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第四十三章 わずかな揺れ


ある日の議は、短かった。


文は整い、

決裁は速く、

外は沈黙している。


すべては順調だった。


そのはずだった。


一通の報が入る。


処断した一人の縁者が、

静かに職を辞した。


騒ぎはない。

抗議もない。


ただ、辞した。


理由は体調とある。


だが誰もが知っている。


直弼は、報を閉じる。


これは反乱ではない。


抵抗でもない。


静かな退きだ。


孤独は、

議の場だけではなかった。


広がっている。


さらに別の報。


処断対象の周辺にいた者が、

地方へ戻った。


一人。

また一人。


議の場では、

何も言われない。


だが、

場外で温度が変わっている。


川路が、珍しく言う。


「火は、見えるところだけではございませぬ」


直弼は、視線を上げる。


責めてはいない。


ただ、事実だ。


炎は、上へ向かう。


だが、

熱は横へも広がる。


恐れは封じた。


だが、

恐れは人の心に残る。


それは怒りではない。


距離だ。


夜、埋木舎。


直弼は庭に立つ。


初めて思う。


――削りすぎたか。


削らねば、崩れた。


だが削れば、

残るものも細くなる。


象徴は立っている。


だが、

支える面積は、減っている。


わずかな揺れ。


目に見えない。


だが、

風が吹けば、

増幅するかもしれない。


直弼は、まだ止まらない。


だが、

初めて足元を見た。


朱は、鮮やかだ。


だが、

その根元の雪は、

わずかに溶けている。

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