魂口の現象に喘ぐ〜消えた魂はどこへ〜(No.100425))
はぁ・・・・・・
帳簿をつけながら溜息をつく。端が合わない。
「なんとかならないか・・・・・・」
「あ、また帳簿なんてつけて。そういうのは部下に任せてください」
「そうはいっても由々しき事態なんだよ、責任者として自分で確認しなきゃね?」
難しい顔をして帳簿と生産性のないにらめっこをしているのは日本を管轄する神さま、ヤマトである。ご存知の通り、日本は八百万の神が存在するのでその統括というのが正しい位置づけだ。権限は少ないくせして日本自体は重要な国であり、責任は重い。そんな貧乏くじをお人好しで引き受けてしまった彼もまた日本人らしいといえばそうなのかもしれない。
そんな要領の悪いヤマトにらめっこしているのは魂口増減表だ。明らかに不自然な減少が所々に見られる。
「いままで輪廻転生の中級神に一任してたから分からなかったけど、まさか魂自体が減っているとはねぇ・・・・・・」
「魂の絶対数が減ってるなんて誰も想定しませんよ、彼を責めないでやってください」
「いや、それはもちろんだ。そもそも私も気づいてなかったのだ、管理者として責任は私にある。」
そう原因は何者かによる魂の盗難だったのだ。
不自然な魂口の減少をふと不審に思った輪廻転生の中級神は調査を開始し、ここ十数年何者かによって日本人の魂が盗まれている事実に気づいたのである。彼は大急ぎでヤマトに知らせ、責任を取って腹を切らしてくれと懇願した。もちろんヤマトは却下し、彼にボーナスを出した。「ウチはホワイト企業」がヤマトの口癖である。
「あとティーンから三十代くらいまでの不審死の数が増えているのも異常ですね」
「うーん、監視体制は強化してるから少なくとも増えることは無いはずなんだけどなぁ・・・・・・」
誤解のないように言及しておくが、ここでいう不審死というのは神為的な事故死などを指す。神の関与が疑われる不自然な事故死や病死を観測している警察のような下級神部隊がいるのだ。普通は訳ありかうっかりかで起こしてしまった神が報告書を提出することになっている。これについてはヤマトも認識しており、未報告が増えていると考え観測班の配属を増やし、透明化の為に減罰令も出していた。
道理で減少しないわけだ。
「やっぱり日本に干渉してる神がいるってことだよね?」
「まぁ、それしか考えられませんね」
日本は全天界からみても豊かな方の国である。魔法文明はないが科学文明によって発展し、民の学力もそこそこ高い。その発想力(多くは下らないことに利用されるのが嘆かわしいが)については抜きん出た一面がある。
確かにその民を欲しがる神はいるだろう。しかしあのがめつい某大国の神でさえ
「日本人は魅力的だがそいつ1人に頼るなんてナンセンス。自国の民をなんとかした方がいくらかマシ」
などというほどなのでわざわざ盗むような神はいないはずなのだ。しかし実際に盗難は起きている。
しかしこんな盗難を起こせるのは神だけだ。
―――どの国の神も信じられなくなってきた・・・・・・
ヤマトも疑心暗鬼になってこの事は知り合いのどの神にも伝えていない。他国に利用されるかもしれないし、ヘタをすれば国際関係も悪くなる。知ってるのは腹心だけだ。
「ヤマト様!ヤマト様!異常な空間の歪み、発生いたしました!」
「来たか、我が民を盗む奴の顔を拝んでやんよ」
年若い男が虹色の空間の歪みに引き込まれる。空間のバグなんかではない。明らかに神の類いが起こしている現象だ。それを念動力で押しとどめ、姿を変えて一直線に歪みに向かって落下する。
「ヤマト様!お気を付けて」
「誰だろうがぶん殴ってくる!」
ヤマトが滑り込んだ瞬間歪みが消えた。