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機殻の中の魂:2

『出て行く』

 ゲールがシオンと邂逅していた時、アレクトは過去に思いを馳せていた。

『私、ここに居たくない』

 家出の前に父親にぶつけたのは、一方的な言葉だった。


 アレクトが父親──グレンの事を嫌うようになったのはいつ頃だったろう。

(確か、何でもない会話から──)

 時計の修理と共に過去の情景を見るアレクトは、自身の過去を振り返ってる。

 記憶を辿ると、最初は他愛のない会話からだったと彼女は気付いた。

『父さん。私、絵を描きたい』

 物心ついたアレクトがグレンにふと言った。絵描きになりたいという一言。

(確かあの時)

『……他の現実的な夢を目指すべきだぞ』

 そうグレンは言った。


 お互いそこから話そうとせず、それ以上膨む事は無かった短い会話。

 だが、その会話をきっかけとして燻りだした反抗心はそこから少しずつ燃え広がっていった。


「やっぱり腹が立ってきた」

 アレクトは時計を弄る手を止める。

『勝手に私の将来を決めないでよ!』

『安定した生き方をしろと言うんだ、いい加減理解しろ』

 少し前に見た記憶の情景では過去の自分とグレンが口論していた。

(怒ってる自分っての、見てるとなんとなく情けない気分になるわね……)


 仕事で家を空けるばかりのグレンとは会話もなく、アレクトの反感は日を増すごとに強くなっていた。

 そのうち帰宅したらグレンとの会話は口喧嘩だけになっていた。


「はぁ……」

 溜息を吐いたアレクトが机に突っ伏した。

「……………眠い」

 苛立ちを帯び始めた思考を止め、嫌な考えが消えるのを待つ。

 そんな彼女を誘うように、暖かな眠気がアレクトを襲い始めた。

(このまま寝たら……どうなるんだろ)

 アレクトはこの死後の世界で出会った最初の人物、レンフレッドの事を思い返していた。

『ずーーっと眠って、時々起きて街を眺めて……』

 常に夜の薄暗い街と共に微睡んで、時々目覚めては来客を待つ。

 思考を放棄したいアレクトは、その在り様にほんの少し惹かれていた。

(元の世界に戻っても……私の将来なんて──)


 アレクトの意識が数秒飛んだ。

 その瞬間、遠くから鉄の音が響いた。

「──はっ」

 悪寒を感じたアレクトは身体を起こす。

「……何今の?ゲール?」

 鉄の音の心当たりに声をかけるが返答は無い。

「……気のせいか」

 意識を取り戻したアレクトは背伸びして机に残った最後の懐中時計を手に取る。

(ゲールだって居るんだし、元の世界に帰らないと)

 いつも傍に居る相棒の事を思い出し、アレクトは意識を鮮明にする。

 最後に残った銀の懐中時計はアレクトが家出する前の物。

 16歳の誕生日にグレンが贈って来たが、受け取ろうとせず屋敷に置いて来た時計。

「……最後の時計か」

 不安と焦りを胸に、それでも気持ちは前向きで、アレクトは時計を握る。

「どうか帰れますように」

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