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魔王の脅威


 祈が城の書庫で知識を溜め込み始めてから数日。

 そろそろ俺も祈とは()()()で知識を身に付けておこうと考え、書庫で本を読み漁っていた。


「ふぅ……」


 俺は本日5冊目の本を読み終え、テーブルに積み上げるのと同時に思わず溜め息をついてしまう。

 長時間の読書と膨大な知識の詰めこみにより、目と脳が悲鳴を上げているのだ。


「…………」


 対して、俺の隣で黙々と本を読み進める祈は(いま)だ疲れを見せず、パラパラとページを(めく)り続けており、テーブルの上に積み上がった本は優に30を越えている。

 ページを捲る速度は傍から見ると文字を目で追えているようには見えないが、視たものをそのまま記憶する祈にとって、この程度の芸当は朝飯前なので今更驚きはない。

 

「……少し気分を変えてみるか」


 俺は席を離れ、気分転換に何か面白い本がないか探してみる。

 ここの書庫は多種多様なジャンルの本が置いてあるので、何かしら見つかるだろう。

 本棚を見て回ること数分、1つの本のタイトルが目に入る。


「"勇者と魔王の戦い"」


 手に取って見た本のタイトルを口にする。

 名前からして歴史書かと思ったが、歴史を記したにしては厚みがない。


「……童話か。そういえば、今まで勇者や魔王について調べたことってなかったな」


 興味がなかった訳じゃない。

 だが、関わるつもりも必要性もないと思い、調べるのを後回しにしていた。


「とはいえ、外に出たらそうも言ってられないんだよな……」


 魔王はともかく、勇者に関しては俺の知り合い――政人達の誰かが選ばれている可能性も充分にあり得る。

 そうなったら、流石に関わらない訳にはいかないし……


「ある程度は知っておくべきか……」


 関わらなくて良いことを願いつつ、俺は本を読み始める。


「……」


 内容は初代勇者が魔王を倒すまでを描いた冒険譚。

 召喚された初代勇者がいかにして各種族をまとめ、仲間を増やし、魔王と戦い続けたのか。

 創作だとしたら実にありふれた内容だが、この世界では実際に起こった出来事であり、事実だ。


「……」

「カナタ。こんなところにいたの?」

「リア、どうしたんだ?」

「そろそろ一息入れたらと思って、お茶を持ってきたの」


 一通り読み終えたタイミングでリアが顔を見せる。


「"勇者と魔王の戦い"……有名な童話ね」

「そうなのか?」

「初代勇者と魔王の戦いを忠実に書き記したものよ。たぶん、子供の頃に必ず一度は読む本ね」


 リアは懐かしそうに俺の手元の本を見つめる。


「それにしても、あんまり興味なさそうだったのに……どういう心境の変化?」

「他に学ぶことが多かっただけで興味がなかった訳じゃないぞ」

「そうなの?」

「ん、なんの話?」

「勇者と魔王の話」

「ん、なるほど」


 祈も交えて三人で緑茶を飲んでまったりと話す。

 話題は自然と先程の童話の話に。


「ん、どんな内容?」

「王道な魔王討伐物語だったな。ただ、勇者についてはかなり掘り下げてたのに、魔王についてはあんまりだったな」


 曰く、魔王は魔物の王である。

 曰く、魔王は選ばれし者にしか滅することができない。

 曰く、魔王は天災である。

 あの童話で語られていたのはこの三つだけだった。


「でも、要点は押さえてると思うわよ? 魔王の存在を表すのにその三つは外せないもの」

「というと?」

「まず『魔王は魔物の王である』。これは言葉通りで、魔王は魔物を操るスキルを持ってるの」

「ん、厄介(やっかい)


 確かに厄介だな。

 強力な魔物……それこそ死の樹海の魔物を操って軍勢を作れば、人類側は容易(たやす)蹂躙(じゅうりん)されてしまうだろう。

 けど、実際はそうなっていないってことは……


「操れる魔物に制限、もしくは操れる数に上限がある、ってところか?」

「ん、なら、大したことない」

「……一応言っておくけど、戦力を増やすって意味ではかなり強力なスキルなのよ?」

「でも、人類側(こっち)との戦力差をひっくり返せる程じゃないんだろ? というか、ひっくり返せるなら魔王は三度も負けてないだろうし」

「それは、そうなのだけど……」

 

 そもそも、今までに起こった三度の戦いは異世界からたった一人(三度目は聖女もいたので二人だが)を召喚しただけで解決している。

 単純に戦力差で負けているなら、一人だけ強い奴がいてもどうにもならないはずだ。


「ただそうなると、なんで異世界からたった一人をわざわざ召喚してるんだ、って話になるんだが……」

「そこは童話に出てきた次の一文が関係してるわ」


 次……『魔王は選ばれし者にしか滅することができない』っていうやつか。


「魔王の力は強大よ。それこそ一騎当千と言っても過言ではないくらいの強さを誇っている。でもね、脅威的なのは強さではなく、()()()()

「肉体……?」

()()()()()()()()()()()()()。大地を穿つ剣聖の一振(ひとふ)り、魔導を極めた賢者の大魔法、神に愛された聖女の天罰……かつて人々はあらゆる手段で魔王を倒そうとしたわ。けれど、その全てが魔王に通じなかった」

「「BANされればいいのに……」」

「ば、ばん?」 


 体力無限……いや、一切攻撃が通じないならダメージ無効か?

 どちらにせよ、ゲームなら害悪レベルのチート能力だ。

 運営に通報して、即刻BANできないのが口惜しい。


「ん、続けて」

「え、ええ……魔王を倒せず、追い詰められていった人々にある時、神託が下ったの。『魔王は選ばれし者にしか滅すること(あた)わず。故に三つの月が満ちる時、彼の地より我が使いを召喚せよ』ってね」


 『三つの月が満ちる』……渡り月か。

 なら、『彼の地』は地球、『使い』は使徒。

 ……ここまで分かれば、流石に『選ばれし者』が誰を指すのか嫌でも分かってしまう。


「そうして召喚されたのが……」

「「勇者」」

「……まあ、ここまで言えば分かるわよね。貴方達なら」


 声を揃える俺達を見て、リアが呆れる。

 ……にしても、想像してたより勇者の役割が随分重いな。


「ん、じゃあ、最後のは?」

「『魔王は天災である』ね。これは強大な力を持って突然現れる魔王を指しているの。地震や嵐のようだから」

「……突然? 確か魔王は100年周期で復活するんじゃなかったか?」

「それは"厄災(やくさい)の魔王"の話でしょう?」

「「厄災の魔王?」」

「300年前に現れた()()の魔王。魔族を率い、魔物を操り、三度にわたって戦争を仕掛けてきた人類の敵……それが厄災の魔王よ」

 

 話に聞いていた通りの魔王像だが……説明の中に気になる単語があった。


「最弱……? ()()()()()()()()()()()()()()


 俺と同じ疑問を抱いた祈が指摘する。


「厳密に()()魔王が最強って決められるものではないけどね。私も伝え聞いただけだから……」

「……ちょっと待て。まさかと思うが、魔王って何人もいる訳じゃないよな?」

「いるらしいわよ?」


 俺の言葉をリアはあっさりと肯定した。

 おいおい、魔王って「世界の半分をお前にやろう」って台詞で勇者を迎えるラスボス的な立ち位置だろ。

 なんでそんなのが何人もいるんだよ……


「ん、ちなみにどんなのがいる?」

「私が教わったのは厄災の魔王以外に三人。空を()べる"天窮(てんきゅう)の魔王"、広大な海を(ただよ)う"絶海(ぜっかい)の魔王"、そして……死の具現たる"煉獄(れんごく)の魔王"」

「……最後の一人だけ二つ名が物騒(ぶっそう)過ぎやしないか?」

「それだけ恐れられてるのよ。煉獄の魔王は国を滅ぼしたこともある魔王だし、『姿を見て生きていた者はおらず、全ての存在に死を与える』って言い伝えが信じられてるくらいには悪名高い魔王なの」


 いや、見たら死ぬって……

 流石に比喩表現だと思いたいが、この世界だと普通にあり得そうで怖い。


「ん、特徴は?」

「残念なことにほぼ皆無よ。確かなのは存在しているという事実だけ」

「それでいて出会ったら死ぬのか……」

「むぅ……」


 そんなのどうやって対処するんだ?

 俺と祈が頭を悩ませているのを見て、リアが苦笑する。


「とはいえ、これはあくまでも外の世界の話。現状、この国から出られない私達にはなんの関係もないんだけどね」

「……それもそうか」

「ん、二次元じゃあるまいし、魔王とか早々会わない」

「だな……と、そろそろ再開するか」

「ん、休憩終了」

「頑張ってね」


 そうして、再び俺と祈は目の前の本の山(現実)と向き合う。

 だが、後になって冷静に考えれば、何故気付かなかったのか?

 この時、盛大にフラグを立てていたことに……


今まで忘れられてた魔王設定にようやく触れられた……

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