたまま、苦しそうに表情を歪めていた。

 額には冷や汗が浮かび、歯を食いしばっている。


 その彼を取り囲むように、数匹の魔獣が蠢いていた。

 獣の唸り声が、港に響く。


 そして――

 その後ろに、ひとりの女性が立っていた。


 灰色の長い髪。

 手には、身の丈ほどもある大きな杖を持っている。

 彼女はその杖の先を、まっすぐフィルに向けた。


「――行きなさい」


 その一言で、魔獣たちが一斉に動く。


「――っ!」


 魔獣たちが、フィルに襲いかかる。

 フィルは盾を振り上げ、必死にそれを受け止めた。

 その瞬間、盾を持つ手に浮かぶ刻印が焼けるような痛みを走らせる。


「ぐ……っ!」


 歯を食いしばり、フィルは盾を振り回す。

 だが、数が多すぎる。


「フィル……!」


 ルーンが叫ぶ。


「助けなきゃ……!」


 シオン、ジェイクと視線を交わし、彼女たちは同時に駆け出した。



+



「――っ、フィル!」


 船着き場に到着し、最初に飛び込んだのはシオンだった。

 剣を抜き放ち、魔獣の群れへと突っ込む。


「どけ……!」


 一閃。


 前にいた魔獣の首が、風を裂く音とともに飛ぶ。

 勢いを止めず、シオンは次の一匹へと踏み込み、横薙ぎに斬り払った。


「グギャッ!」


 獣の悲鳴が、港に響く。


 ルーンも続く。

 足元に魔法陣を展開し、詠唱した。


「――風よ!」


 放たれた魔法の矢が、魔獣の胴を貫いた。

 その背後から、ジェイクが豪快に飛び込み、拳で魔獣を殴り飛ばす。


「うらあ!」


 魔獣たちは次々と倒れていく。

 その光景を見て、フィルは目を見開いた。


「…シオン…ルーン…っ!」

「無事だな」

「貴方、宿屋で休んでいるはずじゃなかったの?」

「あ、えっと……、いろいろありまして……」

「おい、てめぇら。話してる暇なんてねぇぜ!」


 フィルのそばへ駆け寄り、彼を守るようにしてシオンたちは魔獣の前に立ち塞がる。

 魔獣を従えていた女性は、ふっと口元を歪めて、息を吐いた。


「……邪魔が入ったわね」


 そう呟くと、彼女は杖を高く掲げる。


「来なさい」


 地面に魔法陣が浮かび上がり、闇の中から新たな魔獣が姿を現した。


「――っ、また来るぞ!」


 シオンが叫ぶ。

 そのとき、女性がフィルを見据えた。


「……フィル。よかったですね、助けてくれる人が現れて」


 静かな声だったが、港の喧騒の中でも、はっきりと届いた。

 その言葉に、フィルの肩がびくりと跳ねる。


「……、シエル」


 眉尻を下げて唇を震わせながら、彼は彼女の名を小さく呟いた。


「……貴方、あの人と知り合いなの?」


 あまりにも小さな声だったが、ルーンには聞こえた。

 フィルは顔を伏せ、弱々しく首を振る。


「……違う。あれはもう……オレの知ってる彼女じゃない……」

「え?」


 ルーンは首を傾げる。

 その言葉は、どういう意味なのだろうか。

 疑問に思ったが、その疑問はすぐに、戦場の音に掻き消された。


 新たな魔獣たちが、唸り声をあげる。




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