第13話 男爵令嬢ソニア ③
「……ソニア、少々二人きりで話がしたいのだが」
オルランド様があたしに言った。
改めて二人とか言われなくても、ランチも、授業をサボるときも、放課後も、いつも一緒なんだけど?
と思いつつ、定位置というか、いつもオルランド様とあたしで一緒に過ごすガゼボに行く。
ここに近寄るような生徒はいないし、オルランド様の護衛だって、ちょっと離れて配置させている。
秘密の話……例えば『原作』ではこうだったああだったみたいな話とかもできるし。オルランド様とあたしの愛を深めあうとかもねー、へへへ。
できちゃうのよねー、ここなら。
でも、わざわざ話なんて言うからして、いつもとは違う何かがあったのかな?
あ、もしかして、クラウディアに代わって、悪役令嬢になりそうなご令嬢が見つかったとか?
それでオルランド様に、国王陛下からのご命令で、婚約者が出来たとか?
きゃー!
これで、なんとか、卒業パーティでの悪役令嬢の断罪には間に合うかしら⁉
悪役令嬢からの虐めに耐えた、可憐なあたし。
聖女のように、オルランド様に寄り添って、そして、ゆくゆくは王太子妃、王妃になるの……。
うふふふふ。
あー、よかった!
クラウディアがいないから、どうなるかと思ったけど、やっぱりそれなりの『原作』の強制力みたいなのがあるのかもしれない。
途中経過はともかく、最終的には帳尻を合わせてくれるのよ、きっと。
内心、期待でワクワクしつつも、大人しく、オルランド様の言葉を待つ。
「その、まず、有益な情報から告げよう。クラウディアが学院の授業に参加するそうだ」
「え! ほんとですか⁉」
「ああ、王妃である母からの話だから、間違いはないだろう。卒業まであと半年だが、体もだいぶ良くなったので、参加すると」
「うわあ! よかった! これでちゃんと『原作』が進みますねー!」
「あ、ああ……」
あれ? オルランド様の表情が……ちょっと悪い?
嬉しくないの?
どうしたの?
「あ、ああ、いや……。『原作』との相違が気になってな。実は……」
オルランド様の話によれば、悪役令嬢の登場か! と思って、思わず「何⁉ クラウディアが学園に通うだと⁉」と言ってしまったらしい。
そうしたら、弟であるミゲル王子から、
「……オルランド兄上。個人的交流もないどころか、会ったこともないご令嬢の名を呼び捨てにするのはいかがなものかと思います。フェルナンデス侯爵令嬢と呼ぶべきですね」
と、呆れたように言われてしまったらしい。
ミゲル王子の発言だけならともかく。
「そうですよ、オルランド。婚約者でもないご令嬢を呼び捨てにするとは、相手が侯爵令嬢でなくとも失礼です」
と、王妃様までもが、オルランド様を叱ったらしい。
「……王族、貴族としてのふるまいを、オルランドはもう一度学びなおしたほうがよさそうだな」
と、国王陛下まで。
で、このところ、マナーとか一般常識の勉強を強制的にさせられてしまっているって。
ああ。それで、お疲れ気味なのね。
「まあ、悪役令嬢が登場すれば、卒業パーティでの断罪は、『原作』通りにできるだろう。それまでにクラウディアと仮婚約でも結んでおけばいいんだしな」
婚約破棄するために婚約を結ぶ。
でも、そうしないと『原作』の断罪が出来ないものねー。
仮でも、オルランド様に婚約者なんて……と、ソニアとしては心を痛めなきゃいけないんだろうけど。
これで『原作』が進められるという安心感でいっぱいだ。
「ま、そちらはクラウディアが学院に通ってからでいいだろう。それよりも……」
続けて、オルランド様が話した内容は、衝撃だった。
あの、美術館の『ブランコを漕ぐ白いドレスの女』の絵。
その解釈。
え?
え?
ええ⁉
「え? それじゃああたし、愛人希望みたいな発言しちゃったの⁉」
原作のソニアは聖女と言っていいほど清らかなのに
ど、どどどどどうしよう!
ソニアのイメージが『原作』とズレちゃう!
「とにかく、クラウディアが学院に来るのだから、悪役令嬢も登場することになる。つまり、ある程度の『原作』の強制力もあるのだろう。とすれば、クラウディアも私の婚約者となり、卒業パーティでの断罪も、『原作』通り行えるはずだ!」
「そ、そうよね。最終的に卒業パーティで悪役令嬢の断罪をして、帳尻を合わせればいいのよね!」
オルランド様とあたしは、手と手を取り合って、頷きあった。




