第一話
突然だけど、私は可愛い。
そう、クラスで二番目くらいに。
クラスで二番目に可愛いというのが私に対する評価だ。どうしてかって?
それは新学期早々女子禁制の厳戒態勢で、クラスの男の子たちが『第一回、かわいい女の子クラス一決定戦』を行ったからだ。
なんだそのネーミングは?
第二回もあるのか?
男の子の間だけで秘密にできると本気で思っていたのが、またバカらしい。
男の子って、本当にバカだ。
隣のクラスの男子に情報が漏れた段階で、もう無理だろう。
実際、翌日には拡散され、全校生徒に知れ渡ってしまったのだから。
そのランキングだが、値踏みされているようで女子からは不評を買っている。
首謀者は放課後正座させられて、女子たちに説教されたらしい。
第二回を行わないという条件で釈放されたみたいだ。
その結果に戻るが、私は僅差で二位になった。
新学期の登校初日に投票が行われたので、インパクトの強いギャルの前田が選ばれた。
新学期初日によくできたもんだ。うちの男子の結束力はすさまじいな。
選ばれた前田だが、もちろん可愛いしスタイルもいい、胸もある。
その派手なルックスはカラコンと化粧がとてもよく似合う。
香水もつけている。
そして、なんと言ってもダントツでスカートが短かった。
ほとんどの男どもは、ギャルの化粧と香水の匂い、それにスカートの短さに抗えなかったようだ。
まあ、仕方ないと思う。
それが男の子なんだろう。
私は、その『前田の付加価値』に負けた。
素材的に私は負けたとは思っていないから、別に悔しくはない。
スカートの短さで、あのギャルは私の上をいっただけ。全然悔しくないから。
もちろん、化粧などの自分磨きを否定するつもりもない。
みんな可愛くなりたいと思っている。
整形で二重瞼になった子を陰で笑っている者もいるけど、みんなだってアイプチしてるのに。
そんなわけで、私も努力をしている。
でも私の努力、自分磨きのベクトルは、みんなとちょっと違う。
清潔感や佇まいなど総合的に磨こうとしているからだ。
ルッキズム否定じゃないけど、そこには重点は置かない。
それが、私がたどり着いた自分磨きの結論だ。
どうして、そんなめんどくさい事をするかって?
それは好きな相手に『私の可愛い』が全く通用しないからだ。
幼馴染のタロちゃんは『相貌失認』という自覚症状が極端に少ない珍しい病気だ。
相貌失認は短時間で相手の顔を認識して覚えることができない。
それだけだ。
実際タロちゃんは、最終的に相手の顔を覚えることが出来た。
軽症のタロちゃんは、私の顔は問題なく覚えている。
タロちゃんとは生まれた時から一緒にいるんだから、まあ当たり前だろう。
でも逆に、そのことで幼馴染なのに中学になるまで相貌失認の症状に気づかなかった。
私は何をしてたんだ。一生の不覚だ。
小学校は一クラスだったので六年間同じ顔触れ。転校生もいなかったので覚える必要がなかった。小1の新学期がどうだったかなんて、正直覚えていない。みんな、ボーとしていたのかもしれない。
中学生になってもほぼ同じ顔ぶれで問題なかったが、それは突然訪れた。
きっかけは、私が風邪で体調を崩したことだった。
その日、朝からちょっと熱っぽかった。
大したことないと無理をして、私は平静を装って登校した。
一時限目の途中で、次第に悪寒がするようになってきた。
ちょっと、まずいな。
そして休み時間、事件は起こった。
タロちゃんは私の顔色に全く気づかず、笑顔で話しかけてきたからだ。
私はタロちゃんに合わせて、無理して笑顔を作って頷いていた。
発熱で苦しかったけど、でもタロちゃんと話すのが楽しかったから。
でもタロちゃん、私ちょっとだけ辛いんだ。
私の異変に気づいたのは、親友の里美だった。
「顔色が悪いよ。大丈夫?」と心配された。
タロちゃんはそこで初めて私の顔色が悪いことを知った。
「保健室に行こう」と里美に手を引かれる。
待って、タロちゃんが自分を責めてる。里美に連れ出され、私は教室を後にした。
「あんなに顔色が悪いのに、平気で話しかけるなんてなんて身勝手で冷たい奴だ」とタロちゃんはひんしゅくを買った。
見舞いに来た里美から、タロちゃんが仲間外れにされていると聞かされた。
違う。タロちゃんはそんな人じゃない。
いつもなら見舞いに来てくれるはずなのに、ショックを受けたからかタロちゃんは来なかった。
女の子のパジャマ姿だからとかで遠慮するような関係ではない。
幼馴染だ。小さい頃は一緒にお風呂に入ったことだってある。幼馴染なら、当然だよね。
ん? でもないか。
そんなことより、タロちゃんが見舞いに来ない。
いてもたってもいられなかった。
次の日、まだ熱は下がっていなかったけど、私は学校に行くつもりでいた。
制服をハンガーからはずそうとしていると母親が入ってきた。
「何してるの? まだ熱があるのよ」
母親が制服を取り上げようとする。
私は制服を奪われまいと抵抗した。
「学校に行くの!」
「だめ。熱があるんだから」
「タロちゃんの一大事なのに、こんな熱程度で学校を休めるか!」
と大声で言って、制服を引っ張ったけど。
「いい加減にしなさい」という母の止める声と制服をつかむ力はもっと強かった。
母親の圧倒的な熱量にたいして、発熱で体力を奪われていた私に勝ち目はなかった。
おとなしくベッドに戻される。
仕方ない。今日は休もう。
でも、明日は必ず学校に行くからね。
待っててね。タロちゃん。




