34話 藤野 玄人、決勝戦、頑張っています。①
そして、決勝当日。ここまで、ぬるっときた感じがあってなんだか緊張感がない。ただ、相手はディアブルだし、犯人が何かしてくるかもしれないしと、心配なことは多い。
「めーがみーさまー、今日もお見守りくーださい」
だんだんお祈りも適当になってきたな……ま、いいや。
「さー、行くか」
靴を履いてドアを開けると、昨日一緒にいた五人と、ジャックがいた。
「お、出てきた出てきた!」
「おはよう、玄人!」
「お、おはよう……ど、どうしたんだ?」
俺の疑問にジャックが答える。
「いや、決勝だろ?やっぱ見に行かねえとなって思ってよ!でも、そのまま会場行っちまうと直接応援できねえから、お前の部屋まで来たんだよ!」
「な、なるほど……」
それは素直にありがとうだな。
「つーことで、俺らも決勝観に行くから絶対負けんなよ!」
「ああ、わかっ…………」
いや、相手はディアブルだぞ?無理か?……無理か。
「……りはしないけど全力で頑張ってくるよ」
「そこは分かったって言えよ」
はい、その通りです。
『それでは、選手が入場します』
そのアナウンスを聞いて、俺は立ち上がる。
「……緊張してきた」
思ってみれば、俺は本番というものにすこぶる弱い。発表会や運動会でも、本番の時には足がガクブルしていた。
「あー、やべ!やべーよ!」
俺はたまらずその場でジャンプする。
「…………落ち着け、俺。落ち着け、藤野 玄人。お前は、緊張していない。してないったらしてない」
自分に暗示をかけ、控え室を出て廊下を歩いていく。
『それでは入場していただきましょう。藤野 玄人選手!』
俺はゆっくりと歩いてい……
「え、人多すぎない?」
満席だった。俺はなんとか脚を動かし、歩いていく。
『ディアブル=ガーブ選手!』
ディアブルが、スキップになりそうな歩き方でこちらに歩いてくる。
『さあ、どんな試合になるのでしょうか!?それでは始めましょう!』
「決勝戦!藤野 玄人対ディアブル=ガーブ!……始めっ!」
「《レフォースΔ》《レフォースΔ》《レフォースΔ》!」
俺はひとまずスキルを三重にかける。
直後、本能的に危機を感じ、左に大きく飛ぶ。
すると、その離れた壁が凹む。
「は、ははは…………」
思わず、乾いた笑いが漏れる。
いつ、攻撃された?いや、そもそも動いたのか?というか、《レフォース》を使ってすらいないのにあの威力?勝てるわけないだろ。バケモンじゃねぇか。
俺が困惑していると、ディアブルが口を開いた。
「ふふふ……ねえねえ、今の避けれるんだね!うん、やっぱり楽しくなりそうだね!うん!《レフォースΔ》バイテン!」
あかん、命の危機しか感じない。てか、何?売店?倍?テン?十?十倍?頭おかしいだろ!?
「《冷蔵庫》!《形質変化》!」
俺は盾をディアブルに向かって突き出す。すると、急に目の前に彼が現れた。
「てえいっ!」
ディアブルが、俺に向かって右ストレートを叩き込んでくる。
「ぐわっ!」
どっしりと構えていたにも関わらず、ただのパンチ一発で俺は後方へ飛ばされた。観客からは、俺が弾丸のように見えるんじゃないだろうか。
俺は、頭から、壁に対して垂直に突き刺さる。
「んぐぐぐぐ……ぶっはあっ!うべっ」
足を壁につけ、頭を思いっきり引っ張ってーー横から見たら壁にブリッジしてるようにしか見えないんだろうなーーなんとか抜ける。勢い余って今度は地面に突っ込みそうになったのはここだけの秘密だ。
「あ゛ー……痛い……」
俺が立ち上がると、会場が静まり返った。
「ん?どうしたんだ?」
「フジノ君……君は、すごいね……今のパンチは、全力だったのに……うん……耐えたんだね……」
それを聞いて、俺は勝てるかもしれない、と思った。
あれで全力なら、ディアブルの言う通り、まだ耐えれる。
近づきさえできれば、勝機はくるだろう。
「《形質変化》!」
俺は防御しても無駄だろうと割り切り、盾を剣に変えて攻撃に専念する。
「はあっ!」
力強く地面を蹴り、ディアブルに向かって真っ直ぐに突っ込んでいく。
「ぜあ゛っ!」
まずは、全力で袈裟斬りを繰り出す。
「うわっ!」
すると、ディアブルは素っ頓狂な声を出しながら居合斬りの要領で剣を抜き、俺の攻撃を防いできた。
「《冷蔵庫》!」
俺は左に《冷蔵庫》を顕現し、ディアブルの顔面めがけて水を放つ。
「ぶばっ!」
たまらず、ディアブルは後ろに退がる。
「そこだっ!」
俺は間髪入れずに左から斬りはらう。
「うぐっ」
ディアブルの胸に浅い傷がつき、鮮血が飛び散る。
追い打ちをかけようとしたが、後ろに大きく飛ばれたので断念。
「うんうん!やるね!僕も少し本気出しちゃおうかな!うん!」
やっぱりというか、まだ本気じゃなかったのか。試合はここからデッドヒートしそうだ。
ここまで読んでいただきありがとうございます。




