21話 藤野 玄人、トーナメントしました。⑥
〜藤野 玄人視点〜
俺は今のジャックの試合の様子を見ていた。その映像の中で、ジャックは全力だった、と思う。だが、相手のヘイゼル選手は、余裕綽々、といった感じ。これこそが力の差、と思うほどだった。
そして決着がついた後、ヘイゼル選手はジャックにとどめを刺そうとしていた。それを、校長先生と思しき女性が止めた。
目を開けられないほどの光が場内を包み、直後、ヘイゼル選手は校長先生の肩に担がれていた。
そのまま、校長先生は関係者専用の出入り口に入っていってしまった。
その後、ジャックが担架に乗って運ばれた。どうやら、救護室で治療を受けるようだ。
俺もついて行こうと思ったが、もう少しで試合が始まってしまうので、廊下で見た時に、声をかけた。
「ジャック!大丈夫か!?」
「おー、玄人、か。俺は大丈夫だ。でも、気をつけろ。ヘイゼル、あいつは俺に殺意を向けてたからな。他のやつも同じかも知れねえ」
「ああ、ありがとう。ジャックもお大事に、な」
「おう」
それだけ会話すると、アナウンスが流れた。
『第25試合目を始めます。藤野 玄人選手、シャル=グリーブ選手、準備してください』
もうすぐ、始まる。
「よし、いくか」
「始めっ!」
相手はシャル=グリーブさん。身長二メートルほどの巨漢だ。
「おらぁ!」
その体に見合う巨大な斧を振り回してくる。
「おっと」
俺はそれを軽く飛んで回避する。
「スキル《冷蔵庫》、来い」
俺は《冷蔵庫》から銃を取り出す。
「んだぁそのちっせぇ銃は!笑わせてくれるなあ、ガハハ!」
そう言って突っ込んでくる。いちいち五月蠅いな。
「そうですか」
俺はそれだけ言って銃口を向ける。
「すみませんが、俺は今ジャックがやられてイライラしてるんだ」
俺は銃に《冷蔵庫》を一つ展開して、魔力を込める。
そして引き金を、引く。
バシュン、と音がなった。
「ぐはっ」
その弾丸は、グリーブの肩を貫いた。
「てめえ、許さねえ、ぶっ殺してやるっ!《レフォース》《レフォース》《レフォース》」
……これが、ジャックの言っていた殺意、か。
それは、鋭い眼から放たれるものではない。全身から全身へ向けてのものだ。何度も何度も忌み嫌うようなことをされた者への、復讐に燃えるような。家族を殺されたような。そんな類の殺意だ。
「日本では見たことないぞ……」
でも、なんでそこまでの殺意が沸くのだろうか。短気だったとしても、理解できない。
そんなことを考えながら、少し危機感を感じてさっきまでのイライラを抑えて銃を盾に変形させる。冷静に、だ。
そしてその瞬間、斧が振り下される。それを、盾で防御する。
「ぐっ!」
重い衝撃。その衝撃が、骨を伝わっていく。
「くっ……ぐっ」
斧は再び振り上げられ、そして振り下ろされる。
「ぐうっ……」
「おらおらおらぁ!」
『えー、グリーブ選手はその巨躯に《レフォース》を重ねがけし、力と俊敏さを利用して強い攻撃を叩き込んでいますね』
『それに対して藤野選手は先の二戦で魔力の消費が激しかっただろうな。いくら魔法力が高くても、この試合に影響が出るのを避けるのは難しいだろう。普通ならここらで魔法を打ちたいところなんだがな』
『なるほど。ちなみに、藤野選手はレベル20、グリーブ選手はレベル26、ということです』
「どうしたどうした!ちったぁ抵抗してみろやあ!」
さあ、どうするか。
考えながら、俺は防御を続ける。
……そうだ!斧で攻撃してくるなら盾を変形させて斧を絡め取ってしまえばいい。
「くっ……ここだっ!」
「ぬおおっ!」
俺はタイミングをピッタリ合わせ、斧を固定する。
「ぬぐおぉぉぉ!」
すると、グリーブは固定された斧を引っ張って取り返そうとする。
「くっ……」
なんだよこの力の強さ!生徒じゃないだろ!と、思ってしまうほどの力だ。
俺はその力の強さに驚き、思わず固定を解いてしまう。すると。
「ぬごっぉごっうがっ」
グリーブは後ろ向きに転がっていった。
これは……チャンスだ!
俺は盾を剣に変形させ、倒れているグリーブに向かって走る。
「はあっ!」
そして、剣を振り下ろす。
「ぬっ!」
グリーブは、倒れたまま斧で防御してくる。
「くっそ……なんて力だ……!」
俺は、だんだん押されている。
「オラオラどうした!弱えなあ!おらあ!」
「ぐあっ」
グリーブが斧を振ると、俺は簡単に飛ばされてしまった。
「くうっ……ここから、どうする?」
今、俺とグリーブの距離は十五メートル程。なら。
俺は剣を杖に変化させる。
「そんな杖じゃ接近戦なんて無理だなあ!?」
そう言って、グリーブは突っ込んできた。
そこで俺は、さっきまで溜めていたイライラを言葉に乗せて、グリーブに飛ばす。
「目にもの見せてやるよ」
反撃、開始だ。
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