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俺の魔王へ捧ぐプロポーズ3

 城ではユーリが帰ってきたことで、夜遅くまで祝宴が続いた。俺のことも歓迎してくれて、美味しい料理をたくさんと、少量の酒を飲んだ。


 宴が終わり、俺は中庭の小屋に帰ろうとしたが、ユーリに止められた。


「フレッドの部屋は、もう用意してあるだろう」


 ユーリに手を引かれて、ユーリの部屋の隣にある、俺の部屋に連れていかれた。寝る場所のない部屋だ。


「寝るからユーリの部屋に行く」

「そうか、朝から色々あって疲れたよな」


 ユーリが扉を開けてくれた。部屋に入るとベッドに腰掛ける。


「寝ないのか?」


 ユーリは首を傾けた。

 寝る前に、伝えたいことがある。激しい鼓動を落ち着けるために、深呼吸を繰り返す。


「ユーリ、俺の話を聞いてほしい」


 俺の前に立つユーリを見上げる。ユーリは「どうした?」と優しい声をかけ、イスを俺の前に移動させてそこに座る。膝が触れ合う距離で視線が絡んだ。


 足の上に乗せた拳が微かに震えていて、ユーリがそっと包み込んでくれる。温かな手に、自然と言葉が溢れた。


「俺はユーリが好きだよ」


 ユーリは動揺しているのか「え? は? ん?」と言葉をなさない声を発して、動揺から視線を彷徨わせている。


「俺さ、地下牢にいる時、ユーリのことばかりを考えてた。ユーリにもう会えないかもしれないって思ったら、どうしようもなく怖かった。そこでようやくユーリが好きだって気付いたんだ」


 ユーリは奥歯を噛み締めるように、口に力が入っている。目は水分を多く含んで、月のような金眼が揺れていた。


「今度は俺から言わせてほしい。ユーリ、俺の伴侶になって」


 言い終わる前に、キツく抱きしめられた。


「なる! もう絶対に離れない」


 俺もユーリの背に腕を回した。ユーリの温もりは、ひどく安心する。ユーリが子供の時には感じなかった、胸の高鳴りも心地いい。


「なぁ、ユーリ。しないのか?」

「なにを?」


 ユーリは体を離し、目を瞬かせながら顔を覗き込んでくる。


「ユーリは俺が伴侶になるって言ったら、なにをするって言った? 俺、待ってるんだけど」


 ユーリは目を瞬かせた後、その瞳を大きく見開く。どうやら思い出したようだ。


 ユーリの大きな手が頬に触れる。壊れ物を扱うような、慎重な手つきだ。


 俺はユーリのツノを撫でた。直接触るのは、ユーリとの生活が始まった日以来だ。あの時と変わらず、冷たくて硬い。


 ユーリはとびっきり優しい瞳をしていた。髪を撫でつつ手を下ろし、ユーリのうなじで指を組んだ。


 ゆっくりとユーリの顔が近付いてくる。まつ毛が触れると瞼を下ろし、唇が重なった。

 柔らかくて温かくて、多幸感に包まれる。


 すぐに離れるが、お互いを求め合うよう、また口付ける。唇が腫れるほど、繰り返した。





 大きなベッドでピッタリと引っ付いて寝転がる。


「結局このアザはなんだったんだろう」


 腕を伸ばして、手のひらを天井に向ける。手の甲にあるアザに、ユーリの端正な指が触れた。


 勇者の証だと言われ続けて育ったが、俺が勇者だという確証は全くない。特別な武器や能力を持っているわけではないから。


 剣の才能はあったのだろうが、それでも自分の努力の成果だと思っている。俺はやはりただの一般人だ。


「オレと出会うための証だったのだろう」


 ユーリが頬を擦り寄せて甘えてくる。確かに、これがなければユーリとは出会わなかった。


「そうだな。ユーリと出会うための証だったんだ」


 顔を見合わせて微笑み合い、抱きしめながら眠りについた。





 魔王城に移り住んで一ヶ月が経った。

 近々王や国の重鎮を招いて、親睦会が開かれる。親善大使として最初の大きな仕事の準備で、忙しくも充実した日々を過ごしている。


 書類を眺めながら隣をチラリと伺うと、ユーリは夢中でペンを動かしていた。大きな部屋でも、小さな小屋にいた時のように、肩が触れ合う距離にユーリがいる。そんな幸せを噛み締めて、口角が上がった。


 コンコンと扉がノックされ、ヴェルナーが軽く会釈をして入ってくる。


「捗っていますか?」


 執務机の前に立ったヴェルナーは、額を押さえて肩を落とした。


「ユーリ様、なぜそんなにもゴブリンを描いているのですか?」

「これはゴブリンではない、猫だ。フレッドの描いたものを真似して描いた」

「俺の画力をいじるな!」


 ユーリの手元にある紙には、俺が描いた猫がたくさん描いてあった。真似をするのが上手いな……。


 ヴェルナーの冷めた目が突き刺さる。下手という言葉は一旦飲み込んでくれたようだ。


「猫を見たことがないんですか?」


 ユーリと同じことを言っている。俺は苦笑いを浮かべることしかできない。

 ユーリがぐっと伸びをして立ち上がった。


「そろそろ休憩をしないか?」

「そうだな」


 ユーリは仕事をせずに猫を量産して、集中力が切れているようだし、俺は肩を回しながら答えた。


「フレッドさん、ユーリ様をあまり甘やかさないでください」

「ヴェルナー、フレッドを責めるな」

「責める理由は、ユーリ様にあるんですよ」


 ヴェルナーは腕を組んで「まったく、困ったお方ですね」と言いながらも、ユーリを見る瞳は優しい。


「休憩が終われば、きちんと仕事はする」

「承知いたしました」


 腰を曲げ、ヴェルナーは部屋を去った。ヴェルナーだって、ユーリを甘やかしている。

 天気がいいから、中庭に移動した。


 中庭では、コッコがひなたぼっこをしている。しゃがんで撫でると、白い羽が太陽に温められてふわふわとしていた。

 ユーリと顔を見合わせて目を細める。


「あっ、フレッド」


 ユーリに呼ばれ、視線の先に目を移す。

 遠くでミリウスとルシアンがこちらに向かいながら手を振っていた。


「あいつら、一ヶ月も観光をしていたのか。親善大使の仕事をフレッド一人に任せて」

「いいじゃないか。王都では二人とも忙しい身だったんだし。これからまた賑やかになるな」

「オレはフレッドと静かに過ごしたい時もある」


 ユーリの腕が俺の肩に回り、引き寄せられた。

 俺がユーリの肩に頭を乗せると、ユーリもこちらに頭を傾ける。


「俺もユーリと二人っきりの時間は大切だよ」


 ユーリは内緒話をするように、俺の耳に口を寄せる。


「仕事が終わったら、二人っきりになろうな」


 ユーリのおねだりに胸を鷲掴みにされる。思いっきり甘やかしたい。

 二人っきりの時間のことを考えると、仕事も早く終えられそうだ。

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