36. 彼の甘さが増しています
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ジョーが団長邸に帰ってきたのは、夕陽が空を紅く染める頃だった。酷く顔を紅くして、口元をきゅっと結んで帰ってきた。
ジョーを見ると、昼の華麗な剣捌きを思い出してきゅんとする。それと同時に、ジョーは怒っているのかなと不安になった。
それでも元気を装って、
「おかえりなさい」
ジョーに駆け寄る。ジョーは紅い顔のまま、ぎゅっと私を抱きしめた。
その硬い腕に抱かれ、服越しにその体温が伝わり、体が沸騰しそうになる。
「じょ、ジョー!いきなり何!?」
ジョーの体を押し退けようとするが、騎士団長の力はすごい。どれだけ足掻いても、びくともしないのだ。
「ただいま、アン」
耳元で甘ったるい声で囁かれ、かあっと熱が上がる。
「アン、会いたかった」
いきなりそんな甘々モードで迫られても、心の準備が出来ていない。それに……
「じ、ジョー……!」
思わず悲鳴のような声を上げた。
だって、ジョーは私を抱きしめたまま、頬とか耳元にちゅっちゅっとキスをするからだ。
「や、やめて、ジョー!!
恥ずかしいし……なんだか胸がドキドキしておかしい……」
必死に抵抗するが、
「煽ってるのか?」
ジョーはさらに甘い声で告げ、唇を重ねようとした……
「ジョセフ団長ーッ!!」
急に訓練場に案内してくれた騎士の大声が聞こえた。それで私もジョーもビクッとなって、ジョーが私を離す。
崩れ落ちそうになるのを必死で我慢しながら、まだまだ高鳴る胸をぎゅっと押さえた。
ジョーがますます甘すぎて、不安でしかないほどだ。これから一緒にここに住むというのに、大丈夫だろうか。
私はパニックを起こしているのに、ジョーは至って普通だ。いや、取り乱してはいないが、相当な殺気を感じる。
私に背を向けたまま、低い声で騎士に告げる。
「喧嘩売っているのか」
それで、後輩騎士も殺気立つジョーを見て、ビビってしまう。それでもジョーは容赦しない。
「俺に黙ってアンを連れ回して、挙げ句の果てに俺の醜態を見せつけるのか!
事前に言ってくれればいいものを」
「だ、団長……すみませんっ」
騎士は可哀想なことに、半泣きだ。だから騎士を守ってあげようかと思ったが……
ジョーだって悲しげな顔をしているではないか。そんなに泣きそうな顔、しないで欲しい。弱い者の味方をするべきなのに、ジョーの味方をしたくなってしまうから。
騎士はしゅんとして告げる。
「すみません……
アン様がお暇そうだったのと、戦っているジョセフ団長を見ると惚れ直されるかと思ったので……」
そう、まんまと惚れ直してしまった。ジョーは騎士たちから愛されていて、尊敬されていることを知って。なんてこと、言うとジョーが暴走しそうだから、言えるはずもないが。
「それと団長、国王が正式に謝罪されるとのことです。
アン様と王都に来て欲しいとの手紙を預かっています」
彼はそう告げ、ジョーに白い手紙を渡した。ジョーはそれを表情一つ変えずに読んだ。
この騎士は、ジョーを邪魔するために来たわけではなかったのかもしれない。ただ、タイミングが悪かっただけだ。彼はジョーのことを心から慕っているのに、気の毒になるのだった。
「そうか、ありがとう」
ジョーは騎士に告げる。
「それなら、早めにアンと王都へ向かおう。
帰りにポーレット侯爵領に寄って、ヘンリーに結婚式の日取りの報告をしておこう」
「うん……」
ジョーは優しい。こうやって、寂しく一人で領地に帰ったヘンリーお兄様を気遣ってくれるから。こんなに優しくて強いジョーと結婚出来るなんて、幸せだ。
「万が一に備えて、王都に行く前に護身術も教えないとな」
「うん」
「どっちにしても、俺はアンから離れないが」
私は、これからもずっとこうやって甘やかされるのだろう。そして、ますますジョーに溺れていくのだろう。
このジョーのまっすぐな言葉がいつの間にか心地よく、安心するようになってしまった。
私はこの甘い雰囲気に飲まれないように、出来る限り平静を装って告げる。
「ジョー、今日は治療院が休みだから出来なかったけど、傷口のガーゼ交換をしなきゃ」
「それなら、食事後にしてもらおう」
ジョーはそう言って私を離し、またちゅっと頬にキスをする。ジョーは至って普通なのに、私は動揺して真っ赤になる。
ジョーはどうしてそんなに平気なのだろう。どうして私だけ、いつまで経っても慣れないのだろう。
「随分女性に慣れてるね」
言いたくもない卑屈なことを言ってしまうが、
「慣れていない。生涯アンだけだ」
ジョーは甘い瞳で私を見たまま、ゾッとするほどの甘い声で告げる。
ジョーは反則だ。かっこいいだけではなく、こんなに甘くて色っぽくて……私がお子様に思えるほどだ。
ジョーは笑顔で私の頭を撫でながら、そっと告げた。
「本当は抱きたくて仕方がない。
それに俺は、毎日胸がときめいて止まないんだよ」
そんなにストレートに言わないで欲しい。私はますますジョーから離れられなくなってしまうから。
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