南の大陸の港町で
数日の船旅を経て、シオンたちは南の大陸へと到着した。
船が港に入り、タラップが下ろされる。桟橋に足を踏み入れ、三人は周囲を見渡した。
そこは、ラ=パープルと同じく、賑やかで活気に満ちていた。
港には人の声と荷のぶつかる音が溢れ、商人たちの呼び込みがあちこちから聞こえてくる。
南の大陸の空気は、どこか熱を帯びていて、動いているだけで力をもらえるようだった。
歩きながら、彼らはまず何をするかを話し合う。
「まぁ、レッドを探すのはいいとして…どこにあるかわからないままじゃ、どうしようもない」
シオンが言うと、ルーンが頷く。
「なら、まずは情報を集めないとね。…一番手っ取り早いのは、ギルドかしら?」
「そうだな。ギルドへ行くぞ」
二人は同時に周囲を見渡し、そして視線を合わせる。
そんな彼らのあとから、ゆっくりとした足取りでフィルがとぼとぼとついてきた。
両手をだらりと下げ、顔色もまだ良くない。
「うぅ、…二人とも早いって…」
ルーンは振り返り、フィルに声をかける。
「……フィル、まだ具合悪い?」
一瞬だけこちらを見てから、フィルはお腹を押さえた。
「…うん。…まだ、変な感じ……」
その様子を見て、シオンは腕を組み、息を吐く。
「その前に、宿屋だな」
フィルの具合も考慮し、三人はまず宿屋へ向かうことにした。
+
宿屋の扉を開けて中に入ると、カウンターの向こうにいたエルフ族の男性が顔を上げる。
「いらっしゃい」
「部屋は空いてるか?」
シオンが聞くと、男性は頷いた。
「ええ、ありますよ」
泊まるわけではないので、とりあえず一部屋だけ借りて鍵を受け取り、三人は階段を上がった。
部屋に入るなり、フィルはそのままベッドへ倒れ込む。
「……大丈夫か?」
シオンが声をかけると、くぐもった声が返ってくる。
「……うん。休んでれば、平気……」
「俺たちはこのままギルドへ行く。お前はしばらく寝ていろ」
そう言うと、フィルは力なく手を上げた。
「……いってらっさい……」
「(……亀みたい)」
盾を背負ったまま、うつ伏せで倒れているフィルの姿を見て、ルーンは思った。
+
二人がギルドに向かうと、そこもまた人で溢れていた。
扉を開けた瞬間、熱気とざわめきが押し寄せる。
「すまないが、大陸の地図を貰えるか?」
「はい。どうぞ」
カウンターにいた受付の男性に声をかけ、南の大陸の地図をもらうと、二人は奥のテーブルへ向かう。
テーブルの上に地図を広げると、ルーンの肩からブルーテイルが降りた。
「きゅ」
小さく鳴いて、地図の上をぴょんと跳ねる。
「レッドがありそうな場所は……」
シオンとルーンは、相談しながら地図を指でなぞっていく。
「手当たり次第じゃ駄目。レッドの特徴と習性を考えれば、だいたい絞れるはずよ…。…カラーは人気のない場所を選んで移動するの。だから…」
ルーンは顎に手を添え、真剣な表情で考え込んだ。
そのとき──
「……おい」
声がかかり、ルーンは顔を上げる。
そこに立っていたのは、青い髪の大柄な男性だった。がっしりした体格に、歴戦の傷が刻まれた腕。
男性を見て、ルーンはぎょっとした。しかし、男性はルーンではなく、シオンをまじまじと見つめていた。
「……やっぱり。お前、シオンだな」
口元を緩める。
ルーンは小さく首を傾げた。
「……知り合い?」
「さあな」
シオンは男の顔を見ずに答える。
「はっ。そりゃあねぇだろ」
肩を竦め、男はテーブルに手をついた。
「随分と久しぶりじゃねぇか。こんなとこで、何してるんだ?」
眉をひそめてルーンが男性を訝しげに見ると、彼はその視線に気づき、今度は彼女を見た。
「……まさか、デートか?」
「違う」
シオンはきっぱり否定し、ようやく男の方を向いた。
「こんなとこで、何をしてる」
その言い方からして、やはり知り合いなのかとルーンは思う。
男性の名はジェイク。
シオンやフィルと同じ探求者で、年齢はかなり上の特A級のベテラン探求者だ。
「いつも通りさ。魔獣退治しながら、大陸を転々としてる」
やっと反応を示してくれたシオンに満足そうに言い、男性…ジェイクは笑った。
「きゅ!」
ブルーテイルが鳴き、地図の上でぴょんと跳ねる。
それにジェイクが気づかないはずもなく、彼はブルーテイルの方へ顔を向けて首を傾げた。
「……なんだ、この青いの」
「彼女のペットだ」
シオンが答える。
「ペット…。はぁ。ペット同伴でデートとは、お前も成長したもんだな」
「だから違う。何度も言わせるな」
「気を付けろよ、お嬢ちゃん。こいつは見掛けはこんなだが、中身は結構な野獣だから」
「……問題ないわ」
「…………」
ジェイクの言葉にシオンは深く息を吐く。
冗談だということはわかっている。
ルーンも本気にはしていないようで、彼の顔を見つめながら適当に言葉を返した。
そのとき――
ドンッ!!
外で大きな音が鳴り響く。
建物の中にまで振動が伝わり、近くのガラス窓が震えた。
「……?」
シオンたちは顔を見合わせる。
次の瞬間、扉が勢いよく開いた。
「たっ、大変だ!」
慌てた声とともに、一人の男性が駆け込んでくる。
受付の男性が近付き、声を掛けた。
「どうかしました?」
男性は荒い息のまま、外を指差す。
「……ま、まじゅ…っ、魔獣が出た!!」
その一言で、その場の空気は一変した。




