第2話 王太子オルランド ②
……まさか、クラウディアも転生者か⁉
悪役令嬢となる運命を覆すために、わざとデビュタントに参加しなかったのではあるまいな!
その考えに至って、私は憤怒を覚えた。
冗談ではない。
『原作』を覆すな!
『原作』のストーリー通りに、悪役令嬢の役割を果たせ!
まさか、クラウディアめ。この美しき世界を、悪役令嬢のざまぁモノに変えるつもりか⁉
だが、その私の正当な思いは、父王にも母にも、誰にも理解はされなかったのだ……。
憤懣やるかたない。
だというのに、その気持ちは誰にも理解してもらえない。
「クラウディアと婚約を結ばなければ、話が進まないではないか!」
叫ぶ私に、やはり父も母も困惑したまま。
「……オルランドはクラウディア嬢と婚約を結びたいのか? 出会ったこともない令嬢だろう? 噂でも聞きつけたのか? それとも側近の誰かから推薦でもされたのか?」
そう、確かにこの世界では、私はまだクラウディアに出会ったことがない。
出会うはずのデビュタントに、当のクラウディアが来ないからいけないのだ!
「婚約を結びたいのではなく、結ばないと話が進まないのですよ!」
「……オルランドの言うことは、全く分からないが。そこまで気になるというのなら、フェルナンデス侯爵を呼び出して、どうして先のデビュタントにクラウディア嬢が不参加だったのかを聞いてみるとするか?」
「……そう、ね。そうしないとこの子が煩いわね」
父王も母も、しかたがないと言った風情で、フェルナンデス侯爵へ呼びだし状を送った。
そして、数日後。
ようやく待ちわびたフェルナンデス侯爵の登城の日。
謁見の場に現れたフェルナンデス侯爵も、父王や母と同じく困惑顔だった。
「……ご機嫌麗しく」
「いや、すまない、侯爵。我が息子が、どうしてもクラウディア嬢がデビュタントに参加していなかったのかを知りたい……というものでな……」
「そうなの。同じ年のご令嬢だから、いないのはおかしいと言って……」
父王と母の言葉に、フェルナンデス侯爵が私の顔をちらりと見た。
そして重々しく言った。
「我が娘をお気にかけていただいて、誠に恐悦至極なのですが……、娘は……。いつ頃にデビュタントに参加できるようになるかは……、わかりません……」
沈痛な面持ちに、私だけではなく父王も母も「どういうことだ」と伯爵を見つめた。
母が、言った。
「そう言えば、デビュタント前のご令嬢を集めたお茶会などにも、クラウディア嬢がやってきたことはなかったわね……」
「もしやなんらかの病を抱えているとかなのか?」
父の問いかけに、侯爵は大仰なため息を吐いた。
「……御前にて、ため息など申し訳ございません。あれは……ベッドに横になったまま、既に一年。何かの病……かとは思うのですが……」
「病? ならば医師の手配をすればいいではないか」
「……いいえ、陛下。既に医師は何人も手配済みです。だけれども、娘の症状を変えることなどできず……。ですので、デビュタントも、貴族学院に通うことも、きっと無理ではないかと……」
「はあ⁉」
私は思わず侯爵の言葉を遮った。
おかしいじゃないか。
クラウディアは悪役令嬢なんだぞ?
最低限でも貴族学院に通って、ソニアを虐めてもらわねば、原作から外れてしまうではないか!
「学院に通うのは貴族の義務だろう! 通わせるように手を尽くすのが、親としての義務だろう!」
原作通りに進めば。私の人生は勝ち組なのだ。なのにに何故、それを遮るのだ!
「……見ていただければ、お分かりになると思いますが。ですが、娘を王太子殿下に会わせて、もし、万が一のことがあれば……」
公爵の声が小さかった。
「どういうことだ、侯爵」
父王も、言った。
「はい陛下。我が娘、クラウディアは……元々は、ごく普通の……むしろ聡明で優秀な娘と言っても過言ではありませんでした。だが、十三歳の誕生日に突然倒れ、そして、赤子のようになってしまったのでございます……」