鉱石のきらめきの中で
婚礼は、秋の終わりに執り行われた。
クロイツ公爵家の式場は、屋内だというのに、壁のあちこちから薄紫の結晶が控えめに顔を出していた。石工が前日に徹底的に取り除いたはずなのに、当日の朝にはもうそれなりの量が生えていたらしく、執事が青ざめていたという話を、後でリサから聞いた。
しかしソフィアはそれを聞いて、むしろよかったと思った。
(彼も緊張しているのね)
式の間、エドワードは終始落ち着いた表情を保っていたが、ソフィアには分かった。こめかみがわずかに緊張している。立ち姿に無駄がなく、声は安定しているが、足元の床に、ごく小さな結晶がひっそりと増えていた。
誓いの言葉の後、エドワードがソフィアの手を取ったとき、床の結晶の生え方がすっと静まった。
それに気づいたのはソフィアだけだったかもしれないが、気づいたことは言わなかった。
* * *
婚礼から数か月後、クロイツ公爵領南東部の第一採掘場が稼働した。
バートリー家から移ってきた鉱夫たちが、新しい坑道を切り開いていく。鉄鉱石とバナジウムの混合層が掘り出されるたびに、現場は活気づいた。ジャックも移籍組の一人で、新しい採掘場の現場監督として、相変わらず憎まれ口を叩きながら仕切っている。
「石炭より重くて扱いにくい。だが、文句を言いながらも、みんな生き生きしてやがる」
ジャックがそう言ったとき、ソフィアはそうですね、と短く答えた。
採掘された鉱石の中には、あの薄紫の結晶も混じっている。鉱物学者が正式に新種と認定し、「クロイツァイト」という名前がつけられた。王都の研究機関が高値で買い付けを申し出てきており、それだけで採掘場の収益の三割近くを占めつつあった。
エドワードはその報告を聞いて、しばらく無言だった。
「……厄介だと思っていた石が、名前を持った」
「厄介なままですけど、価値も出た、ということで」
「あなたはたまに少し意地悪ですよね」
「問題がなくなるわけじゃないから、どちらも本当のことを言っておかないと」
エドワードがソフィアを見た。今日は穏やかな顔をしている。屋敷の石の生え方が、この頃は全体的に落ち着いてきたと、執事が安堵した様子で報告してきていた。
「一つ、聞いていいですか」
「どうぞ」
「バートリー家の縁談を受け入れたのは、最初から事業のためだったのですか」
ソフィアは少し考えた。正直に答えることにした。
「最初は、そうでした。鉱夫たちの働き口が必要だったので、縁談を断る理由が見つかりませんでした」
「今は?」
「今は……」
ソフィアは窓の外に目をやった。崖の方向に、夕陽が落ちかけている。赤褐色の岩肌が、光を受けて金色に変わっていた。
「今は、ここにいることが、自分にとって正しい気がしています。理由を言葉にするのは難しいのですが」
「そうですか」
エドワードがそう言って、窓の外を一緒に見た。
「わかる気がします。それに、あなたも私と同じ気持ちであってほしい」
穏やかな沈黙が、静かに広間に満ちた。足元の床に、薄紫の小さな結晶が一つだけ、ひっそりと光っていた。
それを見て、ソフィアは小さく笑った。
(やっぱり、まだ生えてる)
でも、それでいいと思った。この土地の性質で、この人の性質だ。
外では、鉱夫たちの声が遠くに聞こえた。新しい坑道を切り開く、希望に満ちあふれた快活な笑い声が、夕暮れの山に響いていた。




