第10話
立木の隙間をぬい、草原を駆けるフェーデ達のもとに『彼』は現れた。
「セシリオ!? 一体どこに行っていたんだ?」
夜の闇に紛れるようにフェーデ達の前に現れた一騎の騎馬の上に居たのは痩せぎすの騎士、セシリオ。
彼の表情は明るく、立ち止まったフェーデ達に向けて手を振っている。
「申し訳ありません。少々手間取りまして」
「……そのようだな」
笑顔をフェーデに向けながら馬を寄せてくるセシリオ。
「……そんなものまで使うようになったのか。お前は」
ちょうど腕を伸ばせば届くような場所まで近づいてきたセシリオ。
彼が浮かべる笑みが苦痛に歪んだのは次の瞬間だった。
「ぐぅッ! ううぉ……」
セシリオが声にならないうめき声を上げる。
フェーデは伸ばしてきたセシリオの右腕に向かって長剣を抜き放つと同時に斬りつけたのだ。
「フェーデ様!? い、一体何を!?」
周囲に居た騎士たちが驚きの声を上げる中、フェーデは地面に転がったセシリオの右腕に剣を向ける。
草に紛れて転がるその腕……いや手が掴んでいたのは月明かりに照らされ鈍く輝く一本の串。
「ど、毒針……まさかセシリオ様が裏切っていたと」
ベニートが青ざめる。
「セシリオ、お前の腰の剣が泣いているぞ。こんな暗器は騎士が使うものとしては相応しくない」
「ははっ……泣きたいのは剣ではなく私ですよフェーデ様。逃げ道はない。おまけに私の騎士団長は圧倒的な王の戦力相手にたかだか200で挑もうとしている。付き合わされるほうの身にもなってください」
「…………」
確かにセシリオの言葉にも一理ある、普通ならサロモンに付いて民への圧政を黙ってみている方が賢い生き方の筈だ。
だがそんな生き方、選択をフェーデは望まない。
馬の背に血を滴らせながらセシリオは真っすぐフェーデを見据え自嘲じみた笑みを浮かべた。
「勝てるとお思いなのですか? サロモン王に。あの暴君に……」
「勝つとも。何が何でも、絶対にな」
再び剣を振り上げるフェーデ、もうセシリオは避けようともしなかった。
「さらばだ。友よ」
「ええ、おさらばです。無謀な騎士団長殿」
フェーデの白髪交じりの黒髪に、血の飛沫が飛び散った。
「セシリオ様……」
首を斬られ遺体となったセシリオを地面に寝かせながら悲しげな声でベニートが呟く。
フェーデもセシリオを見ながら顔を伏せる。
夜風が草原を吹き抜けまるで泣いているかのように音を奏でていた。
「……2つに分ける」
「は?」
顔を上げたフェーデが言い放った言葉がそれだった。
「サロモンはセシリオから情報を得て既に援軍を呼んでいると考えた方がいい。正面から突撃する部隊と後方に回り込んで城壁を無視して前衛に向かって突撃する部隊の2つに分けるんだ」
「数で相手が勝っているのにそうするのですか? 日を改めた方が……」
「改めて行こうものならもっと敵の数が増えることになる。そうなれば我々は牙を剥くまでもなく摺りつぶされて終わるだろう。今ならばまだ援軍の数も少ないはず、速攻で片付ける」
「分かりました。正面は誰が?」
ベニートも覚悟を決めたようだ。
「私が行く。先頭に私が居ればサロモンもきっとこれが本隊なのだと思うだろう」
「では後方は?」
「ベニート、お前に任せる。グスタボも行け」
承知しました、そう答えたグスタボ。
「いいか! 予定は何も変わらない! 今日こそが決戦の時、後はないと思え!」
味方を鼓舞しながらフェーデはセルバ騎士団を2つに分ける。
片方をベニートに、そしてもう片方の騎士達を引き連れて馬を走らせるフェーデ達。
セシリオの死がフェーデの闘志に火をつける。
──サロモン、報いを受ける時だぞ。




