第3話 侯爵令嬢クラウディア ①
……わたくしは、フェルナンデス侯爵家の娘、クラウディア。
父、母、二人の兄に慈しまれた……というほどではないが、侯爵家の令嬢としてはごく普通に、教育をされていった。
つまり、家の政略のために、王家、公爵家、同等程度の侯爵家、いずれに嫁いでも不足がないようにと、マナーや社交、教養を叩き込まれ、更には侍女たちによって、美貌も磨かれた。
それが、一年前までのこと。
一年前、十三歳の誕生日に、わたくしは頭が割れるような頭痛と共に、前世、というものを思い出した。
そう……、ここは、ネット小説から派生し、アニメ化し、更にはゲーム化もした、とある人気作の世界。
その世界で、このわたくしは、いわゆる『悪役令嬢』だったのだ。
十四歳のデビュタントで、オルランド王太子殿下とダンスを踊り、その美貌……王家の象徴である青みかかった金色の髪、透き通った空のような青い瞳。洗練された物腰、まだ声変わり前の少年の、天使のような声に魅かれ……。
そして、侯爵である父に頼んでオルランド王太子殿下との婚約を結んでもらった。
最初は、オルランド王太子殿下との仲もそれなりに良好だった。
しかし、幸福に酔いしれていた期間は、短かった。
十五歳になって、貴族の令息や令嬢の通う貴族学院に入学し、そこでオルランド王太子殿下は『真実の愛』の相手、元平民で、男爵家の娘となったばかりのソニアと出会う。
貴族の娘のような教養はない代わりに、純朴で清楚で……その上、非常に可愛らしい、物語の世界の主人公。
日に日に仲を深めていく二人に、嫉妬したわたくし……クラウディアは、ソニアを虐めるようになる。
汚らわしい。
オルランド様に近寄らないで。
暴言を吐き、教科書を噴水に捨て、取り巻きにソニアを虐めさせる……。
そして、卒業式の時に、オルランド王太子殿下から婚約破棄を叫ばれ、国外に追放されるのだ……。
ああ、アニメ版では、貴族学院に通う期間、三年間もソニアをクラウディアから虐めるなんて長すぎると製作サイドが思ったのか、尺がたりなかったのか、それともスポンサーの思惑でもあったのか、クリスマスなんてない世界設定のはずなのに、雪が舞う聖夜の夜会にて、婚約破棄からの追放となっていたけど……。
まあ、卒業式であろうが、聖夜の夜会であろうが、追放される末路には変わりがない。
それが、悪役令嬢クラウディア。
実にテンプレートな悪役。
ベタベタな展開。
原作者の、原作世界に引きずり込むような、圧倒的な筆力がなければ、どこにでもある平凡なストーリーだったのだが。
いやあ、原作者様は天才だ!
ページを捲る手が震え、涙で本が濡れたこともあったわね……。
そこまで思い出して、わたくしは、ひっくり返った。
そう……思い出したのは、この世界が、その物語の世界で、わたくしが悪役令嬢クラウディアに転生した……ことだけではなく。
ニホンと呼ばれる世界で、『わたし』がシングルマザーの母親に育てられたこと。
小学校の授業が終わった後は、学童保育に行き、それが終わってもまだ母親が帰ってこないときは、小学校と自宅の間にある図書館で、本を読んで過ごしたこと。図書館がお休みの日は、大人しく自宅で過ごしたこと。
中学生になるころには、母親に代わって、掃除をして、洗濯をして、料理を作るようになった。
喜んでくれてた母親の笑顔。
それによる満足感。
もっと上手に家事をこなしたいと、中学校でのクラブは家庭科部にしたし、図書館では料理の本、型紙のついているバッグ作りの本などを借りた。
動画サイトでぬいぐるみ製作やレジンで作るなんとか、とか、手芸系のサイトも見まくった。
楽しかった。
母の助けのため、というよりも、きっと前世の『わたし』はそういうものが好きだった。
で……高校生になってからは、アルバイトをし、得たバイト代で布やフェルトを買って、自分の服を作ったり、人形やぬいぐるみを作った。
読んだ本の登場人物をぬいぐるみ化したモノ。
読んだ本の登場人物に似合う服や小物やアクセサリー。
そして、それを、ネットで売った。
コスプレなどをしたいが、自分では衣装の製作が難しい……というコスプレイヤーさんとお会いして、彼女のための衣装を作ったこともあった。
で、とあるイベントで『わたし』が作った衣装を着たコスプレイヤーさんが、ニュースサイトにちょこっと映り、そして、そのコスプレイヤーさんが『わたし』が作った衣装だと、拡散して……。
そうして『わたし』の製作物は、飛ぶように売れるようになっていった。
コスプレ衣装だけではなく、バッグや小物、ぬいぐるみや人形なども。
出せば売れる状態。
とある出版社からは「今まで作ったものをまとめた本を出版しませんか」などと言う声もかけてもらえるようになった。
しあわせだった。
好きなことで、母の役に立って、そして、お金まで稼ぐことができる。
何の文句もない人生を、そのまま爆走するつもりだったのに……。
これまたベタであるが、トラックに轢かれそうになった小学生を助けて『わたし』は死んだ。
呆気なく、あっさりと死んだ。
享年十八歳。
まだ、初恋もまだだったのに……。
という、人間、一人分の膨大な記憶が、怒涛のように、わたくしの脳内に、流れこんできたのよ……。
お読みいただきまして、ありがとうございます。
次回は金曜日に投稿予定です。
引き続き、クラウディア視点。




