27話 藤野 玄人、スキルを学びました。
「ふー……」
俺は今、控え室のソファに腰掛けている。
さっきの試合で、だいぶ消耗したし、次に備えて休んでおかないと……と、思ったんだけど。
「ねえねえ」
誰かに話しかけられた。
声がした方を見ると。
「やあ」
声の主は、ディアブル=ガーブだった。
「っ……!」
「? どうしたのさ?」
「い、いや、なんでもない……」
この人が、ディアブル……
緊張感が無く、威圧感もない。
【暴化】も付与されてない……かな?
「ねえねえねえ!でさ、君が藤野 玄人君だよね!」
「お、おう……」
「うんうん!ねえ、あれ見せてよ!なんか出てくるやつ!」
《冷蔵庫》の事を言っているのだろうか。
「えーっと、ごめん。もしかしたら、決勝で当たるかもしれないわけだろ?その相手に、情報は与えたくないかなー、なんて」
「うんうんうん!そうだね!君は頭も切れるんだ!じゃあ、試合が終わったら見せてね!」
「あ、ああ……」
なんだこいつ、すごい接しにくいな。
「うん!じゃあ、決勝を楽しみにしてるね!他の子は面白くないんだよね!君は面白そうだからね!うんうん!負けないでね!」
と、俺がディアブルに気圧されていると。
「ん!僕、トイレ行ってくるね!」と、急に立ち上がった。
ディアブルが、ドアを開けて出てていく。
「……《情報視認α》……」
少しでも相手の情報を得ようと思い、隙を見て、スキルを発動させる。
『ディアブル=ガーブ Lv45
《スキル》
《レフォースΔ》
《魔化》
《???》
etc』
……etcか……一体いくつスキルを持ってるんだろうか……てか、レベル45かよ……本当に生徒になれる年齢なのかよ。
「っ!」
今、ドアを閉める時、ディアブルがこっちを見て笑っているのが見えた気がした。
〜ディアブル=ガーブ視点〜
もうちょっとで僕の番かなー。
『ディアブル=ガーブ選手、イオラグ=オーカ選手、入場してください』
うんうん、やっぱりねー。それにしても、さっきの子!フジノ君?だっけ?面白そーだよねー!早く戦いたいなー!うんうん!
そんな事を考えてたら、いつのまにか入場してた。
「Bブロック準決勝第2試合……始めっ!」
「《レフォースα》《レフォースα》《レフォースα》《レフォースα》!」
なんか虫が吠えてるなあ。たったの四重か。フジノ君なら、十重くらい無意識でもできそうだよねー。うんうん!でも彼さ、《レフォース》系はまだ使ってないよね!使えないのかな?なら、戦う前に教えてあげないとね!うん!
「ぅぅぅぅァアぁぅうあああ!」
うるさいなあ。ねえ、この虫にも【暴化】が付与されてるよね!
「五月蝿いよ」
「うアァァァァォァ!」
あ、飛んでっちゃった。デコピンしただけなのに。
「戦闘不能……心臓は動いてる……しょ……勝者、ディアブル=ガーブ……」
「やっぱり弱いなー」
虫は虫か。
〜藤野 玄人視点〜
は?ディアブル……ばけもんかよ……デコピン一発?チートだろ。
頭の中でチートという言葉をぐるぐると巡らせていると、控え室のドアが開いた。入ってきたのはディアブル。
「ねえねえ!弱すぎだよね!」
「あ、そ、そうか……」
ディアブルが俺が座っているソファに腰掛ける。
「ねえねえ!フジノ君!君さ、《レフォース》は使える?」
「い、いや、使えないけど」
い、いきなりなんだ?
「やっぱりね!うんうん!そうだと思った!ねえ、教えてあげるよ!」
え?こいつバカなのか?決勝で当たるかもしれない相手だぞ?……あーはいはい。見下してんだろ。たしかに、それぐらいディアブルは強いしな。
てことは、舐めプか。ちくしょう、乗ってやるぜ。んで、後悔しろや。
「いいのか?」
「うんうん!それじゃあ、外で練習しようか!」
「えーっと、まずはイメージだよ!うん!ゴーレムに指で押しつぶされる想像をしてみて!」
ゴーレムに押しつぶされる、か。まあ、もともと、夜寝るときには色々異世界行く想像とかしてたし、楽にできるかな。
「んーーー」
俺は、思い浮かべる。目の前には、どれだけ上を向いても、顔の見えないほど大きいゴーレム。そして、その手が近づいてくる。……あ、プチって潰された。
「ーー終わったぞ」
「うんうん!上出来だね!でも、そのままだと死んじゃうよね!だからね、押し返すんだよ!体の中身から力を出して!うん、押し返すってより、指に触って吹き飛ばすんだ!」
ええっと……飛ばす……あ、星になって消えた。
「ーー終わったが?」
「うん!いいね!それが、《レフォース》だよ!」
「は?全く使えるようにならないんだが」
「そうだよ!うん!今から、手押し相撲してみようか!」
手押し相撲は、足を動かさずに、相手の手だけを手で押して、相手が動いたら勝ち、自分が動いたら負けというゲームだ。というか、こっちの世界にもあるんだな。
「なんでだ?」
「いいから!」
「おう……」
「いくよ?ちなみに、僕はゴーレムだ」
「なっ……」
手を合わせた瞬間、ディアブルの巨大さを思い知らされた。物理的にではない。なぜかはわからないけど、ディアブルは巨大だと、そう感じた。
「ほらほら!潰されちゃうね!力入れてよ!うん!」
「ぐっ……」
力が本当に強い。足ががだんだんと地面に埋まってきている。
「ほらほら、まだまだだよ!押し返して!さっきの想像を思い出して!」
「くっ……」
さっきは……体の中身から力を……
「はあっ!」
「わわっ!」
ディアブルが後ろに飛んでいく。
「え?なにが……」
「うんうん!いいね!それだよ!それが《レフォース》さ!」
ディアブルがたたたっ、と駆け寄ってくる。
「今のが、か」
あの、力が中から出てくる感覚。
「さあ、今度はもっとちゃんと!スキルだと思って使ってみようか!」
「スキル……《レフォース》!」
ぐうっと、体の中心から力を引っ張り出す。
……精霊槍使ってた時も、こんな感じだった気がする。
俺はそう考えながら、試しにジャンプしてみる。すると。
「うおおおおおおおお!」
雲が、だいぶ大きく見えた。そして、落ちる。
「ええええええええええ!」
俺は慌てて、落下体勢をとる。まあ、足で着地しようとしているだけなんだけど。
ドシン!と、土埃を立てて、俺、大地に立つ。
「う、うおおおお……」
足に全く痛みがない。
そんな感じで感動していると、脳内に声が流れる。
『《レフォースΔ》を修得しました』
なんだこれ?Δ(デルタ)って?
「うんうん!君はΔを修得したんだね!いいね!僕とお揃いだね!」
え?なんでこいつ、わかるんだ?
「な、なんでおれが《レフォースΔ》を修得したってわかるんだ?」
「うん!《情報視認X》のおかげだね!」
「な、なるほど……」
《情報視認》の上位か。
「うん!これで終わりだね!もうすぐで君の番だ!戻ろうか!」
「あ、ああ……」
本当に、よくわからない……
ここまで読んでいただきありがとうございます。




