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一匹目のオオカミ

女も27にもなれば、それなりの知識やこズルイ技も憶えるわけで。

『こんなの初めてっ!』

なぁ~んてこたぁ良くも悪くも正直あんま無くなる。


が、


『っぁああっあんっっぃ、スゴイぃ、こんなのはじめてぇぇっ』


隣室からダダ漏れの、汁気タ~ップリな喘ぎ声はさっきから『初めて』を盛大に

喚き散らしてる。


『こんなの初めてぇぇっ』から始まり、

『いやぁぁん壊れちゃうぅぅ』だの

『奥まであたってるぅぅ』だの

聞いてるこっちが羞恥で顔が熱くなるっての!


もちろん、『イタイ』って羞恥でね(泣)


閑静な住宅街、窓からのぞく青空には一筋の飛行機雲と飛び交う小鳥、

耳を澄ませばどこからか子供たちの遊ぶ声も聞こえてくるようなのどかな昼下がり。


『んんっあぁぁぁ、大きいよぉぉ』


いやいや、ありえないでしょう(泣)


のどかな昼下がりの午後、すでに当たり前と化している濡れた騒音をBGMに私は夕飯の準備をすべく一階のキッチンに向かった。



    ○○○   ○○○   ○○○   ○○○   ○○○



回転し始めたおもりからシュンシュンと飛び出す蒸気は、芳しきカレーの香り。

「ん~ん、良い匂~いv」

朝起きた時から「今日はカレーだ!」って思ってたんだもんねぇ。

大きめに切ったじゃがいもに、皮つきで乱切りしたにんじんに、ちょびっと奮発した牛肉ちゃん。

圧力なべの中での熟成を楽しみにしつつ、冷蔵庫の中を覗いてしばし考える。

「付け合わせはなんにしよっかなぁ」

「ポテトサラダにして」

気だるげなすこし掠れた低い声に、知らず眉間にしわが寄る。

「炭水化物過多はダメ」

振り返った先には(ミツル)がシャツを羽織っただけの上半身と半端にジッパーの下がったジーンズという、いかにも情事後と言わんばかりの格好でキッチンに入ってくるところだった。

「いまさらそんな事気にしてもどうにもなんねぇだろ」

冷蔵庫前に立つ私を押しのけて、中から私が私の為にキンキンに冷やしておいた缶ビールを断りもなく取り出すと、その場で喉を鳴らして飲み始めた。

「ちょっと!それ私の!」

抗議する私にちらっとだけ視線を流して、まるで見せつけるように汗ばんだ喉がゴクゴクとビールを嚥下していく。

「買い置きないのよ!それで最後だったのにっ!どうしてくれんのよ!」

一日一本、ささやかな楽しみを横取りする充の無駄に鍛えられた胸元にペチペチと平手をくらわしてやる。

「っはぁ~、うまかった。ってかさ」

なんなのよこいつっ!少しぐらい痛がれってのよ!おまけに無駄に張りのある肌しやがって!!

五つ離れた弟の肌の肌理に毒を吐いていたすきに、腰に腕を回されてグッと抱き寄せられていた。

「糖類ゼロビールって、無駄な足掻きなんじゃないの?」

「うっさい!」

大きな手がさわさわと腰のラインを撫でる。私がそこを気にしてると知っていて!

「う~ん、相変わらずの豊満なウエストだな」

「は~な~せ~っ!」

この腕の中は危険だ、逃げ出そうとするが筋肉で引き締まった腕はビクともしない。

「カロリー抑えたって量をとったら意味ないって前にもいったろうが、運動しろ運動を」

「いいのっ私にはこの方法があってるの!」

「だったらなんで痩せてねぇんだっての」

「うっさいっ!」

飲みきった缶ビールを握りつぶして放り投げると、充の両手が私の身体のラインを確かめるように這いまわり始めた。

「一日中家にいて、夕飯には晩酌してって女として終わってるな、このニートが」

「私だって好きで家にいるわけじゃないわよっ」

どうにか潜り込んだ就職先は業績不振でクビになり、つなぎで始めた派遣はいっつも短期契約。

「絶対に今年中に仕事見つけてやる!」

「だったらそのまえに早く痩せろ」

二の腕、ウエスト、背中、太もも、お肉を確かめる手の動きが本気でイヤ!


「あのぉ、充くん?」


ばたばたと暴れる音にか細い声が混じった。

はたっと振り返った先には、、、、


『うっそぉぉぉっ!こんな娘があんな声出してたのぉぉぉぉっ』


私も大人ですからね、もちろん心の声を口に出したりはしませんよ。

でも本当に驚愕ですよ。

いまどき珍しい真っ直ぐな黒髪、向こうが透けて見えんじゃないかってぐらいの白い肌、黒目がちの大きなひとみは迷子のチワワみたいにウルウルしてる。

『そりゃ“初めてぇ”かもね』

下世話な事をしみじみ考えてる私を腕から放すことなく充が冷たい声をだした。

「まだいたのか」

ちょっとちょっと、“初めて”の娘にはもっと優しくしてやんなさいよ!

非難を込めた目で睨む私を冷めた目でにらみ返してきた充は、わざとらしく私のウエストをひと撫でしてからようやく腕のちからを抜いた。

「送ってくよ」

充の冷たい言葉に固まっていたチワワちゃん(勝手に命名)の腰を乱暴に引き寄せキッチンを出ていく寸前、あのクソ野郎(下品でごめんなさい)は

「あっ、姉さん」

くりっと首だけ振り返ってチワワちゃんの細腰を私に見せつけるようにイヤらしく撫でさすった。

「ぁんっ」

ちょっとチワワちゃん!なに感じちゃってんの!

「帰りにビール買ってくるからね」

「ケースで買ってこいバカッ!」



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