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ブルーテイル・ハピリス‐世界に嫌われているダークエルフが世界を救っては駄目ですか?‐  作者: aki.
3、ダークエルフ

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やっぱり





 甘味屋を出たあと、ルーンたちはゆっくりと帰路についていた。

 昼下がりの村は相変わらず賑やかで、商店通りからは人々の笑い声や呼び込みの声が遠く聞こえてくる。


 フィルが前を歩き、その少し後ろをルーンがついていく。

 ブルーテイルは二人の足元を行ったり来たりしながら、機嫌よさそうに尻尾を揺らしていた。


「はぁ。ほんと、なんなんだあれ……」


 しばらく歩いたところで、フィルが重たそうに息を吐く。

 頭の中には、先ほど甘味屋で騒いでいた男の顔が浮かんでいた。思い出すだけで眉間に皺が寄る。


「彼は、学び舎で一番の悪い人だってマキノが言っていたわ」


 後ろからルーンが静かに答えた。


「一番の悪い人……。なんか納得」


 フィルは肩をすくめる。


「けど、奉行所の人が来てくれてよかったよな。……あの人たちって、騎士団みたいなものなのかな」

「そうなのかもね」


 ルーンは淡々と言った。


「今頃は、あの人たち。こっぴどく絞られてるんじゃないかしら」


 その言葉を聞いた瞬間。

 フィルはぴたりと足を止める。


「?」


 ルーンもつられて立ち止まる。

 振り返ったフィルは、真っ直ぐルーンの方へ歩み寄った。

 急に距離を詰められ、ルーンはわずかに目を瞬かせる。


「……何?」


 訝しげに首を傾げた、その時だった。

 フィルは両手を伸ばし、ルーンの肩を掴む。

 そして。ぐらぐら。と、何かを言うわけでもなく前後に軽く揺らし始めた。


「……?」


 突然の行動に、ルーンの頭は完全に停止する。

 何をされているのかわからない。

 ただ肩を掴まれ、風に揺れる木の枝みたいにゆらゆら揺らされている。


 ルーンは困惑した顔のまま、その動きを受け止めていた。


「……何?」


 もう一度聞く。

 するとフィルは真顔のまま答えた。


「いや。……なんていうか、どう怒っていいのかわからないからこうしてる」

「どういうこと……?」


 意味不明だった。

 だがフィル自身も説明できないらしく、数秒ほど肩を揺らしたあと、ふっと手を離した。


「きゅう?」


 ブルーテイルが鳴く。

 まるで「何してるんだこいつ」とでも言いたげな声だった。


 妙な沈黙が落ち、そしてフィルは何かを決めたように口を開く。


「………わかった」

「……?」

「やっぱりオレも学び舎に入るよ」

「え?」


 ルーンの目が丸くなる。


「なんでそんなこと……」

「その方が、いつまたあんなことが起きてもすぐ守りに行けるだろ」


 フィルは真っ直ぐルーンを見る。


「あいつが学び舎の生徒だって言うんなら、またいつルーンに突っかかってくるかわからない。オレがそばにいれば、君が傷つけられる前に止められる」

「……その必要は」

「ない、なんて言うなよ」


 言葉を遮るようにフィルは返した。


「さっき震えてたろ」

「!」


 ルーンの肩がびくりと揺れる。

 甘味屋で男に胸ぐらを掴まれた時。

 自分でも気づかないほど小さく、指先が震えていた。


 フィルは、それに気づいていた。


「……これはルーンの性格の問題かもしれないけど」


 フィルは少し視線を落とす。


「ああいうのって、突っかかったらツケ上がって手が付けられなくなるんだ。だから、適当にあしらって場をおさめるのが一番いい」

「そんなの……」


 ルーンは唇を噛む。

 理解はできる。

 だが納得はできなかった。

 何もしていないのに罵倒され、侮辱され、それでも黙って耐えろと言われているみたいで。


「わかってる。それは出来ないよな」


 フィルは苦笑した。


「だからオレがその役を担うんだ。大事になる前に。穏便に済ませるために」


 いつもより少し強い口調だった。

 ルーンは眉尻を下げ、彼を見つめる。

 胸の奥がじんわり熱を持つ。

 それは怒りとは違う感情だった。


「……ここ数日で、色々なことを言われたわ」


 ぽつりとルーンは呟く。


「あることないこと。……ほとんどが陰口で。仕方ないって割り切って、気にしないようにしてた」


 風が吹く。

 紫色の髪が静かに揺れた。


「でも、図書室であの人に絡まれた時。どうしても我慢出来なかった」


 ルーンは視線を伏せる。


「いつも通り、陰口を言う人たちと同じ。そう思ってた。……でも駄目だった」


 小さく息を吐く。


「フィルの言う通り、性格の問題なのかしらね。陰で言われるのは問題ないわ。だけど、面と向かって言われると頭にきちゃって。……私たちのこと、何も知らないくせにって」


 その声には、ほんの少しだけ悔しさが滲んでいた。

 フィルは何も言わず、それを聞いている。

 すぐ励ますでもなく、無理に慰めるでもなく。


 ただ黙ってそばに立っていた。


「……学び舎に入るって、貴方も試験を受けるの?」


 しばらくして、ルーンが尋ねる。


「ん。……まぁ、そうなるかな」

「大丈夫?」

「……んー」


 フィルは困ったように頬を掻いた。


「正直、自信ないけど……。アテがあるのを今思い出した」

「?」


 アテ。


 その言葉の意味がわからず、ルーンは首を傾げる。


 フィルはどこか気まずそうに笑っていた。



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