第318話 来訪者の戸惑い
出雲神殿から500mほど離れた古い家屋の影に、フランス治安情報局での戦闘から逃げてきた異星人エクセル銀河連邦科学第一士官ゾガとアンドロイドが出雲神殿の様子を伺っていた。
「ベータロイド、いったいどうなっているんだ。我らが、こんなすぐに、全滅するとは」
ベータロイドは、地球を永きに渡り監視していた数多く存在する偵察機とリンクして今回の状況を分析していた。
「ゾガ士官、過去のデータから、分析結果がでました。この地球はやはり、我々より、遥かに劣る原始種族であることは間違いありません。ただ、数多くの地球外の建造物や、その痕跡があることから、ゾガ士官から聞いたエンシェントの保護下であると言う話も、まんざらうそではなさそうです。それと、飛島ヤエですが、彼女はかつて、この地球を救った大英雄であり、とてつもない影響力のある人物であることがわかりました」
ゾガは事前に地球のことを調べてはいたが、劣等種族であることを決めつけていたため、細部まで調べることをせず、今回の事態をまねいてしまったことを反省していた。
「この状況では、このまま地球に残るしかない」
ゾガはベータロイドを見てわかりきった回答を当たり前のように話した。
「ゾガ士官、我らが発見されるのは時間の問題です。答えは、はっきりとしています。我らの情報を開示する条件で、生き残りを図るしかありません」
ゾガは少し考えたようなしぐさで
「それしかないようだな。だが、地球人の仲間にはなることは絶対できないがな」
ベータロイドはなんでもすぐに答えをだす、ゾガを教育するように
「ゾガ士官、この地球では、感情と言うものがあります。我々も、まだ少しは、この感情というものが残ってはいますが、相手に対して、この感情、ここでは情に訴えるというのが最適です。ゾガ士官のように、無表情で、なんでも合理的に即答する方法では、地球人の気持ちを逆なでしてしまいます。なにしろ地球で最も影響力があり、慕われている松田財閥創設者松田マツを殺してしまったのですから」
ゾガは首を傾げ
「殺してはいないぞ、松田マツともう一人の女はケガを負っただけだろ」
ベータロイドは、しかりつけるような言葉使いで、
「その話し方がダメです。感情が全く感じられません。地球人を怒らせるだけです。もっと丁寧に優しく話さないといけません」
ゾガは何が悪いのか全く理解できていなかった。なぜ合理的に無駄を省いて話すのがいけないのか。それがお互いにとって時間の浪費をなくし、簡潔に意思疎通ができる。最高ではないか。と思っていた。
「ゾガ士官は地球人の前では絶対に話さないでください。ベータロイドが交渉します。
それと、現地で重傷者のスキャニングをしましたが、地球人2人も士官2人も重症で我らの技術を持ってしても助けられないレベルであることを確認しています」
ゾガは地球人の何倍も力のある2人の士官があんなにすぐにやられるとは、今でも信じられなかった。だがすぐに考えを切り替え
「よし、ベータロイド、出雲神殿の各入口には、見張りが立っている、おそらく、お前の考え予測すると、あいつらは感情というものに支配されているから、松田マツを殺した我らを会った途端に殺そうとするだろう。誰か、無関係な者を仲介に立て、冷静に話しができる飛島マリに会えないだろうか」
そんな時、見回りをしている、巫女、飛島トキが目の前を横切って行った。彼女は、見回りが終わって急ぎ、ヤエ達のところへ戻ろうとしていた。そこを遮るように、ベータロイドが家屋の裏から出てきた。
「すみません」
ベータロイドは、日本人らしい若い青年の声をだした。トキは急に出てきた青年を見て驚いた。そして、じ~っとベータロイドを見た。
「この神殿は、勝手に入ってきてはいけませんよ。道路に面している入口は閉鎖していて、今の時間は立ち入り禁止にしていますから」
ベータロイドは、何万通りもある対応媒体から最適の回答を瞬時に導きだして話した。
「私達は、昨日、出雲に来たのですが、荷物をなくしてしまい、泊まるところも、わからず、お金もなく、どなたか相談にのってほしいと思い、ここにきたのです。なんでも神殿には困った時に必ず助けてくれる神様がいると聞いてましたので」
そんな会話をしているところに掃除が終わり、主屋に戻ろうとしている弟の、みことが通りかかった。中学生のみことは何にでも好奇心があり、また、別の来訪者と話している姉を見て、笑いながら近づいてきた。それを見てトキは大声で
「みこと!宮司があなたを呼んでいたわよ。すぐに行きなさない」
トキは今まで見たことがないくらい、怒った顔でみことを睨みつけた。みことは姉が怒ると、とんでもなく怖く、力でもすぐに負けてしまうため、走って逃げて行った。ベータロイドは通常の人間のバイタルと照らし合わせ、トキに異常があることを確認し、急に態度を変え
「あなた、いつから気づいてましたか?」
トキは急に声色や表情から感情が消えた青年に恐る恐る答えた。
「始めから、わかっていましたよ。あなたは人間ではない、その物置小屋の裏に隠れている人を守ろうとしている従者であることも」
ベータロイドは、通常の地球人では、どう考えても分かることのない能力に目を少し大きくして驚いた顔をした。
「ゾガ士官、出てきてください」
ゆっくりと小屋の後ろから、現われた男は真っ黒のスーツに身を包み、金髪の白人で30歳ぐらいの男が出てきた。
「正体がばれたのなら、しょうがない。お前、飛島マリの所まで案内しろ」
トキは、たしか、飛島マリはヤエさんのお孫さんって聞いたことがあると思った。しかし、先ほどあった人で日本人はヤエさんだけだった。ちょっと考えて、ひらめいたように笑顔で男を見て
「はい、わかりました。神殿にいらっしゃいますので、ご案内します」
ゾガは、ベータロイドに地球人の交渉はあなたではダメだとバカにされたが、なんだ、やはり合理的思考を持つ士官の自分の方が、交渉がうまいじゃないかと自分を再評価していた。
「こちらです。私は、この神殿の宮司の娘ですから、一緒にいれば誰にも邪魔されずに神殿まで行けます」
飛島トキは、直感ではあるが、この2人は、とんでもなく強く恐ろしいと感じた。だが、あのヤエさんなら、この2人よりも強く、何とかしてくれる思った。しかも、ヤエさんはこの2人に会いたいと考えているはずだ。だから、少しでも早く神殿まで連れて行かなくてはと思った。少し歩いたところでベータロイドが足を止めた。
「お前、神殿には、男が1人しかいない。少し離れた家屋には人が集まっているようだが」
トキはドキッとしたが、平然の顔で
「あの~、失礼ですけど、あなたの能力では、飛島マリさんに遠く及ばないと思います。だから、わからないのではないですか?」
ベータロイドはジロっとトキを睨みつけた。
「私の能力を疑うのか?」
トキはこの少しのやり取りで、なんとなく理解をした。おそらく、この2人はマリさんに助けを求めに来たのではないか。だから少しでも早く会い、自分達の安全を確保したいと思っていると。すると、さっきまでの恐怖がうそのように、笑いながら
「疑うもなにも、あなた達よりも能力が上だから、飛島マリさんに会いに来たのでしょ。
とにかく、神殿に行きますよ」
トキは走ってでも神殿に行きたかったが、巫女装束を着ているため、小刻みに足早に歩き、ヤエのいる神殿に急ぎ向かった。




