31話 藤野 玄人、事件に巻き込まれました。②
「二人とも、大丈夫か!?」
俺たちは、巨漢を挟んで三つに分断されてしまった。
「うん、僕は大丈夫だ。君らは!?」
「俺もなんとか平気だぜ……」
「良かった良かっ……あれ?」
声は聞こえるけど、姿が見えない。間には巨漢。
ぐいーっと、見上げてみる。
「おおー……は?」
巨漢、何メートルあるんだろう。もう普通の人間の比じゃない。
そしてその手には、その身長に比例する、大きな斧。
「う……」
俺が驚いていると、斧が振り上げられた。その方向は、ゲイン。
「ゲインッ!避けろ!」
俺は咄嗟に叫ぶが、ゲインは全く動くそぶりを見せない。
「おいっ!」
「はあ……この程度の攻撃、避けるに値しないね……風壁よ。風魔法『ヴェンマ』」
ゲインが唱えると、彼の前方に丸い壁のようなものが現れた。
ガキン、と甲高い音が鳴る。
え、強……
「玄人後ろ!」
その声に、俺はハッと我にかえる。そして、すぐに後ろを向くと、男がバットのような物を振り上げていた。
「《冷蔵庫》!《形質変化》!」
俺はすぐさま杖を取り出し、盾に変形する。
「うァぁァぁ」
俺が攻撃を受け止めた時、背後から別の男がバットを振りかぶってきた。
「《アイス・ヴァルエ》!」
俺はその男を凍らせ、ギリギリなところでダメージを回避する。
《アイス・ヴァルエ》は全方位に有効だから、バットを持った男も凍る。
「ふぅ……って」
目の前で凍っている男を蹴飛ばすと、じわじわと近づいてきている奴らが見えた。
「もう一発!《形質変化》!《アイス・ヴァルエ》!」
盾を杖に変え、魔力を目一杯注ぐ。
どんどん波紋が広がっていく。あと数秒で凍るので、俺は巨漢の方を向く。すると。
「貴様が藤野 玄人か」
背後から、低く響くような、男の声が聞こえた。
俺は再び後ろを向く。どうやら、声の主は男たちの奥にいるようだ。
「《形質変化》……誰だ」
俺は杖を盾に変えて警戒する。
「どけ」
そう聞こえた瞬間、【暴化】が付与されている男たちが、ザッと道を開けた。
なんで命令に従うんだ?あれか?魔法をかけた張本人か?んで、そいつの命令だけ聞くのか?
「私の名は……と、教えるわけがないだろう。なんといっても、殺し屋だからな」
そう言って俺の前に立った男は、長い白髪を持ち、黒いコートを着ていた。
殺し屋って言っちゃってるじゃないか。
「いきなりだが、藤野 玄人。貴様には、死んでもらう」
ほんとにいきなりだな。いや、この状況を見るとそうでもないか。
「先生方はもう来るはずだ。それまで粘ろう」
そう言ったのは、俺の横に立つゲイン。いつ来たんだよ。
「学校の方に逃げたほうがいいんじゃないか?」
と、俺の左側に立つ、クルガ。お前もいつ来たんだよ。
そう思って振り向くと、二人が戦っていた男たちは、全員横にずれていた。
「ふん、逃げても抵抗しても無駄だ。その瞬間に、セットしてある爆弾で、ドン、だからな」
「っ!お前!この街に爆弾を仕掛けたのか!」
「ああ。目標はなんとしても殺さなければならない。クライアントの要望だからな」
爆弾が爆発する可能性があるこの状況であいつを刺激するのは危険だけど、この流れで誰が依頼したのかとか聞けそうな気がする。
「ちなみに、依頼人は誰だ?」
「バカか、それを教えるわけがないだろう」
「どうせ俺は殺されるんだろう?ならいいじゃないか」
「ふん……なら、さっさと殺してやろうーー射貫け。風魔法『タービル・アイガ』」
殺し屋がそう言った瞬間、彼の周りに先の尖った棒が現れる。
なんだ、あれ……
何かは分からないが、刺さったら痛いってことは分かる。
「行け」
棒が、俺達目掛けて飛んでくる。
「くっ……」
俺は、二人に被害が及ばないように盾を広げようとする。
「大丈夫だよ、藤野君。風壁よ。風魔法『ヴェンマ』」
するゲインが唱えると、さっきのように、俺たちの前に円状の壁が現れれ、棒を弾いた。
「ちっ……行け、お前ら」
彼がそう言うと、周りにいた男達が一気に俺達に向かってこん棒を振り下ろしてくる。
「避けろっ!」
俺たちはすぐに後ろに飛び退く。
「うガァァァァァ!!」
すると、巨漢が手に持っていた斧を横薙ぎしてくる。
「しゃがめ!」
「っ……ぐはぁっ!」
「ぐわぁぁっ!」
俺はなんとか回避したものの、二人は斧によって壁に叩きつけられた。
「大丈夫か!」
俺は慌てて二人の方へ駆け寄る。
「うガァァ!」
そこへ、待ってましたと言わんばかりに巨漢がもう一発、斧を振り下ろしてくる。
「くっ!」
俺の盾に斧がぶつかり、ガギン、と金属音が響く。
「ぐぅっ……」
「うガァ!」
今度は、横から別の男がこん棒で攻撃してくる。巨漢の斧を受けている俺は、その攻撃を防御できるはずもなく、肩に打撃を受けてしまう。
「ぐあっ」
「んがぁぁぁぁ!」
俺がよろけた隙に、斧が何度も振り下ろされる。
「ぐっ、ぐあっ、くうっ……」
最後には、思いっきり横薙ぎされて、吹き飛ばされてしまった。
「ぐはぁっ」
俺はすぐに立ち上がり、巨漢の方を向く。すると、奴はゲインとクルガに向けて斧を振り上げていた。
「危ない!」
このままじゃ二人が危ない!どうする!?
「くっ……《レフォースΔ》!」
俺は、体の痛みを無視して、身体強化を体にかけて走る。
「うがぁぁぁ!!」
間に合えっ!
そして、斧が振り下ろされる。コンマ1秒、2秒……
「だぁぁぁぁぁ!」
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