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第三十八章 恐れの封印


恐れは、夜にだけ現れた。


昼には出ない。


議の席に座れば、

声は揺れず、

筆は止まらない。


恐れは、私事だ。


政に持ち込むものではない。


直弼は、そう決めた。


翌日の議で、

一件の処断が、やや重い形で持ち込まれる。


以前なら、線を引く前に

一瞬の逡巡があった。


いまはない。


「拡げる」


短い。


範囲を一段、広げる。


思想の整理から、

関係の整理へ。


個の動きから、

連なりへ。


迅速派は安堵する。


議重派は、もう声を出さない。


外は沈黙する。


沈黙は承認だ。


承認は、正当性を強める。


恐れは、奥へ沈む。


恐れを感じるたびに、

直弼は一段強く出る。


迷いを見せぬために。


止められぬことを悟られぬために。


象徴は、揺れてはならない。


揺れぬ姿勢は、

やがて硬直になる。


川路は、文の変化を見る。


措置は、

「整理」から

「封じ」へと語が変わっている。


封じる。


その言葉は、

戻らない方向を示す。


夜、埋木舎。


恐れは、まだある。


だが、形が変わった。


恐れは、

弱さではなく、

決意の燃料になりつつある。


――止めれば、崩れる。


――進めば、持つ。


そう言い聞かせる。


朱は、

いまや炎に近い。


炎は、

周囲を照らす。


だが同時に、

周囲を焦がす。


直弼は、

焦げる匂いを感じている。


それでも、

火を弱めない。


恐れを封じるために、

さらに強く燃やす。

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