第2章 ⑥
怨霊は不条理な存在だと、悠人は考えていた。
自らを化してまで子どもを産んだのに、今度はそれを自ら殺そうというのだ。理解に苦しむが、それだけこの世に対する怨念が強いということなのかもしれない。あるいは親というのは案外どこもそんなものなのだろうか。
それだけ矛盾した行動を起こすのだから、彼女の母親はすでに理性がないか、あるいは意志の疎通がとれなくなっている可能性が高い。
しかし彼女は最近になって希死観念が頭を支配するようになったと言っていた。つまり母親は最近になって、彼女を殺そうとし始めたのだ。
どうして今になって?
そういえば考えもしなかったが、おかしな話だ。
悠人は歩きながら、視線を空に向けて考えを巡らす。
しかし怨霊について見識がないため、これ以上の推測は不可能だった。
そんなことを考えているうちに、彼女の家が近づいてきた。門の前には彼女が待ち構えていた。
「おはよう。それじゃあ行こうか」
直前までの憂慮を吹き飛ばすような笑みで、彼女は悠人を迎えた。
「そ、そうだね」
悠人はドギマギしながら、彼女の隣に並んで歩きだす。駅までの道のりには警戒する必要がある。それからはシンも見張ってくれる。隣にいれば、確実に助けられる。
そう思うと、彼女の隣を歩くことを正当化できる気がした。
「悠人くんってさ、どうしてバイトしてるの?」
「金がないんだ、ウチ」
この答えは半分ウソだった。ただ必要以上に話して、彼女に知られてしまうのも嫌だった。
悠人の母親はスナックでバイトしている。収入は定かではないが、子ども1人を育てられないほどではない。
しかしそのお金を悠人に使うことはない。それどころか買い出しなどは悠人が行なっている。家賃以外のほどんどの生活費は悠人が捻出する必要があった。
「じゃあ家族を支えてるんだね」
「まぁ、そうとも言えるかも」
「へぇ、凄いなあ」
彼女からの不相応な賞賛に、悠人は罪悪感とやるせなさで顔を歪めた。
やがて駅に着いた。ホームのベンチにはシンがいた。悠人が彼女と来ることが予想外だったのか、目を丸くした。
それにしても目立つところに猫がいるのに、誰一人騒いでいない。それどころか見向きもしていないようだ。
シンが何かしているのだろうか。神様だからそれくらいのことはできそうだ。
試しに彼女に聞いてみたが、猫は見えていないようだった。




