表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

62/212

★59話 気楽な選択

「見えてるよー」


 俺が窓から手を振り返すと、エクセリアはニコニコ笑いながらまた手を振り返してきた。

 延々お互いに手を振っていても仕方がないので、俺は手のひらを上向けて「やっていいよ」と促す。

 するとエクセリアは両手首をくっつけて腰の位置に引き、膝をググッと沈めた腰だめの姿勢で叫び声を伸ばし始める。


「エ〜ク〜セ〜リ〜・波ァーッ!!!」

「は?」


 どこかで聞いたことのある伸ばし気味かつ気合いの入った発声、「波ァ!」の気勢に併せて突き出される両手。

 両手から発光する波動が放たれて、数メートル先に着弾して爆発が起きた!


「いやいやいや」


 どこかで見たことがあるが?

 唖然とする俺に、隣で見ていたシエナが少し興奮気味の面持ちで語りかけてくる。


「ほらあれ! 凄くない?」

「な、なんだあ……!?」

「あ、爆発のことなら人避けしておいたから心配しなくて大丈夫だよ。広場の管理者に許可も取ったし」

「いや、そうじゃなくて。あれって」

「かなり暇してたみたいでさ、私の本棚にあった漫画読んだんだって。似たような感じで再現しちゃうんだからデタラメだよねえ、さすが姫様って感じ?」

「ええ……?」


 俺は困惑しきってしまう。いくらなんでもあんなのアリか? なんだエクセリ波って。アホなのか?

「見たか! すごいだろアリヤー!」とエクセリアがこっちを自慢げに見てくるので、戸惑いながらも「すごい」と拍手しておく。

 シエナの後ろにいたミトマが口を開く。


「魔法の源はあくまでイメージ力。多少デタラメな現象でも、自分が心底から納得できればそれで発動する。そういうものだ」

「自分が納得できれば……あー、その仕組みは知ってるけど、漫画完コピで両手からビーム出して爆発ってのはいくらなんらなんでも……」

「いくらなんでも、と思ってしまうのなら、その線引きがお前にとっての魔法の限界だ。私も想像力に乏しくて魔法が苦手だからな、お前の気持ちは理解できるが」

「ま、魔法の限界? そう言われると、なんか自信なくなってくるな」


 ミトマの説明を補足するように、続けてシエナが口を開く。


「これはよく言われる定説なんだけどさ、魔法を使うのに適してる人間は二種類いるんだ」

「へえ、二種類。それってどういうタイプなんだ」


 俺の問いかけに、シエナはピンと指を立てて答える。


「まず一つはズバぬけて賢い人。化学式だの物理法則だのを熟知してれば、自分の想像力を理屈で裏打ちして補強できるからね。実現可能な範囲が広いってわけ」

「ああ、カラスとかはそういうタイプなのかな? 人柄はよく知らないけど」

「私も直接会ったことはないけど頭良いらしいねー、あの陰険そうなクチバシ男」


 にっくき七面會(マスケラド)の姿を思い浮かべて顔をしかめてから、気を取り直したようにシエナは二本目の指を立てる。


「んでもう一つはさっきの真逆。とびきりのバカ」

「とびきりのバカ」

「そう。あ、これよく言われてる定説だからね。エクセリアをバカって言ってるわけじゃないよ。もうちょい細かくいうなら、想像力はあるけど知識はあんまりなくて、超前向きかつ超自信家で物事を細かく考えないタイプの人」

「それは……エクセリアそのままかもしれない」


 俺が納得してうなずいていると、今度は少し抑え気味の早歩きがタ、タ、タと病室に近付いてきた。

 ドアを開けてひょっこりと顔を出したエクセリアが、にんまりとしながら俺にピースサインを見せてくる。


「すごいだろ。褒めろ!」

「いやあ……びっくりした。あんなことよくできるな」

「私だぞ? この世界の姫だぞ? あれぐらい出来て当然だが!? ははははは!!」


 エクセリアの大きな瞳には自分の能力への一片の疑いも浮かんでいない。

 なるほど、ここまで純粋に“実現できて当然”だと思えていれば漫画に影響受けてそのまま手からビームがドーン! 的なああいうのもできてしまうのか。

 非現実の実現を疑ってまうのは頭の中に余計な知識と常識があるから。じゃあ記憶喪失で色々な知識が抜けたことでエクセリアは強化されていたりするんだろうか?

 いや、転移してすぐの研究所で少しだけ喋った、記憶をなくす前のエクセリアも大体こんな感じだった気がする。なんだか凄い魔法を使っていた記憶もある。だとすれば個人の性格とか資質の問題か。

 賢いかバカかの魔法が強い。そう聞くと、自分の存在がかなり中途半端に思えてくる。

 言うほどバカじゃないし、それほど賢くもない。殺鼠剤(ワルファリン)をちょろっと射たれたくらいで追い込まれた件も含めて、こんな調子で今後やっていけるんだろうか。


「うーん……」


 病院を出た俺は、シエナたちと一緒に近場のファミレスに入る。

 昼食を食べるには少し早い時間だったので、ドリンクバーだけ頼んで天井を仰ぎながら唸ってしまう。

 アブラたちに勝った時は最後の方が暴走気味だったから実力感が薄いし、カラスたちとの戦いはドクロの方はともかくカラスが余力を残して余裕綽々って感じだった。

 なんというか、地力不足では?


「おい。おいアリヤ。私を無視するなー!」

「え? あ、ああ! ごめんごめん。考え事してた」


 横に座ったエクセリアに腕を揺すられて、俺はハッと思索から意識を戻す。


「それでアリヤ、三日間どうする?」

「えっ、何だっけ?」

「なんだお前、何も聞いてなかったのか!」

「い、いや、何もってことはないよ」


 エクセリアが呆れたようにこっちを見てくる。

 いけないいけない、シエナが今の状況を説明してくれていたのにすっかり考え事をしてしまっていた。

 上の空で聞いていた内容を必死に思い出す。


「ええと、血の門(シュエメン)がイリスを拐って俺を指名。ランドール家の当主も俺に会ってみたいと指名。なんで俺ばっかり?」

「知らんわ」


 なんとなく横に座っているエクセリアに尋ねてみたが、わかるはずもなく首を傾げられた。

 それよりエクセリアの興味は運ばれてきたばかりのフライドポテトに移っている。シェア用サイズの山盛りだ。

 揚げたてのポテトを齧りながら、シエナが俺に語りかけてくる。

 

「一個聞き逃してるよ、アリヤ。群狼団(ウルフパック)の話は聞いてなかった?」

「ええと、ごめん。聞き逃してたな」

「じゃ、もう一回簡単に説明するね」


 気を悪くした様子もなく、シエナは二本目のポテトをつまみながら説明を口にする。


群狼団(ウルフパック)って傭兵団が七面會(マスケラド)に雇われて学園を攻めてるって話は前にしたよね」

「ああ、聞いたな。覚えてるよ」

「バーガンディの情報によると、この傭兵団周りの状況が変わってきたみたいなんだ。ここ血の門(シュエメン)の傘下なんだけど、どうも傭兵団のトップが血の門(シュエメン)と揉めたみたいで」

「へえ」

「今群狼団(ウルフパック)と交渉すれば、血の門(シュエメン)を介さずに学園攻めを止めさせられるかもしれない。上と争うのは相当キツいはずなんだ、つけ入る隙はあると思う。……希望的観測だけどね」


 そう真面目に説明をした上で、シエナは表情から力を抜いてひらひらと手を振る。


「……って説明してみたけど、まだ動けないんだよね。三つの組織とも、交渉に指定してきた日が一週間以上先。数日は準備にあてるとしても、三日ぐらいはそれぞれ自由行動って感じかなー」

「自由行動かあ。なんか久しぶりだ」

「うん。アリヤもエクセリアも好きなことして過ごしててよ。病み上がりだから学園に戻ってゆっくりしてもらってもいいし、たまにはのんきに観光するのもいいだろうし、やりたいことやったらいいよ」

「うーん、そう言われると迷うな」


 考えてみれば、そんな余暇的な日は久々だ。

 完全にフリーなんてパンドラに来た翌日にエクセリアとマーケットを散策したあの日以来じゃないか? その時だってシュラに襲撃されたせいですぐ戦いになっちゃったし。学園で過ごしていた一週間くらいの間はのんびりしていたけど、自由に街には出られない環境だった。

 自由! と言えば聞こえはいいけど、想定していない自由を急に与えられると案外困るものだ。

 考える俺の脇腹を、ついついとエクセリアが小突いてきた。


「私はアリヤと一緒に行くからな! ほっとかれて暇だった!」

「うっ……脇腹を突くなよ。わかったわかった。でもコンブはどうするんだ?」

「連れてきてるぞ」

「あ、本当だ。箱みたいな変なカバン持ってると思ったら猫用のやつだったのか」

「病院から店だったからカバンに入れてるけどコンブは賢いんだぞ。外に出して歩かせてもずーっと私の側から離れないんだ!」

「ほー……」


 いつの間にそんなに懐いたんだろう。ブリーダーとか向いてるんじゃない?

 思わず感心してしまうが、それより何をするか決めないと。こういう時にパッと決められないのが想像力の欠如なんじゃないか。

 ……ええと、俺が最優先でしなくちゃいけないのは溶血剤対策だ。どうすれば対策できるだろう?


 そうだ、血の武器だけに頼るのはまずい。燃さんみたいに魔法以外の武器を一つぐらい持つのもいいんじゃないか?

 それか武術。魔法に頼らず戦えるように自分自身を少し鍛えてみるのもありかもしれない。

 もしくは……発想をガラッと変えて、逆に魔法を強化してみるか。上手くやれば溶血剤を使われたところで無視できそうな気もする。

 そんなことを考えていると、懸命に考えすぎたせいか断片的に言葉が口から漏れていたようで、シエナたちが順に反応を示してきた。


「アリヤ、武術鍛えるなら任せてよ。私いいやり方知ってるんだよね!」

「魔法なら私、心当たりがあります。少しならお手伝いできるかもしれないよ」

「武器を探すなら付き合うぞ。いくつかアテがある」

「え、悪いよ。みんなも自由時間は好きに過ごしたいんじゃないの」


 シエナ、ユーリカ、ミトマと三者三様に食いついてきたものだから、俺は思わず遠慮してしまう。

 そもそも口にしたつもりはなかったのだから、協力を催促(さいそく)したみたいでなんか申し訳ない。

 だがシエナはそんな俺の言い分に、首を横に振って返してくる。


「そもそも学園の都合にアリヤたちを巻き込んじゃってるのはこっちの方だし、遠慮しないでよ」

「そういうもんかな」

「そういうもんだよ。それと二人が戦いから降りたくなったらいつでも言ってよね。義務みたいに押し付けるのは本意じゃないからさ」


 シエナの語調は風のようにさらっとしていて、熱っぽく語られるよりも嘘偽りのない本心としてまっすぐ伝わってくる。

 俺が今ここで戦いを降りると告げても、この三人は心からのお礼を言って手を振ってくれるだろう。学園に居座らせてさえくれるに違いない。

 現状、気持ちとしても自分たちの立場で考えても学園から離れる気はない。学園から出たって孤立して狙われるだけの立場になりかねないのは俺もエクセリアもだ。

 ここは素直に頼ってみるのもいいんじゃないかな?



————鐘が鳴る。



『運命分岐点』



【①.シエナと武術を鍛える】


【②.ユーリカと魔法を練習する】


【③.ミトマと武器を探す】


【④.あてもなくぶらついてみる】



 既存の三択にプラス、あえての④ってところだろうか。

 人の生き死にが掛かった選択に比べれば気楽なもんだ。どうしようかな。




ルート投票は明日の正午までで締め切りとします。

同票数の場合は最初に書き込まれたルートを採用して進行する予定です。


ブックマーク、評価などをいただけると大変励みになります。

下にある⭐︎を押すと評価ポイントを付けられるので、面白い、続きが気になると思っていただけたらぜひよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] ②の魔法の練習でお願いします。
[気になる点] 2のユーリカで
[一言] 1で
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ