30話 藤野 玄人、事件に巻き込まれました。
俺たちは今、【暴化】が付与されているらしい男性を隠れて見張っている。今見えているのは、四、五人だ。路地裏にいる。もしかしたら、その奥にもっといるかもしれない。
【暴化】というと、昨日と今朝、校長先生の話に出てきた、犯人が関わっているかもしれない。
「二人とも、ちょっと聞いておきたいことがある」
俺は小さな声で、二人に言う。
「今、レベルはいくつだ?」
「俺は20だ」と、クルガ。俺と一緒か。
「僕は30ですね」と、ゲイン。
え、俺より高いのかよ。
俺が驚いていると、クルガがフォローしてくれた。
「大丈夫だ、玄人。あいつは、学年トップクラスだから」
「そ、そうか、よかった……って、今それはいいんだ」
「うん、最悪の場合に備えて心の準備をしておけってことだね」
ゲインはもう想定済みなんだろうな。頭良さそうだし。
「さ、最悪の場合?」
「ああ、あいつらが暴れ始めたら、俺たちで時間稼ぎしないといけないからな」
「……お、おう」
「まあ、そんな時が来ないのが一番なんだけどな」
「……それは、無理みたいだね」
「それって……」
ゲインがそう告げると、クルガは少し慌てるような表情を見せる。
「どういうことだ?」
「そういえば藤野君は魔力感知ができなかったね……クルガは、分かるだろう?」
「……おい、やばくないか?」
「本当にね」
「すまん、俺にも分かるように頼む」
なんか、仲間はずれみたいだ。
「ああ……端的にいえば、大人数で囲まれている」
「ほー……やばいな」
最悪、校長先生にもらったやつを使うしかないか。
〜キャルロット=シャルミリア視点〜
私たちは今、下駄箱にいる。
「シュナ、校長室ってどっちだっけ?」
「あ、えと、確かこっちだった気が……あれ?こっちだっけ?」
シュナは、その場でおろおろしている。この子、焦るとこうなのよね。落ち着いているときは、しっかりしているのだけど。
「こっちだよ、二人とも!」
ミルが右に進む。
「そうだった、ありがとミル」
三人で廊下を走る。ポスターに、『廊下は静かに右側を』とか書いてある気がしたけど、気にしない。
そこから、階段を登る。すると、すぐそこに見えた。
「あった、校長室」
私が呟いた瞬間、ミルがドアを勢いよく開ける。
「ん?どうした」
「校長先生、ちょっと!大変なの!」
「ミル、一旦落ち着いてね?」
「はっ、ごめん」
「それで、どうしたんだ?」
「えっと、今、玄人と……えっと、決勝に出る男の子」
「ああ、知っている」
「で、えと」
焦りすぎて言葉が出ていない。
「ミル、私が話すわ」
「あ、うん、お願い」
「先ほどまで六人で食事をとっていたんですが、帰り道でゲイン君が怪しい人たちを見つけました。魔力感知したところ、その人たちには【暴化】が付与されていたらしくて。それで、万が一を考えて、私たちが先生方を呼びにきました」
「なるほどな。しかし、先生方はほぼ全員帰宅されたからな……わかった、私が行こう。案内を頼む」
「わかりました」
私がそう返事をすると、校長先生が私に触れる。
「三人で手を繋いでくれ」
なんのためだろう。でも、考えてもわからなさそうなので、言われた通りに手を繋ぐ。
「じゃあ、行こうか」
そういうと、校長先生は窓を開けてーー飛んだ。
……《レフォース》使ってないけど?
「いやあぁぁぁぁぁぁ!」
「わーーーーーー!」
「きゃぁぁぁぁーー!」
どれが私の悲鳴だったんだろう。
そのまま、少し落ちる。すると、急に落ちる感覚がなくなった。
「はれぇ?」
私たちは、宙に浮いている。
「な、なにこれ」
球状の薄い膜のようなものがあり、その中に入っている。
「で、どこだ?」
外には、薄い膜を掴んだ、校長先生。
え?どうなってるの?
「おーい」
「あっ、すみません。えっと、向こうです!」
私は西を指差す。
「ふむ……いた。すまないが、少し飛ばすぞ?」
そう言われた時には、外の景色が激しく変わり続けていた。
「…………レベルがちがうね」
ミルが、呆けた顔で言った。
〜藤野 玄人視点〜
「……まずいね。どんどん近づいてきている」
「ど、どうするんだよ、玄人?」
「ギリギリまで粘ろう。もう少しで、先生が来てくれると思うから」
三人が学校に向かってから15分ほど経った。もうすぐだろう。
「もう、粘れなさそうだけどね」
そう言って、ゲインは振り向いた。
「まじかよ……」
木箱の陰に隠れていた俺たちの背後に、すでにいた。
「うガァ!」
「避けろっ!」
ゲインの声で、俺は左に飛ぶ。
「あっぶねぇ……」
見ると、木箱が跡形もなく壊れていた。
「大丈夫か!」
「ああ」「お、おう」
二人も、こっちに飛び退いていた。
「で、どうするんだい?」
言うまでもなく、四面楚歌。男に囲まれている。
「そうだな……二人とも、おれの近くに」
「わかった」
「おう?」
「《冷蔵庫》」
おれは、杖を取り出す。すると、何か感じたのか、数人が突っ込んできた。
「すこし、遅かったな。《アイス・ヴァルエ》!」
俺は、完全に凍らせるつもりで、魔力を注ぎ込む。すると、そいつらの全身は氷で包まれた。
男と男の間にあったスペースを通って、少し奥のやつら数人も凍る。
「ふぅっ」
これを続けていればいずれは全員凍るんだろうけど、魔力の消費が激しいし吸い取れる魔力も少ない。確実に、俺の方がもたないだろう。
校長先生にもらったやつを使っても、足りないと思う。
「す、すげえ……」
「ああ、確かにすごいね。でも、魔力が足りなくなるんじゃないかい?」
「……よく分かったな」
「まあね。で、一人ずつ戦闘不能にするのかい?」
「どうしようか……」
「おい二人とも!上!」
クルガにそう言われて上を見ると、
「避けろっ!」
巨漢が、落ちてきていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
30話ですよー!




