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私はアイドル その5


朝からマネージャーに呼び出された私達は事務所に集まっていた。舞さんと優花里ちゃんは朝が弱いからか、向かいのソファの手摺(てすり)に全身を預けてぐったりしてる。

「みんなごめん。待たせたわね。」

マネージャーと…この前事情聴取に来た警察の人とか数人が入ってきた。

「もしかしてまた取調べ?」

エリはわかりやすくうんざりして見せた。

「それを言うなら事情聴取じゃない?」

明日香がスクワットしながらツッコミを入れる。

「どっちでもいいわよ。」

イノさんもうんざりしてるみたい。私も、もう警察の人に話す事は無いと思ってる。

「アルちゃんはこの前エレナのお見舞い行ったから話せる事あるよ~?」

「はい静かに。今回あなた達を集めたのは事情聴取の為じゃ無いわよ。」

「じゃあ何なの?」

「ここに居る警察の方は、あなた達の警護をしてくれる人達よ。情けない話だけど、ウチのスタッフだけだと全員の安全を確保できない…それで、その事を弥生さんに相談した所、警護してくれるって話になったのよ。」

「…それって、私達もエレナみたいに襲われる可能性があるって事?」

すると李さんが一歩前に出た。

「可能性の話です。万が一を起こさせない為です。」

「つまり私達は囮(おとり)か。」

エリは不信感を露にした。

「そういう訳じゃ…!」

「ま、いいけどね。私は勝手にするよ。」

エリはソファに横たわって舞さんの膝に頭を乗せて優花里ちゃんの膝に足を乗せた。ちょっと羨ましい。

「アルちゃんも…嫌かな~」

アルちゃんが寄り掛かってきて、私はそのままイノさんに倒れ込んだ。

「ちょっと…!」

「ごめんね。イノさん…」

「悪いのはアルね。」

「"アルちゃん"って呼んで!」

「はいはい…」


「あなた達、話は終わって無いわよ!」

「みんな、集中して!」

「明日香がそれ言うの?」

明日香はストレッチしながら片手間に答えていた。

「マネージャーにお願いしたのは私だよ。」

舞さんが身体を起こして言った。

「舞…ホントなの?」

「嘘言ってどうすんのさ。よく考えてごらん?ウチで闘えるのは明日香くらいじゃん。」

「いや、私格闘技はやって無いんだけど…」

「ん?陸上は格闘技でしょ。砲丸でガツン!みたいな。」

「んな訳ないでしょー!」

舞さんは明日香相手だとボケがちなんだよね。

「まぁ、とりあえずさ。守ってもらおうよ。そんで、運転手やってもらってさぁ…」

たぶん舞さんの目的はそっちだ。ただでさえ8人グループで大所帯なのに、個別の仕事が増えてきた私達を叔母さんだけに支えさせてる現状は限界だった。

実際、エレナが襲われた時だってスタッフさんが誰かしらついてたら防げたかもしれない。

「いいねぇ!それならアルちゃん賛成(さんせ)~」

「まぁ…舞が言うなら……」

アルちゃんとイノさんは納得したみたい。

「エリはどう?」

「…わかったよ。悪かった、嫌味言って。」

納得はしてないみたいだけど、舞さんの意図に気付いたのかもしれない。

「優花里と朱莉はどう?」

「あたしは最初から問題無い。」

「私も、そういう事なら賛成…かな?」

「よし、決まりね。」

みんな舞さんを信頼してるから、私達はひとつに纏まってるんだ。


──その後、李さん達は自己紹介をしてくれた。

仙石さん、菅原さん、足柄さん…"女性警官が少ないから色んな部署から腕利きを連れてきた"って李さんは言ってた。

あと反発してた割にエリは菅原さんと意気投合してたし、足柄さんはみんなにスキンケアの事とか訊かれてた。


「皆さんには伝えておきたい事があって…」

茜さんが言うには、何日か前に病院で不審者が目撃されたらしい。警備は万全だったから大きな問題にはならなかったけど、エレナちゃんのお見舞いに行くなら相談してほしいとの事。治療自体は順調で意識もハッキリしてるから、数日おきに病室を変えてるらしい。

それを聞いて私は少し安心した。

「あの、李さん…私、エレナちゃんのお見舞い行きたいです。」

「いつがいいですか?」

「できるだけ早くが…」

「わかりました。調整しますね。」

「ありがとうございます…!」

その日から数日、私は李さんと仕事に行く事になった。李さんの運転はとても上手で、"やっぱり警察官って凄いんだなー"なんて思ったんだけど、イノさん曰く"仙石さんの運転はヤバい"らしい。


──そんな訳で、エレナちゃんのお見舞いへ行ける日。私とエリは李さんの運転で病院に向かっていた。

「エレナちゃん…」

「朱莉ってエレナと付き合い長いんだっけ?」

「えっと…結成前のレッスンが最初だったかな…?」

確かね。

「そう…」

「どうしたの?」

「見舞いだから色々と思い返してたのよ。」

「そっか…エリとエレナちゃんって実質同期だっけ?」

「そうね。まぁ、言ってもエレナは小さい頃から出てるし…ただ事務所入ったタイミングが近かっただけよ。」

「Sugarになる前グループやってたよね?」

「あー…あったわね。そんなの。番組で組まされた奴。」

「組まされたって…」

「約一名、性格最悪なのが居たからずっとギスギスしてたんだよね~…」

「そうなんだ?」

「一緒になって悪口言ってたわね。それでエレナと仲良くなったのかも。」

「あはは…」

「そういえばその頃にエレナの実家行った事あったわね。」

「…あの豪邸?」

「うん。」

「どうだった?」

「凄かったわよ。ホント、すっごい豪邸。」

エレナちゃんの実家は度々バラエティ番組でも紹介されてて、私も小さい頃にテレビで見た事があった。THE豪邸って感じ。

「そろそろつきますよー」

李さんのスムーズな運転で、いつの間にか病院についていた。

「私…李さん専属にしてもらおうかな。」

どうやらエリは仙石さんの運転を体験した事があるらしい。


病院は物々しい空気が漂っていた。警備員さんが目を光らせてる事もあって視線を感じる。

「あれ、Sugarの…」

「ホントだ…」

患者さんの会話が聞こえてしまった。知って貰えてる事が少し嬉しいけど、エレナちゃんの事が無ければ病院(ここ)に来る事は無かったんだなって思うから、複雑な気分…


病室の前には制服姿の警察官が立っていた。

「お疲れ様です。少し休憩してください。」

「ありがとうございます。」

李さんと敬礼し合ってる姿はドラマで見た事がある警察官だった。

病室の扉を開けると、顔の左半分が包帯に被われたエレナちゃんが居た。左足も包帯がぐるぐる巻きで固定されてる。実際に見ると涙が溢れそうになって、流さないように堪えた。

「ふたり共、来てくれたんだ…!」

声色から嬉しそうなのが伝わる。エリが速足で駆け寄って、何も言わずに無事な右手を握った。エレナちゃんは困った顔で涙を浮かべてた。

「痛いよ…エリ……」

「あっ…ごめん。」

私もエレナの傍に行く。

「…エレナちゃん。」

「朱莉も、来てくれてありがとう…」

「うん……うん……」

堪えていたものが流れてしまった。私はエレナちゃんの右手を優しく握った。


それから私達は今日までの事を話した。

「エレナちゃんの顔が傷つけられたって聞いた時の舞さん、凄かったよ?」

「そうなの…?」

「"私が笑わせてやるー!"って感じで事務所飛び出してったの。」

「それ、マジだったんだ…?」

「うん。それでイノさんに羽交い締めにされながら戻ってきた。」

「うわー…それは見たかったなぁ…」

「そうだ。治ったら再現してもらお…!」

「いいねぇ、その時は私も見たいわね。」

エリは悪い顔をしていた。エレナちゃんも楽しそうにしてるから話してよかった。舞さんごめんね。


「弥生さん、ありがとうございます。ふたりを連れてきてくれて…」

「いえ、警護中のみとは云えマネージャーですから!」

「そうなの…?」

「4人も警護してくれてるんだけど、みんな凄いわよ?この前なんて突撃してきた記者の人投げ飛ばして…」

エリが嬉しそうに話し始めた。

「そんな事あったの?」

「あれ?朱莉は居なかったっけ、菅原さんの一本背負い。」

「知らない…そんな事あったんだ。」

「なんか、楽しそうだね…?」

「それもこれも李さんのお陰だよ。」

「いえ、警察官としてできる事をしているまでです…!」

「舞にも感謝ね、一応。」

「そだね。」


「なんか、いいなぁ…早く治したいよ。そろそろくっつくらしいけど。」

「そうなんだ?」

「うん。あ、そうそう…一応顔の傷も残らないって医師が言ってた。」

「ホント…!?よかったぁ…」

「早くみんなに知らせたいね。」

「ただ前みたいに笑うのは難しいかもって言ってたから俳優はもう無理かもなぁ…あはは……」

「笑い事じゃないわよ。私はエレナの演技、好きなんだから。」

「エリ……」

「あ、諦めなければ、きっと大丈夫だよ…!」

「ありがと、朱莉…」

私達はまた手を握り合っていた。


──スケジュールの許す限りの見舞いを終えた私とエリは病室を後にした。

「思ったより元気そうだったね…?」

「そうね…明日香や優花里は、相当暗くなるかもって言ってたけど。」

「アルちゃんすら心配してたもんね…けど本当に良かった。」


そんな話をしていたら、私達の前に見覚えのある人がやってきた。

「…朱莉。」

「瑠璃……?なんでここに…」

李さんが私達の前に出る。

「あなたですね?病院に忍び込んだのは…!」

「え…!どういう事…!?」

エリも警戒してるのか、私の前に立った。

「…忍び込んだのは事実だけど、誤解があるわ。話をさせてほしいわね。」

「信用できません。」

「待ってください!瑠璃(かのじょ)は私の恩人で…!」


瑠璃は私に碧さんの事や自分の事を話してくれた。エレナちゃんが襲われて精神的に参ってる事。見てられなくて調査を買って出た事。この病院には昔よく来てた事。

李さんはしっかり怒ってたけど、私がストーカー被害に遭った時に解決してくれた人だと話したら、とりあえず安心してくれた。

その時の反省して無さそうな態度が気に入ったのか、エリは瑠璃の隣に座っていた。エリって意外と可愛い事するんだよね。


「とりあえず礼を言っておくわ。朱莉が居なかったら病室前(あそこ)の警察官を気絶させてでも様子を見ようと思っていたもの。」

「そんな事したらエレナちゃんびっくりしちゃうよ…!」

「そうね。少し浅はかだったわ。」

「あんたホント面白いな…!」

「…よく言われるわ。真面目にやってるだけなのに。」

…瑠璃って天然なのかな?


Sugarを警護する事になった警察官の紹介

・弥生李…台湾系クォーター。Sugarのみんなは芸能人になれそうだと思っている。

・仙石茜…面倒見の良いおbお姉さん。荒事はおまかせ。運転も荒い。

・菅原夏海…勧善懲悪な熱血思考。酒好きの怪力女。

・足柄深雪…冷静沈着・頭脳明晰。メカ好き。

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