第二十七部 転入生 第五章
ぎゃあぎゃあ騒ぐ槙を陽菜さんに任せて、有希を連れて俺達は家に戻る。
とりあえず、妖の王の候補として見事に囮になれば槙の功績になるわけだし。
「大丈夫なのかな? 槙君」
流石に自分のせいでとか思ってて、彩にさっき言われたものの心配らしい。
良い子だな。
でも、そういうのの想像を超える爺さんに鍛えられた存在だ。
俺も同じだから分かる。
あいつは強いし頭は回るし、絶対に逃げるだろうな。
陽菜さんでは残念ながら無理だろ。
「まあ、お姉ぇはちょっと足りないからねぇ。目端が利くなら逃げちゃうかもね」
などと香織が苦笑していた。
「御学友とお話し中、申し訳ない」
などと普通の人間みたいな恰好をした<蒼月>さんに声を掛けられる。
青鬼の肌の青い部分はファウンデーションで綺麗に誤魔化して、普通のちょっとカッコいいお兄さんに見えた。
「どうしたんですか? 」
「来る相手が分かりました。どうやら、御前の動きに分家の奴が引っかかると見ていたようで、最初から動いていたみたいです」
「え? 」
「ちょっとまずいですね。一人だけで日本に来るみたいです」
「まずいですねって事は、凄く強い? 」
「ええ、ヴラド系の真祖ですよ。あの史実の串刺し公のヴラドとは違いますが、これは本物です」
「それでか! まだ爺さんとか動いたにしても、今日に囮になるホテルに本気で行きたくないって槙が騒いでいたのは。普通に早くても三日はかかるのにって思ってた。思いつつも、俺も嫌な予感がするから、槙が怯えているし、これはまずいのかなと思ってたんだけど……」
「ドンピシャですね。そうですか、槙殿もそんな感じでしたか。流石妖の王の候補で我が君と争うくらいの立場にいただけはある」
「やっぱりそうなんだ」
「あの六兵衛さんの薫陶を受けてるわけですからね。だいぶ年齢的には若いけど、我が君の祖父の律蔵さんが祖父なのと変わらないくらい、そういう経験をしてるでしょうし」
「それは……良い話なのかな? 」
「我々従うものとしたら良いですよ。抜け目ない方が生き残る可能性が高くなる」
「そっか」
「じゃあ、槙君が……」
有希が動揺して心配している。
「逃げる逃げる」
「もう逃げてると思うよ」
俺と彩の評価が同じだ。
「なんで、そう言う評価に? 」
「神楽耶と同じでお爺さんと同じような人に……騙されて……いや、鍛えられてきたんでしょ。多分、どんな手を使っても逃げると思う」
「だよね」
彩の言葉に頷きながら、納得がいかない俺がいた。
「そんなもんなの? 」
「勘とか、そう言うのが働かないと、神楽耶みたいに生き延びれないもの」
「……そう思うなら、なんで、今までのいろいろと止めてくれなかったの? 俺ってひ弱で無茶苦茶儚げなのに」
「それ、自然に身に着けた演技でしょ? だって、逃げる時とか迫力が違うもの。全然、別人のように逃げるし。そういう時は私もわかっているから、守らないし」
「そう言う時こそ、守ってくれよ……」
彩の言葉に泣きそうである。
「まあ、命がかかったらそうだよね。お姉ぇも昔、命がかかった時に火事場の馬鹿力で自動車持ち上げて盾にしたって言ってたし」
「……それは普通にしそう」
「そうだよね」
「いや、どんな評価なのよ。うちのお姉ぇがっ! 」
「あの人も隠すタイプだし、察するの早いよね。だから、槙がガチでビビっていると見たら連れて帰って来るんじゃないかな? 」
「炭鉱のカナリヤみたいにすると思う。そういうの分かる人って歴然としているから、安全なルートとか分かるし」
「一緒に暮らしだして思ったけど、思ってたより、神楽耶の家って荒んでるよね」
香織がそう心配そうにつぶやいた。
否定できないな。
お父さんも犠牲にされてたらしいし、俺も変わらんし。
「で、どうなりそうなの? 」
で<蒼月>さんに聞いた。
「話し合いでしょうね? 」
「そうか……」
良かった。
爺さんか渡辺陸将補か間宮さんが話をしてくれるという事か。
結構、厄介な交渉になりそうだな。
「まあ、もしくは顧問の名刺を作ってたし、六兵衛さんにしてもらえればいいんじゃないの? 」
などと香織が読唇術で俺の心を読んで苦笑した。
「まあ、海千山千の方が良いよね」
「いや、普通に我が君ですよ」
「はああ? 」
「だって、妖の王になりそうな人と話をしないと意味が無いじゃないですか」
「俺、妖の王の候補だけど、なる気無いし」
「いや、<婆娑羅>様が推しているでしょ? 向こうの妖も妖の王の選抜基準の歴代の妖の王の推しがいるって知ってますし。身体に<婆娑羅>様がいる時点で、断トツの妖の王になる存在で間違い無いですよ。<婆娑羅>様の話だと、獅童の事を終わらせたら、初代と三代目も推すらしいし」
「ひよぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ! 」
<蒼月>さんのあまりの話に思わず叫んでしまった。




