29話 藤野 玄人、親交を深めました。
今、六人で寮の前にいる。シュナさんに《冷蔵庫》を見せるためだ。
「《冷蔵庫》」
俺はシュナさんと並び、正面に《冷蔵庫》を顕現する。
「こ、これが……」
シュナさんがまじまじと見つめる。自分が見られてるわけじゃないけど、なんか恥ずかしいな。
「あ、あの!手、入れてみても良いですか!?」
「あ、ああ。多分大丈夫だと思う」
俺がそう言うと、シュナさんは手をずぼっ、と勢いよく突っ込んだ。
「んー……なるほど……」
なんか一人で喋ってるけど、何がなるほどなんだろう。
「冷たいです……特に、何も入ってない……」
へぇ、他の人が手突っ込んでも、何にも触れないのか。
《冷蔵庫》の中の感覚を、目を閉じて意識してみる。
「……おおー……」
シュナさんの手がある。俺は試しに、その手に氷を近づけてみる。
「ん?これは……ひゃっ!?」
どうやら、手で氷を掴んだみたいだ。
「どう?」
「はい……なんか近くにあるなって思ったら、氷でした」
ちなみに、今シュナさんが手を入れたのは冷凍庫。杖とかも、そこに入っている。というか、他は冷蔵庫に水が入ってるくらいだろうか。
それから数分間、シュナさんは手を入れたり出したり、中で手をモニョモニョさせていた。
「ねえシュナ。次、僕いいかい?」
シュナさんに後ろからそう言ったのは、ゲイン。
「あ、うん。ありがとう、藤野君!」
「僕は、杖を見せてもらいたい」
「おっけ」
俺はそう言うと、《冷蔵庫》から杖を取り出し、ゲインに渡す。
「はい」
「ありがとう……」
彼も彼で、杖をまじまじと見つめる。
「ほぅ……なるほど……」
だから、何がなるほどなんだよ。
「藤野君。この杖には、任意発動のスキルがあるよね?それを使ってもらいたい」
「ああ、いいぞ……でも、周りが凍るかもしれないから、出力は弱くていいか?」
「全然構わない」
俺はゲインから杖を返してもらう。
「《アイス・ヴァルエ》」
俺を中心に、波紋が広がっていき、五人に薄い氷が張り付く。
「おお……これが……ん?これは、魔力を吸っているのか?」
「多分、そうだと思う。俺の方には、魔力が入ってきてる」
他の四人の魔力も同じように俺に入っている筈だ。いつつの魔力とか分かるわけないけどな。
「……ありがとう、満足した」
そう言うと、ゲインは氷を破る。
「そうか、それなら良かった」
「なあ、次は俺いいか?」
そう言って、クルガが歩いてきた。
「玄人、俺と戦ってくれよ!」
うん、そんな気がしてた。
「あー、いいけど、明日に影響出るかもしれないから……今度でもいいか?」
「そうか……分かった、今度絶対戦ってくれよ!」
「おう」
残るは、ミルさんだけか。でも、友達になりたいって何したらいいんだ?いや、日本に友達がいなかったわけじゃないぞ?そういうわけじゃないけどさあ……
「えーっと、最後はミルさんなんだけど……」
「はいはーい!んーと、ミルでいいよ!よろしくね、玄人!」
ミルさんーーたった今から、ミルと呼ぶことになったーーが、手を差し出してくる。握手だろうか。
俺は、手を伸ばしてミルの手を、手を……いや、女友達がいなかったわけでもないと思うぞ?多分。
「はい!あくしゅー!よろしくよろしく!」
ミルは、俺の手をつかむ。
「あ、ああ、よろしく」
大丈夫だよな?この場合、セクハラにはならないよな?
「あ、私も握手してください!」「ああ、僕も頼むよ」「ずりいぞ!俺も俺も!」
…………一つだけつっこみたい。
俺、アイドルちゃうぞ?
そんなこんなで、今日1日は六人で遊んだ。最初は俺の部屋で質問責めにあい、その後はご飯を食べに街を歩いたりした。
「じゃあ、そろそろ帰ろうか」
日が暮れてきたので、寮に戻らないと。
「そうだね…………ちょっと、玄人君」
歩いていこうとすると、ゲインに呼び止められた。
「なんだ?」
「あれ、分かる?」
その視線の先には、人が数人。
「ああ、分かるけど……人だよな?あれがどうかしたのか?」
「……君は魔力感知ができないのかい?」
「すまん、全く」
「まあいいか。今あそこに見えてる彼ら……【暴化】が付与されているみたいだ」
「…………あー……そっか……」
「どうする?学校に知らせるかい?僕はその方がいいと思うけど」
そう言われ、俺は振り返って残りの四人を見る。
「……そうだな、女子で呼びに行ってくれるか?俺たちは、一応見張っておこう」
「うん、わかった。いこう、二人とも」
キャルロットがそう言って、三人は学校へと走っていった。
……こういう事件っぽいのに街で巻き込まれるのって、主人公補正なのかな?
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