11.唐辛子煎餅(おまけ)
「前園さん、目赤いみたいだけど、どしたの」
書類のファイルを庶務課に戻しがてら、佐藤が尋ねる。何気なさを装っているけれど、確信めいてカマをかけてきているのは明白。
庶務課に来る度に毎度毎度ムダ口を利いていくこの男は、いかにも仕事してますよ、という雰囲気を出すのがとても巧い。
「さあ。そんなに赤い? 花粉症かな」
珠美は空っとぼけた。
あれっ。と佐藤は意外そうに目を見開く。いつのまにそんな返し方覚えたの、前園さん。
机の上で書類をとんとん、と揃えると、彼女はおもむろに指摘した。
「ところで、この間の用紙、手配できたんですか。費用かかっても上質紙にしてください、って先方から再三念を押されてますよね。発注書にコート紙って書いてあるけど、確かめました?」
「え。えっ?!」
佐藤は慌てて手元の書類をめくる。
「その書式じゃなくって、午前中回したやつ。佐藤さんの机だと思いますよ」
とっとと戻って仕事してください、と言外に念を押され、彼はたじろいだ。
しおしおと大人しく自席に戻り、遠目から珠美を見つめる。
心なしか、どこか吹っ切れて晴れ晴れとしたような。
相変わらず職場では鉄壁で容易に察しがつかないけれど、そうだったらいいな。
今度は、湖南料理にでも誘おう。マリエさんもいっしょに。ああでもマリエさんは甘党なんだよなあ、などと思い巡らせた。
タイトル、仮だったのにそのままにしてました。後から気づいた。
粗書きで、神田の煎餅屋さんの激辛唐辛子煎餅を小道具につかったんですが、推敲で削っちゃったんですよね。
でもおもしろいからこのままにしといてみます(笑)。
ちなみに湖南料理は四川料理より辛いとされるハイレベル最辛料理。