第9話
さて一方のフェーデ達、彼らは決戦前にセルバの城で最後の夕食をとっていた。
「パンとワイン、それから塩漬けにして燻製した豚肉。ふふふ、良い食事ですな」
久しぶりに食べる肉に、ベニートは顔をにやけさせる。
この後王を殺しに行くとは思えないような落ち着きっぷり。
「ベニート、馬の調子はどうだ?」
「毛並みを整え、蹄鉄をならし、飼い葉もある程度食べさせてあります。サロモンの素っ首たたっ斬るには十分すぎるかと」
自慢そうに語るベニート。
そんな彼の隣で、なにやら手にしたものを凝視している騎士が一人、名前をグスタボと言った。
「グスタボ、それは何だ?」
「ああ、私の婚約者から貰ったものです。実はもう婚約者のお腹には子供が居て、この戦いが終わったら式を挙げようと」
女性の髪が編み込まれた首飾り、それをフェーデ達に見せながらグスタボは微笑んだ。
「式か。いいな、是非呼んでくれ」
「ええ勿論。必ず生きて帰りましょう」
「そうだな。ああそれと……ベニート、セシリオはどうした?」
「ここには居ませんな。ですがあの方のことです。きっと途中でも合流することでしょう」
「……そうか」
──最期くらいは共に食事をしたかったが。
会話という会話は殆どなく、黙々と食事を進めるセルバ騎士団の顔ぶれ達。
確かな闘志を胸に宿しながら、彼等は食べ終わった者から順に武器を携え城の外へと出ていく。
「……よし、行くぞベニート。グスタボ」
「ええ、お供いたしましょう。地獄の果てまでも」
「帰ったら祝杯でもあげましょう」
フェーデ達はそれぞれ長剣を手に外へと向かった。
メリョス村にて……
「おい盗賊がくるぞ! 多分傭兵かぶれだ! 馬に乗ってやがる!」
夜の闇の中1人の男が物音に起きて外を確認、血相を変えて村人を叩き起こして回っていた。
「何事?」
「嘘だろ! サロモンだけじゃなく盗賊まで来るのかよ! この村に奪うものなんてもうない勘弁してくれ!」
月明かりに照らされて見えてきたのは馬に乗った武装集団の影。
ご丁寧に先頭を走る騎馬は旗まで掲げている。
「ええい逃げるよ! 早くしな!」
騒ぎを聞き付けた村人達は松明を手にあわてふためきながら荷物を持って右往左往。
暗闇の中で全くの無秩序に走り回る。
「皆落ち着いて! 必要な食糧だけ持って森まで走って!」
そんな中だった、声を張り上げながらイサベルは村人を先導しはじめた。
──あれは間違いなくフレデリーコ様達、始まったんだ。
イサベルは小さな子供に手を貸しながら、慌てる男をひっぱたき、泣きじゃくる女を引っ張って誘導する。
「落ち着いて手に持てるものだけ持って逃げるの! 他は捨てて!」
荷車にありったけの荷物を積もうとしていた村人に向けて叫ぶイサベル。
「け、けどこれがないと冬の蓄えが……」
「それを運んでいる間に死ぬわ! 生きたいなら走りなさい!」
不安げな表情をする子供を背中に背負ったまま、イサベルは小麦色の肌に汗を滲ませながら村人達と共に森へと走る。
これから始まるであろう戦いに備えて。
──神様、父さん。あの方達をどうかお守りください。




