第1話 神様との邂逅
気がつくと、真っ白な空間の中にいた。
上下左右どこを見ても真っ白で、こんなに真っ白だと目がチカチカしてしまいそうだが、そんなことはなかった。
天井や壁、更には床すらも、この白い空間にはなかった。どうやら、自分はこの空間でふわふわと浮いているらしい。
ここが死後の世界というものだろうか。
蛙を助けたときの記憶は鮮明に残っている。あのとき、確かに自分は死んだはずだ。あんな大型トラックに轢かれたんだ、生きていたら奇跡だろう。
実は生きていて、これは病院で眠る俺の夢の中、というのも考えられるが、だとしたら意識がはっきりとしすぎている。
もしや、これが明晰夢というものか。
おお、初めて見た。
「いや、残念ながら夢ではないぞ」
自分1人だけだと思っていた白い空間の中で、そんな声が聞こえた。
思っていたというよりは、確かについさっきまでここには自分しかいなかったはずだ。
この空間で目が覚めてから、周りを見回しても誰もいなかったからだ。人の気配すらしなかった。
だが、今は背後に誰かの気配がする。
というか、先程は自分の背後から声がした。確実に背後に誰かいるだろう。
さて、どうするべきか。無視を決め込むのも1つの手だろう。
こんな場所で急に話しかけてくる時点でろくな奴ではないだろう。だから、無視もありだとおもうが、それをしたら何も分からずじまいだ。
自分が今いるここはどこなのかとか、自分がなぜここにいるのかとか、気になる事が山ほどあるのだ。
そうなると、振り返らないという選択肢はないだろう。
ホラー映画とかでよくある振り返ってはいけない類の声掛けの可能性もあるけども。
俺は恐る恐る、背後を振り返り、自分に声を掛けてきた存在を確認した。
その自分に声を掛けてきた存在の姿を視認すると、俺は驚きのあまり、声が出なかった。
俺が振り返ると、そこには蛙がいた。
ただ、蛙がいただけじゃあ、こんなに驚きはしなかっただろう。こんな真っ白な空間に蛙がいたら不思議ではあるが、固まるほどではない。
俺が驚いたのには理由がある。
その蛙は、とても大きかったのだ。
嫌な例えだが、大型トラックぐらいのサイズもある。
しかも、ただ大きいだけではない。
俺の目の前にいる蛙は、顎から白い髭をはやし、魔法使いが着ていそうなローブを羽織っていて、おまけに蛙なのに眉毛を生やしているのだ。
カエルに毛って生えてたっけ。生えてなかったよな?少なくとも俺の記憶には髭を生やして眉毛のあるカエルなんていない。
いや、生えてたのかもしれない。俺が知らないだけで。
それにしたって、この大きさは現実味が無さすぎるが。
その、巨大蛙に年寄りの格好をさせたみたいな存在は、随分と人間味のある表情で俺を眺めていた。
「急に話しかけてすまんな、実はお主に話があって死後のお主の魂をここにつれてきたんじゃ」
目の前の存在は、年寄りくさい話し方で俺にかたりかけてきた。
取り敢えず蛙爺さんと呼ぶが、蛙爺さんの言葉でわかったが、俺ってやっぱり死んでるんだな。
随分と短い人生だったもんだ。
蛙を助けて死ぬとか、なんの冗談だよ。
「わしは、蛙の神様じゃ」
何となく見た目で察していたが。
悪魔とか、悪い妖怪の類じゃなくて良かった。
見た目はバリバリ妖怪だけどな。
その蛙の神様が俺になんの用があるというのか。
この蛙の神様が言うには、死んだ時の俺の行いにとても感銘を受け、輪廻の輪に進む俺を自分の神域まで連れてきたらしい。
「命をかけて、蛙を助けたあの行為、中々出来ることではないであろう。近頃はわしの子等を毛嫌いする者までいるなか、素晴らしい行いである」
爬虫類やら両生類が苦手な人っているにはいるもんな。俺は全然平気だったけど。
苦手なら助けようとはしなかったしな。
いや、まあ、命までかけるつもりはなかったんですけどね。
「そこでだ。お主に提案があるのだが、異世界に転生してみんかね?」
んん?
この神様いまなんと?
「しかも、今の記憶を、そのまま持ったままじゃ」
おお?
「その世界は、いわゆる剣と魔法の世界でステータスなどを見ることが出来る」
おおおおおお!!
「喜んでいただけたようで何よりじゃ。生きとし生ける蛙は全てわしの子。これはわしの子を助けてくれたことへのわしからの感謝の気持ちじゃ」
要するに、鶴の恩返しならぬ、蛙の恩返しというわけか。納得だ。
それにこの申し出は俺としても、とても嬉しい。
ゲームオタクだった俺は、ゲーム全般好きだったがその中でもRPGがいちばんすきだったのだ。
剣と魔法の世界に憧れを持っていた俺は、この提案を断る理由が見当たらなかった。
「まず、その世界の説明をせんといかんな」
それから、蛙の神様からその世界のことを色々と教わった俺は、いよいよ異世界に転生することになった。
「異世界には、危険がたくさんあるから死なんように頑張るのじゃぞ。わしからお主が簡単に死ぬ事のないように、大人の肉体、それに便利なスキルをプレゼントさせてもらったが、全てはお主次第じゃ」
何から何までありがとうございます神様。
少しずつ、意識が薄らいでいく。それと同時に自分の存在がこの空間から聞いていくのを感じる。だが、不思議と恐怖はなく、眠りにつくような穏やかな気持ちになる。
転生が始まったみたいだ。
「次に目が覚めたらお主は異世界におる。達者で生きるんじゃぞ」
神様の言葉を聞いたのを最後に、オレの意識は途切れた。