勇者面会 1
前回学んだので今回はもう時間止めていっきに王城に乗り込みます。動かないうちに殺して魂を持って帰ってもいいけど良心が痛むので多少話くらいは聞いてやろう。さっきハーレムも作ってるって聞いたから殺すことは確定しました。
「あの、軽く人殺せるレベルの殺気しまってくれませんか。あとそんなにハーレムが憎いですか?」
「あぁ憎いね、私の代になってから私がなんで一夫一妻制にしたんだと思う?」
「血の多様性ですか」
「表向きはね」
「ここで言っても大丈夫か心配になってきましたが続けてください」
「一夫一妻制、それは弱者救済だ!」
私が最高神に就任してから初めて下界に降りたとき初めて会った人間はさえないが心優しい男だった。彼には気になっている女が二人いたが私と会う一週間前に片方はイケメンの正妻に(後に妾を増やした)、もう片方は三日前に金持ちの妾となってしまったという。それはもう二人で酒を飲みながら号泣した。そこで彼は言った。
「力のあるやつがどんどん女を持っていってしまう。俺だって幸せにできたはずなのに」
彼なら好いていた女を幸せにできたと私もそう思った。そして彼はそれから「結婚させられたような女を本気で好きにはなれない」と主張し結婚せずに一生を終えた。彼を少しイケメンにして転生させたのは秘密である。
そんな彼の一生を見た私は緩やかに一夫多妻制を日本から取り払った。
「イケメンや金持ちが女を独占したらそうじゃないやつはどう頑張ればいいか分からないだろ?そういう魅力を何も持たないかもしれないが人間としていいやつがちゃんと恋愛して結婚できる。数少ないささやかな私の願望だ」
「なるほど、一理ありますね」
正直言えばそういういいやつの血が残ってくれることを神として願っているのもある。
「イケメン、金持ちなんて碌な奴いないしね」
「それは言いすぎかと」
「だいたいモテるやつとかホントもげろ」
「やっぱり私怨じゃないですか!」
目の前に見えるのは立派な王城だ。防衛については考えられていないので攻めやすそうだが白と赤が美しく、国の威厳を示している。勇者は国に所属してるのと王女を誑かしてるのと二つの理由でどこかに遠征に行っていなければ王城にいるはずとのことだ。
「不在連絡票とか国王に渡すわけにもいかないし【レーダー】しといた方がいいよね」
「御心のままに」
魔術を展開し、勇者の位置を確認する。うん、案の定王城にいるようだ。居なかったら手間が増えたところだったし暇でよろしい。
術式を解除するや遠くから高速で風を切る妙な音がする。
「ヤマト様!下がってください!」
「は?」
その飛んできた物体を取り出した刀で毘沙門天が受け止める。私の前に出てきて庇われる形になってしまったのは男としていただけないがびーちゃんは護衛だから見逃してくれ、神様。
「へぇ、やるじゃん。褒めてあげるよ。胸は貧相だけど美人さんだね、お茶でもしない?」
「斬りかかってナンパとはそんな野蛮人の誘いを受ける人なんていないと思いますが……それと今てめぇ貧相な胸って言ったよなぁ?」
うわぁ、そういうチャラチャラした感じの主人公はライトノベルではウケないよ?だって読んでる人がだいたい童貞のクソオタクだし(偏見です)、そんなこと出来るわけないからね。でも転移してるってことはもしかして女知ってから変わったタイプかも。くっそ、むかむかしてきた。
「で、勇者様よ、私のレーダーを逆探知かい?やっぱりチートだねぇ」
「神様のおかげでな、魔力は魔王レベルさ」
「剣術はゴミレベルですが……っね!」
びーちゃんがつばぜり合いから押し離し、距離をとる。まずい、びーちゃんすごい怒ってる。手出ししたら怒りの矛先がこっち向きそうだからやめておこう。しかし毘沙門天をもってしても劣らない戦闘能力、人間じゃねぇな。魔力量を自ら言っちゃうあたり思慮が足りないが。
「ふーん、俺とまともにやりあえそうな奴は初めてだ。何者だ?」
「何者かもわからぬ相手に斬りかかったのですか、この野蛮人は」
「測れないほど膨大な魔力があって敵意もあるとなれば先制攻撃しなくちゃ身の危険だからね」
「保身だけは上手なようですね、野蛮人」
毘沙門天の斬撃がものすごい速度で飛び交うが圧倒的なスピードでそれを躱していく。俺じゃなきゃ見逃しちゃうね。それはいいけどこれじゃなんにも話ができないな。私の予想としてはあと三分で決着、もちろん毘沙門天が勝つんだけど勇者はぼろぼろになって死ぬ。止めとくか。
「【重力制御】」
「!?」
「ヤマト様、止めないでください!この野蛮人だけは殺すんです!」
「落ち着けよ、毘沙門天」
はっとなって頭を下げる毘沙門天を横目に勇者に話しかける。勇者はこちらを睨んでいるが動けない。そのざまを眺めるのがとても気持ちいい。そうそう神様はこうでなくちゃ。
「まぁ落ち着いて話をしようか。名前は?」
「……ケイタ」
「じゃあケイタ君、私は日本担当の神様なんだ。今は君のような転生者を捜して回っている」
「クソみたいな世界に連れ戻しに来たのか?」
「貴様、よくもそんな口をヤマト様にっ」
「毘沙門天、ちょっと黙っててくれ」
びーちゃんは忠誠心が高いのはわかるんだけどこういうところお堅いのが欠点だ。またしゅんとしてるからあとでフォローしておこう。これはこれでかわいいんだけどねぇ。
「我が日本をクソとは心外だね。これでも他の神よりは頑張ってるつもりなんだがね、犯罪も少ないし」
「ほとんど生まれと才能できまる世界がクソじゃなくて何だ?」
「貧しくて才能に乏しくてもがんばって努力で何とかなるくらいの制度は整えているはずなんだけど」
「それにくらべてここでの暮らしは楽しいよ。強ければ女の子も寄ってくるし、何より俺は才能に恵まれている」
コイツだめだ、やり直しだ。才能なんてまやかしに過ぎない。確かに才能に多少の差はある、がその才能ある人は必ず努力していて努力によってまた才能が生まれている。環境に甘えて隣の芝をうらやむような奴がチートを手に入れて楽に暮らしているのは気に食わない。あとハーレムもげろ。
剣を取り出す。波紋の美しい日本刀に変形させた三種の神器の一つ、天叢雲剣だ。ちなみにこれを先代の日本担当神から受け継いだときには直剣だったのだが自分が使いにくいのと何より直剣がダサかった(個人の感想です)から日本刀に変えてやった。え、大丈夫だよたぶん。日本刀かっこいいし。
「まぁ、仏教とかで教えられてる通り来世っていうものはあるから来世で頑張ってくれ、期待してるよ」
「……」
口もきけないか。ハーレムとはいえ苦しめる趣味はないものでサクッと殺してあげよう。
「ヤマト様!!」
「ん?」
うわ、まぶしっ。気配を感じて斬りかかってくる剣をいなす。私、元々武具の神様だから武器オタクではあるけど武神じゃないんだよ。荒事はやめてよ。心眼で勇者を確認すると人間ではありえない速さで遠ざかり、消えた。魔素の動きからして転移魔術をつかったか。
「ヤマト様のせいで取り逃がしましたね」
「私のせい?うーん、厄介だね。おそらく彼は亜神だね、この世界の神の権限を三分の一くらいもらい受けちゃってる」
人間に権限を譲渡するようなこの世界の馬鹿神のせいでめんどくさいことになった。