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32話 藤野 玄人、事件に巻き込まれました。③

 俺は二人の元へ一直線に走る。だが、二人がいる場所に、灰色の横棒が現れる。


 斧で横薙ぎしようとしているのだろう。そう思った時、全身から力が抜けた。


「あぁ……」


 ーーっ!ダメだ、まだ見えないだけ。追いつけば助けられる!


 俺は思い直し、再び体に力を入れ、地面を蹴る。すると。


「うん?…………いっだぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 急に視界が変わったと思った瞬間、激しい痛みが俺を襲った。


「「…………え?」」


「うぅ……いだい……じぬ……」


 やばいってこれ死ぬ、マジで死ぬ。俺の頭がマトリョシカする……!あぁ、頭から脳みそが出る……!


「ぅ、あ、ガ、ァぁ……」


 はー、ひー、いたい……あー、ようやく痛みが引いてきた……どの辺打ったんだ?ここか……?


「いっだ!」


 え、待って?めっちゃたんこぶになってんだけど?


「えーっと……神よ神、加護持って命とせよ……」


 正体不明の痛みの治療のために、『サイン・メイテ』を唱える。


「……ふー……ん?」


 どうやら俺は四つん這いになっていたようだ。


 今の状況を把握するために頭を上げると、目の前にはゲインとクルガが居る。


「二人とも!無事だったのか!?」


「ああ……」


「うん、助かった、けど……」


「どうしたんだ?」


 二人はなんだかおどおどしている。どうしたんだ?


「君の方は、大丈夫なのかい?」


「いや、大丈夫じゃないな。急に、正体不明の頭痛に襲われた」


 俺がそう言うと、ゲインはスッと俺の後ろを指差す。


 俺はその先へ、視線を移動させる。そこにいたのは。


「えっ?誰が倒したんだ?」


 巨漢は、腹に斧が刺さって、倒れている。


「そりゃあ、わからないのも無理はないか……君は、ついさっきこっちに走ってきたよね?」


「ああ、そうだな」


「その時に、君は勢い余って斧に突っ込んだんだよ。そしたら、あの有様さ」


 なーるほどね。全部理解できたわ。


「動くな」


 俺の頭の中がスッキリしたと思ったら、今度は低い声が聞こえた。


 ああ、そういえばこんな状況だったわ。ぶつかった時の衝撃で忘れてた。


 そんなことを考えながら辺りを見回すと、無数の棒ーーいや、かなり細いから、針だなーーが俺たちを囲っていた。


「一歩でも動けば殺す。抵抗の意思を見せれば殺す。その上に、爆弾を爆破する」


「そうじゃなくても、殺すんだろ」


 ゲインが、少し間を空けて答える。多分、時間稼ぎだろう。


「当たり前だ。それが俺の任務だからな」


「ふうん……風壁よ!『ヴェンマ』!」


 円形の壁が、俺たちの前方に数枚、現れる。


「ふん……燃えよ。『レーフ』」


「くっ!藤野君、僕が魔法を解いたらスキルを!」


 いきなり、そんなことを言われ、直後、壁が消える。だが、ここで俺が遅れることはない。なぜなら、日本では、上司の無茶振りを入社二日目にしてこなせるようになり、それをこっちに来るまで毎日続けていたからな!


「《アイス・ヴァルエ》!《形質変化》!」


 俺はすぐさま、スキルを使う。それから、一応盾を横に広げておく。何があっても対応できるように。


「かかったな。廻れ廻れ風に従属なる牢へ…『タービル・バース』」


 『タービル・バース』……確か、トーナメントでも使われた気がする。なら、あの時の対処法でいいかな?


「《冷蔵庫》!二人とも、どっしり構えろ!」


「う、うん」


「お、おう!」


 俺たちの頭上に、風の塊が現れ、そのさらに上に《冷蔵庫》が現れる。ーーそして。


「ぐっ!」


「ぐおっ!」


 風が体に乗り、直後、水がそれを洗い流す。


「……なんだ?」


 ゲインとクルガは、何が起こったのかわからなかったようだ。


「往生際の悪い……射貫き制せ、動を、歩を。風魔法『タービル・ビーガ』」


 彼が唱えた瞬間、彼の両隣に、整列するように数十本の針が、いや、槍が並ぶ。そして、俺たちの体に、絡みつくように風が渦巻く。


「くっ……」


「おっおい、うごけねえぞ!?」


「終わりだ。死ね、藤野 玄人」


 俺たちに槍が殺到する。


「くっ……」


 これは、本当にまずい。身動きが取れない。あ、口は動くか。


「冷蔵……もごもご!」


 俺は《冷蔵庫》の中に取り入れて回避を試みたが、男に口を塞がれた。俺は無詠唱で発現出来ないから、どうしようもない。



「想定以上に手こずったな。さっさと次の任務に行くか」


 目の前に槍が近づく。もうすぐ、死ぬ。


 俺は目を瞑った。そしてーー


「ふむ、それはいただけないな」


 死ぬことは、無かった。


「すまん、遅れたな」

ここまで読んでいただきありがとうございます。

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