37話 藤野 玄人、ちょーっと、怒りました。②
「は……はん!そんなに怒気を出したところで何にも変わりゃしねえよ!おい!」
シャーブの右斜め後ろに立つ男がパチン、と指を鳴らした。すると、つい先日見たような男や、ゴブリンが俺を囲むように現れた。
「どうだ!もうおしまいだな!ザマァねえぜ!やっちまえ!」
シャーブがそういうと、男やゴブリンは一斉に襲いかかってきた。
数で押す作戦か……一掃したいな。でも魔力が足りないし、校長先生にもらったあれ、使ってみるか。
俺はポケットから紫色の塊を取り出す。これは、魔力の塊だ。
「……?」
どうやって使うんだ?
「食べろっ!」
俺が悩んでいると、校長先生が叫んだ。なるほど、食べるのか。
「いただきまーす」
得体の知れないものを食べるのは少し抵抗があるが、思い切って口に放り込む。
「んー……んっ!」
噛むと、プチっと弾けて、溶けていった。意外と美味しい。
と、俺がそんな呑気なことを考えていると、右からゴブリンが飛びかかってきた。
「はぁっ!」
俺は直ぐに剣を構え、カウンターで斬り捨てた。
「グギャァ……」
しかし……数が本当に多い。アイス・ヴァルエでとりあえず凍らせるか。
「《形質変化》!」
俺が剣を杖に変えたのを見て、シャーブは驚きながら言った。
「ふ、ふはは、バカじゃねえのか!?んなことに魔力使ったら瞬殺だぜ!やっちまえ!」
みんなそう言うよな。てか、やっちまえって言い過ぎじゃないか?
「うァがァぁぁ」「グギャッ」「ギャッ」
ほぼ全ての敵が、俺に向かって一斉に突っ込んできた。
……手前を凍らせて、足止めだな。
俺は、杖を正面に立てて魔力を注げるだけ注いで、スキルを放った。
「まず、1手目だ。《アイス・ヴァルエ》」
俺がそういうと、俺を中心に波紋が……
「グギャァァァァァ!」「ウゥがァっ!」
あ、あれ?
俺を中心に波紋が広がったはずが、いつのまにか敵の上半身と下半身が分断されている。
んー?何が起きたんだ?……波紋で切った、のか?
「ギャッ!」「ウゥガァあ!」
再び、敵が俺に群がってくる。もう一回、何が起きたか見てみよう。
「《アイス・ヴァルエ》!」
まず、俺を中心に波紋が広がった。次に、敵に触れる。そして、切れた。
「つっよ……」
思わず、そう呟いてしまった。それにしても、こんな使い方があったとは……
ただ、それなりに魔力を消耗するみたいだ。
「お、おい!何をビビってやがる!おい召喚士!お前、一番つええのだせや!金は払う!」
シャーブが口角泡を飛ばしながら言った。一番ビビってるのはお前だろって言いたい。
そのシャーブの言葉に応じるように、シャーブの右側のフードをかぶった男が一歩前に出て、口を開いた。
「私がおののく訳ないだろう。レベル120だぞ?……まあいい。少し時間をもらおう」
召喚だと?見てみたい……てか、レベル120?やばくないか……今はあいつを無力化するのが先だな。
「させるかっ!」
俺は召喚士に向かって走る。
「足止めしろ!」
「出でるは我、応ずは志」
俺の前にゴブリンや男が立ちはだかる。そして、その間にも詠唱は続く。
「心は心を持ちて、体は魔を持ちて封ず、解く」
「邪魔だっ!」
俺は《レフォースΔ》の効果で敵を飛び越える。が、その先にも敵。
「間に合わないっ……」
そして、詠唱が終わった。
「––––『召喚』ジェネラル・ゴブリン」
「えっ?ジェネラル・ゴブリン?その程度か……」
その程度って言っても、前に負けてる訳だが、今はもっと強くなったしな。
「……なんか、怒る気が失せてきたかもしれない」
まあ、二人を棘で刺したことは許さないが。
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