怖いと感じる前に飛び込んでみる:1
「どうしてまた?」
「私の家で時計直したらここに来たでしょ?だからもう一回同じことするの」
部屋にある懐中時計は全て動いていない。
決して少なくないそれらをアレクトは修理すると言うのだ。
「全部?」
「全部…………ううん、見覚えのあるヤツだけ」
部屋を回った後、幾つかに懐中時計を机に置く。
彼女の見覚えがある物。ライカンズデルにも存在した、誕生日にグレンから贈られた物だった。
「手伝いは要るか?」
「全部一人で出来るわ」
既に彼女は時計の裏蓋を開けていた。
こうなったアレクトは止めても無駄だと彼はよく知っている。
ゲールは作業部屋の扉を開け、廊下の様子を伺った。
「アレクト、灯りは余ってないか?」
ゲールも勝手知ったるその屋敷の廊下は不気味な暗闇で満たされていた。
アレクトは作業の手を止め、部屋の隅で見つけたランタンをゲールに手渡す。
「どうするの?」
ランタンの灯りが一人でに灯る。最早驚いた様子もなくそれをゲールに手渡す。
「私は屋敷を見て回る。外がどうなっているかも気になるからな」
「…………大丈夫なの?」
若干、アレクトの声が不安げになる。
「危険を感じたらすぐ戻ってくるよ、君の方も何かあればすぐ大声を上げてくれ。一通り回ったら戻ってくる」
ゲールが作業部屋を出る。
部屋の外からは微かな歯車の足音が響き、部屋の中は静寂で包まれた。
「そうそうアレクト」
「ひえっ」
ゲールが戻ってきた。
突然声をかけられたアレクトは素っ頓狂な声をあげた。
「私が戻ったらドアを3回、ゆっくりノックする」
「……はいはいわかった」
一度驚かされた為か、これで緊張感の質が変わったのか、いつもの様子でアレクトは応えた。