異世界視察 1
所詮は対症療法しか持ち合わせていない。よって異世界を視察することにした。
例の幼女の首根っこを捕らえ、脅迫して許可を貰い人間の姿で日本人がいるという異世界に降りた。割と外道だが気にしない
「異世界の街で発見!こんなところに日本人」スタートだ。
「あれでしょ?冒険者ギルドに登録するんでしょ?」
「違います。勇者と呼ばれる日本人に会いに行くんです」
「え、能力測定器割るやつ一回でいいからやってみたいんだけど」
「視察ですよね?」
腹心の毘沙門天を連れて降りてきた。彼女はメガネをかけてちょっと目尻の上がったツンとした美女ではあるのだが、中身が生真面目な部下なのでテンションも上がらない。美少女パーティーが基本だけどこりゃないぜ・・・・・・。もっとノリのいい部下にすれば良かった、楽しくない。
視察には上からの観察が効率的なので不可視の魔術と併用して飛ぶ。日本での魔素の流布は禁止しているので魔術でなにかするのは新鮮だ。もちろん神なのでこのくらいは自分の領域外でも余裕だ。
「うわー、これはよくある中世ヨーロッパですねぇー」
「なんでみんな中世ヨーロッパで、貴族になりたがるんだろう。というか日本人に公爵とか子爵とか馴染みなさすぎでしょ、そんなに日本が嫌いか!」
「そんなことないと思いますよ」
単なる日本の神としての小説投稿サイト「なれる」に対する不満だ。
綺麗に等分された農地はきっと三圃式農業をしているのだろう。テンプレだと勇者が広めてるぞ。ちょっと勇者様の情報を収集するか。
「勇者を訪ねに旅をしている者だが・・・・・・」
「そうかい!アタシたちも勇者様には世話になったからねぇ。まだ勇者じゃない頃にふらっと現れてね、困り果ててた魔物を平気な顔して倒してきたよ」
(うわぁ・・・・・・お約束ぅ〜・・・・・・)
「会ったらお礼言っておいてねぇ」
「はぁ、分かりました」
「あといつも隣にいた赤髪の女の子にもね」
決めました。この世界で勇者がやれやれ系とかやってたらぶっ殺して連れ帰ります。異世界巡りをしながら根性腐ってる奴を日本の土にかえすこと(物理)にします。逞しく全力で精一杯生きていればお父さんも流石に認めますが、だらけてるような奴はやり直しです。異世界側も困るだろうから直近でヤバそうな案件だけ片付けて勇者を連れ帰りましょう。
チートスキルの勇者を異世界で倒せるかが問題かもしれないけどヤバかったら弓矢神でも呼べば負けないでしょ。チートと神は違うのだよ、勇者くん。
「ということで、勇者の根性叩き直しの旅にします」
「どういう経緯でそうなったのかは全くわかりませんが、全員を探し出せるものでもないですよ?」
「そこは諦めてこれからの教育方針決定のための経験ということで」
「一理ありますが、ハッキリと私怨と申されれば良いのでは?」
だって意味わかんないじゃん!チートスキルで無条件モテモテとかそんなイージーモードウチにはねーよ!!イケメンだって実際そんなに作ってねーよ!基本的に俳優とか社会的に必要な分だけだよ!!あとはちょっと足速いのに誤魔化されてるだけだよ!
「もう事前情報とかもういいんじゃないかな?ぶっ飛ばせば済むし」
「いつも冷静なのに頭に来ると意外と脳筋ですよね、ヤマト様」
「元々、武具の神さまだから仕方ないね」
結局諌められて、ぶらぶらと街で情報収集をしながら王都を目指すことになった。やはり街も情緒溢れる異世界テイストで市場が並んだり、各種ギルドが支部を並べる街並みは日本人の憧れというのも頷ける。だからってほいほい私じゃない神に付いていかれても困るんだが。
勇者始まりのギルド
入口の目立つところにこんな文字を掲げるギルドがある。あの冒険者ギルド、絶対勇者が最初に所属したギルドってことを売りにしてるんだろうな。
「行きましょう、もしかしたら成長が早いだけで最初の頃は苦労した、みたいなタイプかも知れませんよ」
「いや、それでも今ハーレムで適当に暮らしてるようなら連れ帰るし」
基本的に連れ帰ると決めております、そもそもウチの子だし問題ないよね?夢は終わり現実の世界におかえりなさいませ、ご主人様、だ。そういえば最近忙しくてメイド喫茶『視察』にいってないなぁ。
冒険者ギルドに入ると強面のガタイのいいオッサンがニコニコしながら声をかけてきた。盗賊とかに襲われるとオーバーキルしてしまうので盗賊が無意識に避けるような牽制の氣を纏っているのに気づいたようだ。このオッサンなかなか出来る人のようだ。
「よう、強そうだな。冒険者登録か?勇者を思い出すな」
「勇者・・・ですか。どんなだったんですか?」
「なんだろうな、初めにあった時から自信満々だったな。確かに強いんだが剣の腕前はイマイチ、なんで強いのか分からねぇ・・・・・・っておっと不敬罪で殺されちゃうかもだからここだけの話にしてくれ」
「それは変わらずですか?」
「そうだな、最後に見たのも何年か前だから今はどうだか知らねぇけどな」
「そうですか」
「で、登録すんのか?」
オッサンは似合わない笑顔で登録を急かす。自分の観察眼には自信があるんだな。強いことは正解なんですけど。
チラッと毘沙門天を伺うとすごい形相でこっちを向いてた。
「うーん、今は困ってないしやめておきます。また機会があったらちゃんとここに登録しに来ますよ」
「話がわかってるじゃねぇか、それなら仕方ねぇ」
「すみません、ありがとうございました」
すんなり引き下がった、もうちょっと食い下がるかとも思ったが。すんなり引かれたら引かれたで寂しいな。
ちゃんと断ったのに毘沙門天、長いから心の中ではびーちゃんて呼ぼう、びーちゃんは怖い顔のままだ。
「あのぅ・・・・・・ちゃんと断ったのに何故そんなにお怒りなのでしょうか・・・・・・」
「なにってあたりまえじゃないですか、私も武神毘沙門天ですよ?剣の扱いもなってないような勇者がこの国で最強を名乗っているのならこの世界の武の道が揺るぎます」
武神なりの武道へのポリシーがあるらしい。
「勇者ぶっ飛ばすの今すぐ行きましょう」
「さっき自分で勇者について調べてからって言ったじゃん」
「ここの武神はなにをしてるんですか!?」
「武神も何もここの世界、一神教だし」
「これだから独裁者はダメなんですよ!」
「ダメ、神さまが一神教批判しちゃダメ」
ご機嫌ななめなびーちゃんを諌めながら王都に向かう。立場が逆になって初めて、さっきはびーちゃんに面倒をかけたなぁと反省した。