23話:詰所にて
前回の簡単なあらすじ:任務前日、お客さん来訪。
更新遅くなりました。申し訳ありません…
2020年 11/4(水) 改稿しました。
そして迎えた翌日。
集合場所に指定された『翠の風』の詰所に、ボクは1人で向かっている。ルアーノとアニーはボクがいない間はお留守番だ。いかにあの別宅が借り物とはいえ、国王陛下からお借りしている以上、何かがあってからでは遅い。そんなわけで、三人で住むようになってからは、誰か1人は残って守る、ということになった(ライセン様のお屋敷に行ったときは、父さんたちについてきた人たちに残ってもらっていた)。
2,30分ほど歩くと、目的地が見えてきた。現在は朝の7時、指定された時間までまだ30分ある。迷惑を掛けずにすみそうだ。
『翠の風』の詰所は、高校の体育館くらいの面積の中庭を、建物で囲っている形状となっている。団員が100名に満たない騎士団相応の大きさと言える。
「お~い、ルーク~!」
ボクがこの詰所の構造について考えていると、入り口のほうからこえをかけられた。そこを見ると、学生時代に見慣れた顔があった。
「アリサ、久しぶり。」
「久しぶりだな、ルーク!卒業式以来じゃねえか。」
彼女はアリサ。ボクが学園に入って最初のクラスメイトの1人で、あちらから気さくに話しかけてくれたのを、今でも覚えている。平民出身で、素の口調は荒いところはあるが、困っている人に積極的に声をかけたり、貴族の生徒にも意見を言えたりと、同じ平民の生徒から信頼されていた。学年が上がるにつれて平民出身の生徒は人数が減るので、彼女は貴重な存在だった。
「ネネから聞いたよ、今日の任務、キミも来るんだね。よろしく。」
「ああ、にしても驚いたぜ、ネネの大手取引先、王家と公爵家になんでお前まで並んでるんだよ。」
「あ、その話聞いたんだ。まあネネとは領地が隣接してて、家同士の交流があったからね。昔から、よく知ってることを交換してたんだ。そしたらいつの間にか、って感じだね。」
ネネは『風国の耳』と呼ばれるアドヴァ子爵家の娘で、現当主の年の離れた妹である。彼女は学校でこそお調子者のネタキャラ扱いだったが、情報収集能力と投擲のスキルは当代随一と言われており、自分の家に引き抜きたい、と考える貴族は、一定数存在する。
「ホント驚いたぜ。一緒にココに入団してから、アイツがいろいろやらかすものだからよお。」
「まあ、学生時代は目立たないように、中の上くらいまでセーブしてたっぽいからね。」
「あ、そうだ!お前、実技試験手ェ抜いてたってホントか!?」
ネネのヤツ、どうやらいろいろしゃべったみたいだね、これは。今説明してもいいけど、詰所の入り口前で話すことでもないしなあ。
「アリサ、今はひとまずおいといて、中に入ろうか。」
「おお、悪い悪い。それもそうだな。」
ということで、二人で中に入ることになった。ちなみに、この詰所の入り口は、学校の事務室のようになっており、そこで要件を告げて入ることになっている。
「よ、ルーク。数日ぶりだな。」
中庭に行くと、そこには大勢の女性騎士とフェリシア様、そして見覚えのある1人の青年がいた。
「これはノートレッド侯爵家次期当主さま、お久しゅうございます。」
「おいコラ。」
「いやゴメンゴメン。久しぶりプロトン。」
「やっぱりお前はこうでなくちゃな。」
そう言ってにかっと笑うのは、ノートレッド侯爵家次期当主、プロトン・ノートレッド。おもに理系分野に秀でていて、なかでも開発や調査に関してはこの国一番であり、《理系の申し子》の2つ名で知られている。
「来たわね、ルーク・ゼネル。」
プロトンと話していると、フェリシア様がこちらに向かってきた。こうして改めて見ると、凛々しい顔立ちに騎士団の制服がキマっていて、見ていて惚れ惚れする。
「「おはようございます、フェリシア様。」」
「ええおはよう。プロトンくんも、今日はよろしくね。」
「おまかせあれ。」
「さて、まだ何人か来てない人がいるけど、先に今日一緒に向かう子たちを紹介するわね。」
そう言ってフェリシア様は、騎士団の人たちを手招きした。昨日ネネから聞いていたボクと違い、おそらく今日はじめて聞いたプロトンは、一緒に行くメンバーを見て一言。
「いや知り合いばっかじゃねえか。」
今回一緒に行くのは、ボクと一緒に魔獣討伐をする5人と、地域住民に訪問する人の護衛に10人の計15人で、そのほとんどが、ボクたちの同級生だったり、学園で関わりのあった人だったりと、とにかく知り合いがほとんどだった。で、その知り合いでない人というのが、
「二人とも、この人はフレデリカ・フォトレスさん。私のひとつ上で、今回一緒に行く子たちのなかで最年長の1人でもあるから。」
「よろしくお願いします。」
そう言ってフレデリカさんは、ボクとプロトンに一礼した。ストレートの金髪は美しく、顔立ちも綺麗なのだが、先ほどからずっとむすっとしており、どことなく機嫌が悪そうだ。
「ん?フォトレスってことは」
「その通り!ワタクシのお姉さまですわ!!」
プロトンの言葉に反応したかのように現れたのは、カミーユ・フォトレスさん。金髪ツインドリルと“いかにも”な髪型で、よくも悪くも目立つ。
フォトレス伯爵家は騎士の名門のひとつで、拠点防衛や人身警護など、守り(護り)に定評のある家である。カミーユさんはその中でも群を抜いて守りに特化しており、成人男性ほどはある大楯を巧みにあやつり、攻撃ひとつとて通さない。フォトレス家の2つ名である『堅牢』の体現者だ。ーーその分盾の扱いに特化し過ぎてて、学園では専ら魔法と学問でカバーしていたが。
「久しぶり、カミーユさん。元気そうでなによりだよ。」
「おっほっほ!元気と頑丈さが取り柄のワタクシですわよ?常に全力全開ですわ!!」
こうした常に明るく元気なのが彼女の持ち味で、彼女の周りは笑顔で溢れていることが多い。
「ルークくん久しぶり!」
「婚約おめでとうございます、先輩!」
「ま、ルークくんなら安心ね~。」
カミーユさんを皮切りに、他の団員の人たちとも挨拶を交わしていく。まだ決まったわけじゃないし、今回の任務の結果次第とはいえ、こうして祝ってもらえるのは嬉しい。最初は反対されると思っていたから。
「みんな、反対とかないの?」
「ここであなたと結婚しないと、団長は婚期を逃すおそれもあるので。」
「うわっ!!」
突然の声に、プロトンが驚いてこけそうになる。ずっとそこにはいたんだけどね。
「久しぶりだね、レナさん。」
「久しぶりです、ルーク。」
この影の薄い人は、レナ・マイヤー。マイヤー男爵家の娘で、カミーユさんやアリサとともに、学園では6年ずっと同じクラスだった。本人は影の薄さを気にしているが、顔立ちは人形のように整っており、雰囲気は「黒髪の我が妹」といった感じだ。あまりしゃべらず、自分に自信がないようだが、学年20位に入るくらいには優秀だ。
「やはり、あなたはすぐに私に気づいてくれますね。」
「まあ、そこにいるし。」
「団長でも気づかないのに。」
「……」
フェリシア様が申し訳なさそうに視線をずらす。本当なんだ…
それからも挨拶を交わしていき、まだ来てなかった人たちもやってきた。料理担当のクミン・クックさんも来たときには、ちょっとした歓声がおこった。彼女はこの国が誇る料理人、キャサリン・クックさんの一人娘で、その料理の腕のみで、平民でありながら、陛下から称号として『クック』の姓を賜った人だ。中等部までは通っていて、よく試作品を食べさせてくれたが、とても美味しかった。
短めの茶髪を2つ結びにし、くるくると機敏に働くようすは、おもに仕事帰りの中年男性から人気なのだとか。おかげでキャサリンさんが経営する食事処は、連日大盛況である。
ちなみに歓声がおこったのは、彼女の料理を食べられるかもしれない、と思ったであろう一緒に行く組からで、残りの団員の人は少し涙目だった。
そうして集合の5分前になったあたりで、最後の二人が到着した。それを受けて、みんなが一斉に姿勢を今まで以上に正した。そしてその姿を見た瞬間、息を飲んだ。
1人は、五大公爵家のひとつ、エメラル家の長女、『歌姫単独舞台』ルル・エメラルさん。今日は蒼いドレスを着ており、翠の髪がよく映える。色香と清廉さを併せ持つその姿はとても美しく、ヒレとかあったらまんま人魚姫だ。あれ、これ誉めてる?
もう1人は、ここエアリス王国の第二王女、『才媛なる美姫』シルフィ・ウィン・エアリス様。こちらは淡い緑のドレスを着ており、光輝く金色の髪とその美貌も相まって、神秘的な印象を与える。
みんなが息を飲んで固まるなか、ボクとプロトンはいつも通りに挨拶を交わしていく。
「お久しぶりですわね、ルーク。」
「また会えて嬉しいです。」
「はい、お二人とも元気そうで良かったです。」
シルフィ様、ルルさんの順で挨拶を交わす。
「プロトンは昨日ぶりね。」
「ま、昨日宰相閣下に呼ばれたからな。」
しばらく挨拶を交わしていると、フェリシア様がこちらにやってきた。
「ルルさん、そしてシルフィ王女、お待ちしていました。」
「ありがとうございます、フェリシア様。」
「感謝しますわ。」
…うん、字面にするとなにもなく思えるのに、見ていてなぜかプレッシャーを少し感じる。プロトンや他の人たちにいたっては、程度の差はあれ、顔を青くしている。いったいどうしたんだろう。
「プロトン、大丈夫?」
「ああ、なんでもない。というかなんで当事者のお前はピンピンしてんだよ。」
「え、ボク?」
ボクが当事者とはいったい…
読んでくださり、ありがとうございました。




