襲撃
ギルドを飛び出すと、外はすでに騒然としていた。
港の方角から、悲鳴をあげながら人々が走ってくる。
商人、船乗り、旅人――誰もが振り返りもせず、必死の形相で逃げていた。
「……船着き場だ。急ぐぞ」
シオンがそう呟き、ルーンと顔を見合わせる。
言葉はいらなかった。
二人は同時に走り出す。
「おい、待て!」
背後からジェイクの声が飛び、彼もすぐに追ってきた。
港へ向かう道は、逃げてくる人々で溢れている。その流れをかき分けながら、三人は船着き場へと向かった。
やがて視界が開け――そこに、魔獣はいた。
巨大な影が、桟橋の上に立っている。
そして、その近くには――
「……フィル?」
ルーンが、小さく呟く。
その近くには、宿屋で休んでいるはずのフィルがいた。
盾を構え、桟橋の中央に立っている。
「フィル!」
シオンが叫び、駆け出そうとした瞬間――
「待て」
ジェイクに肩を掴まれ、無理やり止められる。
「少し、様子がおかしい」
「……何?」
シオンは眉をひそめる。
フィルは、盾を構えたまま、苦しそうに表情を歪めていた。
額には冷や汗が浮かび、歯を食いしばっている。
その彼を取り囲むように、数匹の魔獣が蠢いていた。
獣の唸り声が、港に響く。
そして――
その後ろに、ひとりの女性が立っていた。
灰色の長い髪。
手には、身の丈ほどもある大きな杖を持っている。
彼女はその杖の先を、まっすぐフィルに向けた。
「――行きなさい」
その一言で、魔獣たちが一斉に動く。
「――っ!」
魔獣たちが、フィルに襲いかかる。
フィルは盾を振り上げ、必死にそれを受け止めた。
その瞬間、盾を持つ手に浮かぶ刻印が焼けるような痛みを走らせる。
「ぐ……っ!」
歯を食いしばり、フィルは盾を振り回す。
だが、数が多すぎる。
「フィル……!」
ルーンが叫ぶ。
「助けなきゃ……!」
シオン、ジェイクと視線を交わし、彼女たちは同時に駆け出した。
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「――っ、フィル!」
船着き場に到着し、最初に飛び込んだのはシオンだった。
剣を抜き放ち、魔獣の群れへと突っ込む。
「どけ……!」
一閃。
前にいた魔獣の首が、風を裂く音とともに飛ぶ。
勢いを止めず、シオンは次の一匹へと踏み込み、横薙ぎに斬り払った。
「グギャッ!」
獣の悲鳴が、港に響く。
ルーンも続く。
足元に魔法陣を展開し、詠唱した。
「――風よ!」
放たれた魔法の矢が、魔獣の胴を貫いた。
その背後から、ジェイクが豪快に飛び込み、拳で魔獣を殴り飛ばす。
「うらあ!」
魔獣たちは次々と倒れていく。
その光景を見て、フィルは目を見開いた。
「…シオン…ルーン…っ!」
「無事だな」
「貴方、宿屋で休んでいるはずじゃなかったの?」
「あ、えっと……、いろいろありまして……」
「おい、てめぇら。話してる暇なんてねぇぜ!」
フィルのそばへ駆け寄り、彼を守るようにしてシオンたちは魔獣の前に立ち塞がる。
魔獣を従えていた女性は、ふっと口元を歪めて、息を吐いた。
「……邪魔が入ったわね」
そう呟くと、彼女は杖を高く掲げる。
「来なさい」
地面に魔法陣が浮かび上がり、闇の中から新たな魔獣が姿を現した。
「――っ、また来るぞ!」
シオンが叫ぶ。
そのとき、女性がフィルを見据えた。
「……フィル。よかったですね、助けてくれる人が現れて」
静かな声だったが、港の喧騒の中でも、はっきりと届いた。
その言葉に、フィルの肩がびくりと跳ねる。
「……、シエル」
眉尻を下げて唇を震わせながら、彼は彼女の名を小さく呟いた。
「……貴方、あの人と知り合いなの?」
あまりにも小さな声だったが、ルーンには聞こえた。
フィルは顔を伏せ、弱々しく首を振る。
「……違う。あれはもう……オレの知ってる彼女じゃない……」
「え?」
ルーンは首を傾げる。
その言葉は、どういう意味なのだろうか。
疑問に思ったが、その疑問はすぐに、戦場の音に掻き消された。
新たな魔獣たちが、唸り声をあげる。




