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探偵は喋らない  作者: 犬犬太


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飛びたしたドアの先で背の高い何者かに翔はぶつかった。

「すみません」

珍しい、俺を通さない翔の声色が聞こえる。もちろん口は開いてはいないし、相手の顔を見る様子も無いけれど。

「いえ、こちらこそ、大丈夫でしたか」

見るからに良い生地で仕立て上げられたスーツに、耳触りの良い声と丁寧な物言い、支えるように触れる手にも嫌な感じが一つも無い。これはモテる奴の物腰だな。すっと、体を起こすように促された翔はようやくぶつかった相手と顔を合わせる。その途端、目の前の男は翔の体から手をぱっと離し、背を仰け反らせ、驚いた様な、嫌なものを見た様な声を上げる。

「き、貴様は野兎 翔。こんな所で何をしている」

翔は相手に名前を呼ばれるが、相手に心当たりが無いのか不思議そうな顔をしている。相手の方は、一緒に来たのであろう人間達に知り合いなのかと尋ねられている。

「高校、大学の同級生だった男だ」

どこか悔しげな表情で相手の男が言うと、翔も何か思い出したのか、ああ、とか、うん、とか唸りながら相手の顔を確認している。オレも何となくこの男の顔は覚えている。確か名前は・・・、

「・・・すいません、どちら様でしょうか」

オレが名前を思い出す前に、翔はこの目の前の男の事を思い出すことを放棄しやがった。

おいおい、幾ら何でも七年間も同級生だった奴を覚えていないとは、相手の男が可哀想すぎるだろう。まあ、人見知りで限られた友人しか作らなかった翔らしいと言えば、そうだと言う他ないが。

「野兎、貴様は七年、いや大学院も含め八年間も同じ教室で過ごしていた人間を覚えていないと言うのか」

ショックだったのだろう、先ほど、翔に気が付いて驚いた時よりも驚いた顔をしている。それもそうか、高校は四十人で三年間、大学と大学院のゼミは一クラス七、八人。それでほぼ三、四年間過ごしていたのだ。いくら他人に興味が無かろうと、物覚えが悪かろうと、少し位覚えていてもおかしくはない。しかし、そのおかしいのが翔なのだからどうしようもないのだが。

「猪又だ、"猪又 蔵之介"」

少しばかり怒りのこもった声が丁寧に名乗ってくれた。それは、猪又が警部であること、さらにこの事件の担当刑事であるということを話し警察手帳まで見せてくれる。そして、あらためて翔にここにいる理由を問い質した。

翔は猪又が警察官だと名乗り、警察手帳を見た事で事件について話す事にしたようだ。

桔梗が複数の人間からストーカー被害を受けていたこと、翔がストーカー対策とボディーガードをしていた事、そして、桔梗が部屋で亡くなっていた事、全てを話した。桔梗がたぶん、殺されたという事も。

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