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Momo色サーカス  作者: 朧 月夜
【Part.1:春】夜桜の約束 ―プロジェクト“S”を暴け!―
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[43]再会と過去

「おーい、凪徒~! あ、モモっ!!」


 遠くから聞こえる暮の声が、振り返る凪徒の向こうのモモを見つけた。


「みんなも連れてきたぞー!」

「連れてきたって……先に着いてたんじゃねぇのかよ」


 実は暮、凪徒が用を足している間に男性陣を一旦サーカスへ返していた。「秀成と女性陣・子供達を連れて十五時半にパークへ集合!」と、凪徒には内緒の計画を立てていたのだ。


「あの……お父様」

「いいんだよ、明日葉……いや、もう君は桃瀬くんだ。皆の所へ戻りなさい」

「は、はい!」


 そうしてモモは凪徒の横をすり抜け、駆け寄るメンバーの輪の中に吸い込まれていった。全員が心配や驚きや喜びや安堵の想いを(あら)わにして、中には泣いているメンバーもいる。一人一人が次々にモモを囲んでは抱き締め、再会出来たことをしみじみと噛み締めて、そんな面々を前にしたモモも──自分の本当の居場所はこの中だったのだと改めて気付かされた。


「やったな、凪徒」


 暮はそんな一団を端から感慨深く眺めて、凪徒の肩に手をやった。しかし当の凪徒は腕を組み、口元をヘの字に曲げたまま、右目を少し細めて暮を見下ろした。


「別に……俺が何かした訳じゃない。あいつ自身とみんなが変わっただけだ」

「ふーん、まぁ何はともあれ、雨降って地固まった訳だな」

「あの……」


 二人は遠慮がちに掛けられた背後からの声に振り返った。腰かけていた椅子から立ち上がった高岡は、凪徒ほどではないが背丈があり、がっしりとした身体が印象的な気品のある紳士だった。


「桜……なぎと君と言ったね? もしかして桜 隼人(はやと)氏のご子息ではないのかい? 昔彼には随分世話になって……ご自宅にもお邪魔したことがあるんだ」


 そう告げる高岡に向けられた凪徒の視線は一瞬揺らぎ、


「……ええ。ですが父とは随分前に縁を切っています。申し訳ないのですが、あの人には何も言わないでください」


 ──凪徒?


 突然の質問に微かに(かす)れた声で答えた凪徒は、一瞬別人のような雰囲気を表した。暮もまた自分ですら知らなかった彼の事情に驚いていた。


「──そうか。いや、そういうことなら……失礼したね」

「いえ」


 そう一言返し、三人はこの話を終わりにしようと再び喝采(かっさい)の一団を目に入れた。しばらく皆の興奮は治まらなかったが、全員が一様にモモへの歓待を終えたのだろう。やがて落ち着きを取り戻した真ん中から、もみくちゃにされながらも幸せそうなモモが現れて、高岡の元へ向かった。


「お別れの時だね」

「……はい」


 モモは厚みのある紳士の胸に頬を寄せ、両手を彼の背中に回した。高岡の腕もモモの細い背中を優しく包み込む。


「凪徒、いいのか~? 抱きつく相手が違うだろ」


 目の前の光景に驚いた暮が横目で見上げた凪徒の表情は、特に変わらないまま二人を見つめていた。


「違かねぇだろ。たった五日間でも、あのおっさんはモモの父親だったみたいだからな」


 そして自分の答えも出たことを思い出す。




 『モモに再会出来れば、おのずと答えは出るんじゃないか?』──団長が語った言葉。




 ついにモモを見つけた瞬間、(こぼ)れ出たのは『相棒』の二文字だった。


 凪徒はクスりと(ひそ)かに笑う。今はそれでいい──きっと『今』は。


「……まぁ、確かに」


 さらりと冷やかしをかわされた暮は暮で、花純と桔梗から聞かされた話を頭に巡らせ納得した。


「サーカスを見に行くよ。その時まで──」

「はい、お元気で。その時まで……」




 ──さようなら。




 こうして五日間に及んだモモの誘拐事件はついに終わりを告げた──。




★次回更新予定は七月十三日です。

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