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第五十四章 白の上
雪は、変わらず白かった。
桜田門の朝は、
いつもと同じ静けさの中にあった。
ただ、
人の動きだけが、違った。
駕籠は、そこにあった。
傾いている。
供の者が、散っている。
誰も大声を上げていない。
声は、低い。
雪が、音を吸っている。
門の前に、
人が集まり始める。
足跡が、増える。
白は、踏み荒らされる。
だが、
何が起きたのかを、
言葉にする者はいない。
言葉にすれば、
それが現実になる。
誰も、すぐには言わない。
ただ、見る。
ただ、立つ。
ただ、動かない。
白の上に、
色がある。
それは、
広がっているわけではない。
ただ、そこにある。
鮮やかで、
動かない。
白は、それを覆わない。
覆えない。
人々は、距離を取る。
近づきすぎない。
離れすぎない。
その間に、
沈黙がある。
やがて、
名が呼ばれる。
小さく。
確認するように。
誰も否定しない。
否定できない。
雪は、変わらず降っていない。
空は、澄んでいる。
だが、
朝はもう同じではない。
白の上に残ったものは、
やがて消える。
踏まれ、
溶け、
混ざる。
だが、
一度現れたものは、
消えない。
言葉として残る。
記録として残る。
時代として残る。
その場にいた者たちは、
それぞれに理解する。
これは、
終わりではない。
止められたのでもない。
ただ、
流れが変わった。
白の中で、
朱は消えた。
だが、
その色は、
人の内に残った。




