35. 彼の弱点は私のようです
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ジョーが出て行った扉を見ながらもドキドキしている私は、まだジョーの余韻に浸っている。こんな私に、ジョーとともに入ってきた騎士が告げる。
「今日は第一騎士団の訓練の日です。
もしよろしければ、アン様も第一騎士団の訓練を見学されますか?
ジョセフ団長の訓練を見れば、惚れ直されること間違いないでしょう」
惚れ直すも何も、ジョーが戦っているところは何度も見たことがある。そして、問答無用で強かった。これ以上ジョーに惚れられないほど惚れているのも事実だが、かっこいいジョーをもっと見たいと思ってしまう。
「ありがとうございます」
私は騎士に告げる。そして、
「ですが、ジョセフ様はまだ怪我が完治されていません。訓練をされても、大丈夫でしょうか」
気になっていたことを聞いた。
そう、ジョーの傷はもちろん治っていないし、今も一日に一回消毒とガーゼ交換をしている。あの傷に剣が当たったら、また出血してしまうに違いない。
「恐らく大丈夫でしょう。
誰も団長にダメージを負わせることが出来る人はいませんから」
そうなんだ……国内最強のオストワル辺境伯領騎士団の中でも、ジョーは極めて強いのだと改めて分かった。
話を聞く私に、彼は続けて告げる。
「ジョセフ団長は、今まで騎士団に全てを捧げてこられました。騎士団のことを第一に考え、危険な任務でも必ず遂行する。私たちも、団長に何度も命を助けられました。
団長はこれまで、浮ついた話も一切ありませんでした。そんな団長がアン様に初めて狂っておられるのです。
私たちは、アン様が団長のことをもっと好きになって欲しいと願うばかりです」
ジョーは幸せだろう、こんなにも周りの人に愛されて。
街の外に出ればジョーは怖い人になってしまうが、本当は誰よりも優しくて誰よりも正義感が強い。私は、こんなジョーに愛されて、幸せで仕方がない。
そして、もっと好きになれないほど、十分にジョーが大好きだ。
「ありがとうございます」
私は騎士に告げる。
「私も彼が幸せになれるよう、頑張ります」
幸せは一人では成り立たないから……だから、ジョーが私にしてくれたみたいに、私もジョーに愛を返したい。だけど、何かと恥ずかしくなって素直になれない自分もいるのだ。
このまま、私はこの騎士に連れられて騎士団本部に入った。前にも入ったことはあるが、あの時はジョーと塔に上っただけだった。
初めて入る騎士団本部は、それは広くて豪華で、多くの騎士が私を見て頭を下げる。しかも、なんと私のことを知っているのだ。
「こんにちは、アン様」
「アン様、これからもよろしくお願いします」
こちらこそお願いしますと頭を下げながらも、この騎士たちに散々世話になったことも思い出した。
黒い騎士が現れた時、ずっと護衛をしてくれていたし……私とヘンリーお兄様が襲われた時も、助けに来てくれた。
「あの……いつも色々と、ありがとうございます」
おずおずと告げたら、彼らはさらっとした笑顔で答えるのだ。
「ジョセフ団長の命令なら、私たちは喜んで従いますから。
その前に、ジョセフ団長がアン様を酷く好いていらっしゃるので、私たちは何でも協力したいと思うのです」
私の予想以上にジョセフ団長は騎士たちに好かれているらしい。こんな様子を見て、私まで嬉しくなってしまうのだった。
騎士は私を大きな建物の前に案内した。そして、石で出来た立派なその門をくぐる。そうしている間にも、建物の中からは剣を打ち付け合うような乾いた男と、男性の声が聞こえてくるのだった。それを聞き、騎士たちがここで訓練していることを悟る。
建物の前にいる騎士たちも私に頭を下げ、私も同様に頭を下げる。なかにはやはり、治療院で見たことのある人だっているのだ。
そして……階段を上った先で、急に視界が開けた。
目下には広大な闘技場が広がり、騎士たちが剣を振るって訓練をしていた。そしてこんなに騎士がいるとジョーを見つけるのが難しいと思ったが……ジョーは意外とすぐに見つかった。
騎士団長であるジョーは、もちろん部下を従え指導する立場なのだろう。打ち合いをする騎士のもとを歩き回り、何か教えているようだ。そんないつもと違う真剣なジョーを見ると、不覚にもときめいてしまう。
「ジョセフ団長は、幼い時から剣に生きてこられました。幼いジョセフ団長が次々に現役の騎士を打ち負かしていくので、騎士たちも負けてはいられないと訓練を頑張ったものです。
そしてジョセフ団長は問答無用の強さで団長に就任しましたが……この前の黒い騎士との戦いで、精神的ダメージを負ったようです。
ジョセフ様は自分がやられてしまったことにショックを受けたみたいですが、ジョセフ様でなかったら確実に死んでいたでしょう」
「そうなんですね……」
ジョーは自分に厳しく、まさに騎士の鏡だろう。そして、黒い騎士との顛末にショックを受けるのもおかしい。だって、あの時はポーレット領騎士団はかなりの劣勢だったし、ジョーは一人で百人近くを相手にしてすごいと思う。
むしろ反省しないといけないのは、ジョーを危険に晒した私だろう。
打ち合いが終わり、ジョーが騎士たちの中心で話をしている。時々剣を振るったり、構えたりしながら。だが、遠くにいるため何を言っているのか分からなかった。
騎士たちは、そんなジョーの話を真剣な面持ちで頷きながら聞いている。
こうやって、騎士たちをまとめているジョーを見て、改めてすごいと思った。そして、かっこいいとも思う。もちろん外見もかっこいいのだが、内面もすごくかっこいい……
ジョーの号令で、再び騎士たちは打ち合いを始める。今度は四人ほどの騎士がジョーに向かって飛びかかるが……
ジョーは表情一つ変えず、その四人を一瞬で打ち負かしてしまった。あまりに冷静で華麗なジョーの動きから、目が離せない。胸がドキドキする。
オストワル辺境伯領騎士団は、もちろん弱いわけではない。むしろ、王宮騎士団よりも強いと噂されている。その最強騎士団の中でも最強の、第一騎士団の騎士を、こうも簡単に打ち負かしてしまうなんて。
そうこうしているうちにも騎士が次々飛びかかるが、やはりジョーに勝てる人なんていない。真剣な顔のジョーに釘付けだ。ジョーって、戦っている姿もイケメンだ……
不意に顔を上げたジョーと視線がぶつかった。ジョーは驚いたように私を見て、私はぼっと顔に血が上る。
その瞬間……カキーン!!大きな音を立てて、部下の騎士の剣がジョーの腕に当たった。
あまりの衝撃に顔を歪めるジョーに、
「団長!!」
剣を投げ捨てて駆け寄る騎士たち。そんな様子を見ながら、酷くドキドキしてしまった。
ジョーはかっこよかったけど、私のせいだ。私のせいで、ジョーの注意が逸れてしまったのだ。
私を案内してくれた騎士が、額に手を当ててはぁーっとため息をつく。
「ジョセフ団長は最強ですが、アン様が弱点ですからね……」
もう、訓練は見ないでおこうと心に誓った。
完結までもう少しです!
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