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法則その24 『自分から積極的に行動した人』は生き残る

◇◇


――お兄ちゃん! 知ってる!? 死亡フラグが立ってないのに殺されちゃう人もいるの! でもそれって、たいていは『陰謀』に巻き込まれた人なんだよ。


――陰謀? なんだそりゃ?


――陰謀は悪いヤツが隠れてコソコソやってるってこと!


――なるほど。


――うん! だから最後まで生き延びる人って、ちょっとしたヒントも見過ごさずに、自分から積極的に行動した人なんだよ!



 そうだったな。ミカ。

 だからお前は行動し続けた。

 『死亡フラグ』を研究し、俺に教えること。

 それがミカにとっての行動だったんだよな。


 俺はお前のことを信じる。

 そして俺も行動し続けるんだ。


 かつてかわした約束を守るために――。


………

……


 ついにアルメーヌが正体を明かした。

 モーナが彼女の餌食になっているうちに逃げだした俺たちは、洋館を飛び出した。

 

「洋館の隣に立っている監獄塔は入り口が一か所しかない! それに重い鉄の扉でできている! 出入口さえふさいでしまえば、そう簡単に侵入することはできない!!」


 そうボブが叫んだからだ。

 ……もちろんそんなこともなく、俺たちのうちの誰かに死亡フラグが立てば、アルメーヌはたとえレンガの壁をぶち抜いてでも駆け付けてくるんだがな。

 

 断崖絶壁の上に立つ監獄塔。

 それを目の前にして、俺は感慨深くつぶやいた。


「いよいよ物語はクライマックスってことか……」


 本来ならば、クライヴ、ナタリア、ボブ、アルヴァンの4人で立て籠るはずだった。

 しかし今は俺、イルッカも含まれている。

 もしこのシーンがアニメで放映されていたとしたら、画面の向こうにいるミカはこう言ってくれるだろうか。


『この中で生き残るのはイルッカだね!』


 と。


 俺たちは一団となって監獄塔へ飛び込む。

 一番後ろにいたアルヴァンが入ったところで、ボブが急いで扉のカギを閉めた。

 そしてアルメーヌが追ってくる気配がないのを確認した後、俺たちは入り口からほど近い小部屋で荒れた呼吸を整えたのだった。

 

「はぁはぁ……。と、ところでナタリアは、どうしてアルメーヌのことを黙ってたんだよ」


 ボブがしかめっ面で口を尖らせるのも無理はない。

 ある意味で裏切り行為に近いからな。

 しかしナタリアは悪びれる様子もなく答えた。


「そりゃあもちろん、脅されてたからよ」


 脅されていただと?

 アルメーヌと結託して邪魔者たちを排除してたじゃねえか。

 もっとも、それをここで追及しても何の意味もない。

 むしろ逆恨みを買って、何をされるか分かったものじゃないからな。

 沈黙がベストだ。


「脅されてた……? アルメーヌに? そんな馬鹿な」


 クライヴが顔に暗い影を落とす。

 彼にしてみれば惚れた相手が『化け物』だったという事実が受け入れがたいのだろうな。

 そんな彼に冷ややかな視線を浴びせながらナタリアは続けた。

 

「馬鹿なのは、あんたたちよ。見た目がちょっと可愛らしいからって、すぐに信用しちゃって」


 ん? あきらかにトゲがある言い方だな。

 まさかとは思うが、ナタリアのクライヴに対する気持ちはもう冷めてしまったのか?

 まあ、この期に及んで主人公とヒロインの間に何があったのか、なんて知る必要はない。

 とにかく生き延びるためのヒントをつかむのだ。


――最後まで生き延びる人って、ちょっとしたヒントも見過ごさずに、自分から積極的に行動した人なんだよ!


 というミカの言葉を信じて……。

 

「いったいどうしたらいいんだよ!! 頭や体をぶっ飛ばされても死なない相手にかなうはずがねえだろーがよ!」


 ボブが頭を抱えながら悲痛な叫ぶ声をあげると、アルヴァンがたしなめた。

 

「……落ち着くんだ、ボブ」


 しかしボブにとっては焼け石に水だったようだ。

 さらにヒートアップして声を響かせる。


「落ち着いてられるかよぉ! もう終わりだ! 終わりなんだ!」


「……そうか? だったらなぜ今までアルメーヌは俺たちを殺さなかった? いつでもチャンスはあったはずだ」


 アルヴァンにしては長いセリフ。そしてモーナを彷彿とさせる的確な推理だ。

 これにはボブも目を大きくした。


「へ? た、確かに……。な、ナタリア! 知ってるなら話してくれ! なぜあの化け物は俺たちを殺さなかったんだ!?」


 ボブの矛先がアルヴァンからナタリアに変わる。

 ナタリアは鬱陶しそうな顔で答えた。

 

「殺さなかった、のではなくて、殺せなかったのよ」


「殺せなかった……」


 ボブはにわかに状況が飲み込めないようだ。

 顎に手を当てて考え込んでいる彼から一歩だけ離れたナタリアは、淡々とした口調で続けた。

 

「彼女が殺せるのは、『黒い旗』を頭上に立てた人だけ。でも、その『黒い旗』は彼女しか見ることができないの」


 ちなみに俺にも見えるのだが、それをここで言う必要はない。

 俺は黙ったまま、場を見守っていた。

 

「黒い旗? なんだそれ?」


「さあ……。私にもよく分からないわ」


 そりゃそうだろ。

 『死亡フラグ』なんて単語がこの世界にあるとは思えないからな。

 

「でも察するに、『殺せる条件が整った人』に、その旗が立つようなの」


「その条件って、何なんだ?」


「さあ……。そこまでは知らない」


「はあ!? それじゃあ、意味ないじゃんか!」


 今度は顔を赤くするボブ。

 何かあるたびに顔色を変えるとは、なんてせわしない男なんだ。

 彼が再びナタリアに詰め寄ったところで、それまで黙っていたクライヴが口を開いた。

 

「いや、意味はあると思う」


 全員の視線が彼に集まる。

 そしてボブがクライヴに問いかけた。

 

「どういう意味があるんだ?」


「殺す条件がなければ、彼女は僕たちを殺せない。つまりここで大人しくしていれば、僕たちの命は助かる見込みがあるということだ」


「こんなところで、化け物の脅威に震えながら、一生を過ごせっちゅうのか!? そんなのごめんだ!」


「いや、町から増援を送ってくれることになってるじゃないか。人が増えれば手立てができるはずさ!」


 こいつは驚いた。

 本気で町から増援がくると思っているのか?

 唖然としたのもつかの間、ナタリアの笑い声が部屋に響いた。

 

「ははは! クライヴって、どこまでおめでたい人なの? ははは!」


 温厚なクライヴであっても、彼女の嘲笑には腹を立てたようだ。

 

「どういう意味だ?」


「来るわけないでしょ? 増援なんか。バカじゃないの。ははは!」


「なんだと! ナタリアはアルメーヌのことを信じていないのか!?」


「信じるも何も、あいつは化け物。人間の敵よ。仮に町に戻っていたとしても、それは増援を呼ぶためじゃなくて、人を殺すためだわ」


「違う! 彼女はれっきとした人だよ! 彼女が僕たちの仲間を殺さなくてはいけない理由があるはずだ!」


「理由? ふふ。知りたいの? 彼女が私たちを殺す理由を」


 ナタリアの言葉にボブが食いついた。


「知ってんのか!? なんで早く言わない!」


「なんでって言われても。あんたたちが聞かなかったからでしょ」


「だーっ! 屁理屈はいいから、早く教えてくれ! アルメーヌが俺たちを殺す理由を」


 ナタリアがボブからクライヴへ視線を移した。

 そして語気を強めて言ったのだった。

 

「永遠の愛を誓う相手を探すためよ」


 場がしんと静まり返る。

 クールで無表情なアルヴァンですら、口を半開きにしている。

 そして、

 

「ギャハハハ! 永遠の愛って。俺でも思いつかん冗談だぜ! ギャハハハ!」


 ボブが腹を抱えて大笑いした。

 ナタリアの口元もわずかに緩む。

 

「ふふ。そうよね。ふざけた理由よね。彼女いわく、最後まで生き残った人間こそ、自分と永遠の愛を誓いあうに相応しい『強い人』なんだそうよ。その者の生き血をすべて吸えば、その者は死んだ後にヴァンパイアとしてよみがえるんだってさ」


「ギャハハハ! 強い人だぁ!? 永遠の愛を誓いあうだぁ!? 死んだ後によみがえるだぁ!?」


 ボブが顔を真っ赤にさせて笑い転げる。

 しかししばらくした後、彼は険しい表情になって怒声をあげた。

 

「ふざけるなぁぁ!! そんなくだらねえことで命をもてあそびやがって!! 俺はおりる! まともに相手するのも腹立たしいわ!!」


 大股でその場から立ち去り始めるボブ。

 その背中にナタリアが冷たい声を浴びせた。

 

「あんた、本気で抜けられると思ってるの?」


 ボブの足がピタリと止まる。

 ナタリアは色のない調子で続けた。

 

「どうせ最後の一人になれる自信がないから逃げ出したいだけなんでしょ?」


「な、なんだと……? てめえ、さっきからずいぶんとイラつかせてくれるじゃねえか」

 

「殺されるのが怖くて怖くてしょうがない。でも、逃げようとしても逃げられない。だからイラついてるんでしょ。八つ当たりはやめなさいよ。余計にみじめになるわよ」

 

 まさに正論。

 ぐうの音も出ない、とはこのことだろう。

 ボブは黙ったまま、部屋の中ほどに戻ってきた。

 

「あら? 抜けなくていいの? 抜けてくれれば、脱落だったのに」


「うるせぇ! こう見えても、俺はしぶといんだよ!」


 結果的にナタリアはボブの命を救ったわけだ。

 彼女にしても、『白い洞窟』では自分が生き残ることだけを考えていたようだったが、今は違うのかもな。

 つまり仲間が目の前で殺されるのを見たくないのだろう。

 

「……全員で生き延びる方法を探る」


 アルヴァンが重い口を開く。

 ボブがコクリとうなずき、彼の意見に賛同した。

 

「とにかく余計な行動を慎むことね。時間がたてば、何か変わるかもしれないし」


 やはりナタリアもここにいるメンバー全員で生き残ることを望んでいるようだな。

 彼女の俺を見る目つきが変わったのは、このせいか。

 

「こうなりゃ、ここにいる全員が一蓮托生だぜ! 裏切りはなしだからな!」


 ここまではアニメとまったく同じ展開だ。

 となるとこの後は、俺とミカをテレビの前にくぎ付けしたクライマックスが待ち受けていることになる。

 

 だが……。

 

 どうも『何か』が引っ掛かる……。

 

 それはなんだ?

 すごいことを見落としているように思えてならないのだ。

 思い返せ。これまでのことを。

 俺は自分にそう言い聞かせた。

 

 俺は『死亡フラグが立ったら絶対に殺されるアニメの世界』にやってきた。

 そこでアルメーヌという不死のヴァンパイアと出会った。

 彼女から執拗に死亡フラグを立てられそうになるのをどうにかかわしながらここまでやってきた。

 

 ……ここまでの俺とアルメーヌの道のりに違和感はない。

 だったら何が引っ掛かっているというのだ。

 いくら思い返しても、アルメーヌの憎たらしい笑顔と悔しがる顔しか頭に浮かばないじゃないか。

 

 ……ん?

 待てよ。

 違和感の正体が、『俺とアルメーヌの道のり』ではなく『他のメンバー』だとしたらどうか……。

 

 俺ははっとして顔を上げた。

 急いで全員の目を見回す。

 そして、とある人物の目を見た時に、雷が落ちたかのような衝撃を覚えたのである。

 同時に浮かんできたのはミカの言葉だった。

 

――死亡フラグが立ってないのに殺されちゃう人もいるの! でもそれって、たいていは『何かの陰謀』に巻き込まれた人なんだよ。

 

 俺は自然とあとずさり、気づけば4人から距離を取っていた。


「そうか……そういうことだったのか……」


 俺はようやく気付いたのだ。

 3年前にミカと一緒に見たアニメのクライマックスの真相。

 細かすぎる設定資料集にいくつか『漏れ』があった理由。


 つまり俺たちアニメの視聴者は、すべてだまされていたのだ……。

 

 アニメ『キーピング・ザ・デッド』の世界に――。

 

 


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