送り狼達:2
「アレクト、これを」
ゲールがアレクトへランタンを手渡す。
「私がアレを抑えておく、君は来た道を──」
「どりゃ」
ゲールはアレクトの盾となる事を覚悟していた。
ただ、返答は気の抜けた掛け声と、ゲールの背後から放物線を描いて飛んで行く薄紫の光だった。
「なに?」
ゲールがアレクトの方を見ると、彼女はついさっき手渡されたランタンを放り投げていた。薄紫の炎を灯したランタンが2体の死霊の方へと飛んで行き──
「うぁ…………!熱……熱い……!!」
死霊の少女にぶち当たり、紫の炎が少女と狼の身体を駆けるように走った。
「熱い……!痛いよ……!アア……アアァァ!!」
薄紫の炎が死霊の身体を焼く。
狼と少女、2体の死霊が悶え苦しんでいた。
通常、死霊が魔法を受ければ身体が崩れ、靄のように周囲に散る。
だがこの場所では違うらしい。
「助けて…………!」
狼の死霊は足から崩れ落ちた。
少女の方はゲールとアレクトに縋るように近づいて来る。
「……ゲール、行きましょ」
片手で懐中時計を握りしめ、もう片方でゲールと手を繋いで、アレクトは進み出す。
苦しむ死霊の隣を急ぎ足で通りすぎた。
アレクトは振り返らず、ゲールにしがみつくように歩く。
「待ってェ…………待テ!!」
突然の声と共にアレクトの手を氷のように冷たい手が引っ張った。
「──ゲールっ!」
アレクトに呼ばれるや否や、ゲールは彼女を抱えるように手を引っぱる。
死霊の少女の力は強いが、ゲールがアレクトを奪われる事はなかった。死霊の少女の手が離れ、アレクトの手から冷たい感触は離れて行く。
「…………あ、待って…………!」
ただ、アレクトの手から大事な物が滑り落ちた。
彼女の宝物、母の形見の懐中時計が腕に巻きつけた鎖ごと引きちぎれ、死霊の少女の手に収まっていた。
「……すまない、アレクト」
背後を一瞥したゲールは、そのままアレクトを走らせた。
アレクトも走りながら背後をずっと見ていた。
死霊の少女は銀の懐中時計を両手で持ち、ずっと眺め続けていた。