オタク神
そこには幼女がいた。
幼くも儚げで美しいその姿は人間が見れば惚れ惚れするものだろうが私は神だ。やろうと思えば生後0ヶ月から老婆まですき放題だ、やりたくもないけど。
どこ所属の神か問いただそうかと思ったが、ここは情報を引き出した方がよさそうだ。
「君はだれ?僕と同じで迷子?」
「何を言うか人間、妾はれっきとした神じゃ」
ちょくちょく下界に出向き日本を観光しているため人間の真似は他のどの神よりも上手いことは自他共に認めることだ。もちろんオーラや神力を隠すのもお手の物だ。うーん、自ら神名乗っちゃうとすごい胡散臭いね。私も気をつけよう。
「その神様が僕に何の用だい?」
「お主には勇者になってもらう」
「は?」
「お主には世界を救う英雄に選ばれた。そのための力を授けよう」
「いやいやいや、ちょっとまって。普通に、そうですかー分かりましたーちょっと世界を救ってきますとはならないでしょ!?」
「うむ、よく考えればそれもそうじゃな」
と幼い顔でパチっとウインクをする。
魅了の魔法だ。魅了で丸め込もうって感じか。まぁ私は神ですから?効きませんけど。
しかしどうやら我が民は日本のサブカルでよくあるこの展開で異世界に連れ去られ、便利使いされてるらしい。
「でもどうして僕なんだ?他にいくらでも人間はいるだろう?それもお前の世界の人間でもいいじゃないか」
「笑わせる、せっかく妾が選んでやったというのにそんなことをほざくか。まぁよい座れ、疑いを持たれて働かなくなっても困るしな」
椅子が用意される。私には木製の何の変哲もない椅子だが、その幼女はなにやら豪華な装飾のついたふかふかの椅子を用意した。この幼女日本の最高神に頭が高すぎないかなぁ?処す?処しちゃう?
「アニメや漫画は好きか?」
「まぁ、それなりには」
「まずそれを知っていることで適応が容易い。パニックに陥って死なれても困るのじゃ、異世界に転移するなんて話ごまんとあるじゃろう?物語で知っている者は知らない者と精神的にだいぶ違うのじゃ。勇者にしてやるといったら二つ返事でついてくる者もいるそうじゃ」
「俺が転移させられるのは日本のオタク文化のせいか」
そう言うと幼女は少し困ったふうに笑った。童貞には効果覿面なんだろうなぁという感想を抱いた。というか日本人ちょろ過ぎでしょ、知らない人にはついて行ってはいけませんって習わなかったのか。あとで教育委員会に補正かけておこう。知らない幼女について行ってはいけませんを加えるようにね。
「まぁそれもあるがそれによる願望が本命じゃ」
「願望?」
「異世界に行きたい、強いスキル持って俺TUEEEEしたい、女の子侍らせたいとかいう非現実、空想への強い憧れが妾たちの加護を受けやすくするのじゃ」
たち、か。やっぱりさっきの前例といい、この幼女だけじゃなくていろんな異世界の神の間で日本人誘拐が流行りらしい。魔素の運用をミスって魔王を生み出しちゃった?じゃあいいこと教えてあげるよ、地球の日本って所はセキュリティーもザルだし何か知らないけどそこの人間はすんなり勇者になってくれるよ!みたいな噂が流れていたりするのだろうか。頭が痛い。
「その願望は妾たちとのコミュニケーションの波長を合わせ、そして貴殿らに強力な力を与えることを可能にするのじゃ」
転移させやすく、チートスキルを与えやすいので便利と。
「いわば貴様らが妾を呼んだのじゃ」
「・・・・・・。」
恩着せがましいな、おい。最後の一言には少々腹が立った。こっちは日本最高神として良い国目指して365日24時間(視察含める)出勤して、管理してるというのにさ。その私の愛する民をチートスキルという飴で懐柔し、いいように英雄にしてその骨のみならず魂まで異世界に埋めようというって言うのか。
本人はまだ良いかもしれない。英雄として崇められて女侍らして楽しいかもしれないけどさ。あぁ羨ましい限りだよ?だが私はどの民も平等に愛している。子供を盗られるようなことは許せない。人間が人間として成長していく為に乗り越える試練も、チートスキルで有耶無耶にされてしまうじゃないか。そんな魂をこのヤマトは我が国のサムライと認めぬ。
なんだその男は!そんな男、父さんは認めぬぞおおおおおおお!!
私だけではない、その転生者の家族は?家族がいないとしても先祖は?はたまたお前が今まで食らった魂の欠片は?全くに孤立して人間は生きていけないのだ。ぼっちだ、引きこもりだ言っても他との関係がない人間など、生物などいない。
そもそも輪廻転生装置が上手く働かないのが一番困る。
そしてこんな横暴が年に何千件も起きていたことに気づかなかった自分に腹が立つ。
「よし分かった」
「ではそろそろ我が世界へ行くかのう」
「お前がこっちの世界に来るんだよ!!」
変装を解き、神力を高める。幼女は目を見開き応戦しようとするがもう遅い。取り出した杖で地面を叩けば、幼女の結界は破壊され日本天界へ移動する。
「!?馬鹿な!?!??」
「窃盗の現行犯でーす、管理者みたいだから消すんじゃないよ。後々面倒だし」
「かしこまりました」
幼女を監禁した。
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「まさか私が奨励したオタク文化のせいで拉致事件が起こってるとは・・・・・・」
神さまはひどく落ち込んでいる。それもそのはずこの神さま、オタクである。たびたび下界の視察と称しては秋葉原に通い、ゲーム、漫画、フィギュアなどを収集している。好きが高じてちょっと加護を与えてしまったくらいだ。神さま特権として見逃されているが割と問題行動である。神さまなのでいくらでも限定品やグッズを手に入れようと思えば手に入るのだがそこにはなぜかポリシーを持っていて、人間と同じ様に正々堂々物販戦争に乗り出すのだ。コミケなんかは最初期から参加している。(その後ひどくコミケが気に入って加護を与えたのは秘密)そのせいで人間への変装が得意なのだ。
「いや、貴重な文化を潰すわけにもいないからね」
完全な正当化である。この時神さまはどうやってオタク文化を保護しながら異世界の魔の手を防ぐかを考えていた。
ちなみに先の幼女は地神連、地球神連合に突き出され処分された。地球に比べるとちっぽけな世界ではあるものの世界管理者であった為、地球の閲覧も含めた干渉を一切禁止、地球からの追放という寛大な処置であった。これはヤマトの異世界の民には罪がないという主張による。
ピカピカ動画のランキングを巡回し終えるとそのまま世界管理アプリケーションを開く。
「いっそのこと日本も魔法制度を採用したら、現世に希望をもってくれるかねぇ?」
地球では地神連の取り決めで魔法の制定、魔素の流布は禁止されている。これは倫理上の問題からだ。クレイジーな日本の民に魔術を与えてみるなんて恐ろしい話である。
「そもそもウチのオタク文化がきっかけで魂盗まれちゃってますーなんて他神に言ってみろ、オタク文化根絶運動が始まっちゃうよ・・・・・・」
現在日本では一番最近のデータで年五千弱の魂の喪失が確認されている。五千の魂というのは、神さまが半年不眠不休で新たな魂を生成して間に合うくらいの数である。オタク文化を守るためならこの神さま、やりかねない。もちろん生成できるできないの問題より輪廻転生がうまく行かないことが問題である。
「しかしこのままほいほい異世界に我が民を渡すわけにもいかないし」
安直なのは不審神への結界の強化だ。まずは空間を歪めたり、切り裂いたり、変なドアを作るのを阻害するシステムを強化した。
「なによりもけしからんのは事故死にして記憶残したまま転生させる奴とかだよねぇ。なんなんだよ子供飛び出させて助けて死ぬとか、手法が古いわ!タ〇チかよ!」
未来ある日本の若者を殺して連れていくのだから質が悪い。どんなにろくでもない子供でも親の逝く前に死ねば悲しむものだ。国益だけの話でもない。
そういう所には目が行くのにオタク文化に固執する神さまもさすがはオタクというべきだろうか。
しかし傍から見れば下らないものに心奪われた狂神か愚神か。




