エピローグ 数ヶ月後
朝は好きだ。彼女を思い出す。
頬を切る風は涼やかで、平穏な安らぎが感じられる。
毎日同じ陽光なのに、新鮮で新しい希望をくれる。
バイト終わりに彼女を迎えに行くことは無くなったけれど、新しい日課ができた。
悠人は寂れた鳥居をくぐる。境内は静寂に包まれている。あの事件以降さらに来訪する人がさらに減ってしまった。
大木はとっくに運び出されていて、以前の景色と変わらないはずなのに、雰囲気がまるで違う。
本殿が痛んでいるようだし、至る所の汚れが目につく。そのせいか覇気が感じられず、全体がよどんだ空気になっている。
「悠人!」
ふいに声をかけられる。見ると箒を持った康太がいた。
「おい、掃除が行き届いてないぞ」
「しょうがねえだろ。神様がいなくなったんだから」
「それもそうか」
神様がいない神社というのは珍しくはないらしい。康太の神社もシンがいなくなったことで、神様がいなくなった。
すると不思議なことに、神社全体が寂れて見えるようになってしまった。これは人間がどれだけ手入れしても、そう見えてしまう。というか感じてしまうらしい。
とはいえ神様がいなくなったからと言って、いきなり不都合なことが起こるわけではない。日常は続いていく。
不都合なことといえば、康太がサボっていると思われて、掃除が増えたことくらいだ。
「バズるご利益もなくなったしな」
「それは元からないだろ」
「何もない神社に来る物好きなんてお前くらいだよ」
康太が呆れるように言う。
「シンは信仰が力になるって言ってただろ? もしかしたら彼女に届くかもしれない」
「そんなこと……できるのか?」
「さあな」
根拠はゼロだ。史料を調べてみても何も記されていなかったし、意味のない行動かもしれない。
彼女が神様だったら、どれほどいいだろう。
「彼女に『またね』って言われたから」
それはまた会える日を願ってのこと。それなら信じて待つだけだ。
今にも左の方から彼女の声が聞こえてくる気がする。
「久しぶり」と。




