21話:翠の風
前回の捕捉として書いておくと、中等部入学当初から、
ルークは元々、中の上くらいの成績でした。
ただ、周りに癖のある生徒が大勢いたため、
目立つことはありませんでした。
決して、落ちこぼれだったわけではありません。
ただただ“目立たなかった”だけです。
前回の簡単なあらすじ
①プロトンはルークとの出会いを思い出していた。
②マオとエリックはイチャイチャしてた。
③シルフィとルルは初恋が破れた。
10/16 第7話を改稿しました。
今回は、書き出しは三人称、途中から新キャラ視点
でお送りします。
時刻は、ライセンが任務の説明をはじめる前まで遡るーー
『翠の風』。
フェリシア・シルエイティを団長とし、女性騎士のみで構成された近衛騎士団で、三年ほど前、王都内部に設立された。
もともとフェリシアは、学園を卒業後は王立騎士団に入団しており、そこで数々の武功をあげていた。しかし、女性騎士が男性騎士から肉体関係を強要されている場面をたびたび目撃するようになり、女性騎士の現状を考えるようになる。現国王となってから、男尊女卑の考えは比較的少なくなったものの、武功がものをいう騎士団ではまだその考えは根付いており、加えて当時の騎士団では、身分の差を笠に着る者が多かったこともあって、女性騎士の立場は、あまりいいものではなかった。
これを受けて、フェリシアは国王に直談判し、女性騎士のみで構成された騎士団を設立。人数こそ少なく、総人員が100名を割るほどしかいないものの、王妃や王女の身辺警護やトラブルの解決など、王立騎士団とのすみわけをすることにより、今日まで活動をしている。
そんな経緯で設立されたため、構成員はみな、団長であるフェリシアには感謝しており、日々恩返しの機会をうかがっていたーー
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ーー???視点ーー
「突然ですが、ワタシ、婚約することになりました。」
「「「「「「「「えぇ~!!!!!!」」」」」」」」
昨日の夕方、詰所を出ようというときに、その日は休日のはずのフェリシア団長がやって来て、「明日は全団員集合して。」と言っていたので、何かあるのではとは思っていましたが…。 まさか、団長がご結婚なさるとは。
「よく宰相閣下がお認めになりましたね。『うちの娘は誰にもわたすものか!』っておっしゃっていたのに。」
隣にいたアリサがたずねます。彼女はわたしと同期の人で、学園では、よく一緒にいました。平民出身ですが、男爵令嬢のわたしにも初めから友好的に接してくれた人で、意見や疑問を素直に発することができるところが彼女の美点です。
「それがねえ、お父様が申し込んだ話なの、これ。しかも8年も前に。」
「「「「「「「「!?」」」」」」」」
ーー聞き違いでしょうか?わたしの覚えている限りでは、団長のお父様であらせられる宰相閣下は、それはもう団長を愛しておられ、「フェリシアちゃんが誰かのお嫁さんになるくらいなら、私は死ぬ!!」と本気でおっしゃられていたと記憶しています。そのお方が、こともあろうにご自身で、しかも8年も前に婚約を申し込んでおられたとは驚きです。いったいどなたなのでしょう。
「お相手の方は、どんな方なんですか?」
再びアリサがたずねます。
「えぇ、“ルーク・ゼネル”って言うんだけど、」
「「「「「「おめでとうございます、フェリシア団長!!!!!!」」」」」」
「え、ちょっと、いきなりなに?」
“彼”の名前が出たとたんに、おもに子爵以下の爵位の家の人たちが一斉にお祝いしたので、団長は驚いておられます。驚かれるのもわかりますが、皆さんの気持ちもわかります。
「いやぁ、ルークが相手なら、何も言うことはないですね~」
「相手によっては、宰相閣下に抗議するのも辞さないつもりでしたが、ルーク先輩なら納得です!」
「むしろ安心しました。」
「ええ?」
フェリシア様が困惑しています。フェリシア様に恩義を感じているわたしたちは、宰相閣下ほどではありませんが、フェリシア様に“悪い虫”がつかないよう、目を光らせています。そんなわたしたちが、フェリシア様に婚約の話が来て喜んでいるのです。驚くのが当然かもしれません。ですがーー
「そう驚かないで下さいませ、団長。」
「え、ってうわっ!いたのレナ!?」
「…アリサ、フェリシア様がまた」
「あはは…。えっと、団長。ずっとアタシの横にいましたよ?」
ーーやはり、影が薄いのは困ったものです。このおかげで“彼”とお話しする機会に恵まれたとはいえ、どうにかしたいものです。
「そう驚かないで下さいませ、団長。」
「うん、ごめんなさいね。それで、なんで2回同じことを言ったの?」
「安心してほしかったので。」
「えっと…?」
「あ~、団長、ここからはアタシが替わります。」
すかさずアリサがフォローしてくれました。やはり、持つべきは社交的な友人ですね。
「ルークはアタシやレナと同期なんで、アイツの人となりはよく知っているんですよ。」
「あ、そっか。あなたたち、その世代か~。いやでも今、他の代の子たちも反応してなかった?」
「まあ、アイツ他学年にも顔出してたっぽいですからね。一つ違いだけみたいですけど。それで覚えていたんじゃないですかね。」
「へぇ~、そうだったんだ。」
「アリサ、話がずれてきています。」
ーーおしゃべり過ぎるところがあるのは、彼女の欠点ですね。
「えっと、話を戻して、と。何度か関わってみて、アイツが温厚で、女性には特に優しい人だって知っているから、団長を任せるのも安心できる、ってことです。
加えて苦手がないのかと思えてくる器用さ、団長には、結構お似合いだと思いますよ?」
「本当にルーク・ゼネルって、子爵以下の子からの信頼が厚いのね。」
「まあアイツ、パッとみてのほほんとしてますからね。それが伯爵家や侯爵家の人からは良く思われなかったんでしょうけど。そもそも、基本そういう人たちの前では手を抜いていたらしいですし。」
「え?」
「「「「「「???」」」」」」
これにはフェリシア様だけでなく、他の人たちも首をかしげました。手を抜いていたとはいったい。
「そこからはワタクシめにおまかせあれ!」
わたしたちが集まっている部屋の入り口から声がした。みんながそこを見ると、そこにいたのは、わたしのなかでかなり厄介な部類に入る人だった。
「こらネネ、重役出勤とは良い度胸ね?」
「いや~、照れますねぇ~」
「誉めてないから。」
ネネ・アドヴァ。アドヴァ子爵家現当主の年の離れた妹で、わたしたちの同期の人です。
アドヴァ子爵家は、一般的には“一子爵家”と認知されています。しかし、裏では情報収集を行う『風国の耳』と呼ばれ、国内はもちろん、国外の情報をも集め、それを代金と引き換えに提供する情報屋をやっています。裏ではと言いつつ、多くの貴族に知られていますが、これは彼いわく「悪事を働いたらただでは済まないという王家の牽制」なのだそうです。
「それで、何がおまかせなの?」
「ルークが手を抜いているという話についてです!」
「アタシはそう聞いたけど、詳しくは知らないんですよね。ネネ、どういうこと?」
アリサがわたしたちの思いを代弁してくれます。やはり持つべきは(以下略)。
「まあ簡単に言えば、ルークは基本的に、全力を見せることはありません。それは人前になるほど顕著になり、場合によっては実技試験すら全力を出しません。」
「え、ちょっと待って。確かルーク・ゼネルは、あなたたちの学年の次席よね?」
「ええ、つまりルークは、全力を出さなくても次席になれるんです。まあ筆記試験とか、あと個別に受ける実技試験とかは、多分全力だと思いますよ。」
ーーわたしたちは驚くしかありません。わたしたちの学年は、何か一芸を持った人が多く、それが試験と結び付かないと、成績を維持するだけで苦労します。そんななか、全力すら出さずに次席になっていたとは。
「さすがはネネ、よく知ってたな。」
「そりゃ、相手はウチの大手取引先の一人だからね。」
「はい?」
「ウチの情報の仕入れ先、王家と公爵家、ゼネル子爵家、それとルーク個人なんだ。」
ーー彼のことは凄いと思ってきましたが、想像以上だったようです。
「それで話を戻すけど、今回みんなに集まってもらったのは、明日に控えた任務に向かう団員を決めるためなの。」
フェリシア様が言うには、今のままでは彼の婿入りに対して、一部貴族から反発があることが予想され、それをなくすため、彼に“表立った武功”を上げてほしいのだとか。その任務の内容が、
「ーーその者を含めた、我々数名だけでの魔獣討伐、ですか。」
「ええ、お父様いわく、ルーク・ゼネルの実力ならその人数で良いそうよ。」
指定された人数は5名。ここに地域住民の方への訪問をする方の護衛を入れても、十数名ほどしかいません。魔獣の大量発生には100人以上の騎士団があたるのが基本です。そのため、団員が100に満たないわたしたちには、本来回ってこない任務です。そもそもが、この団は荒事を苦手とする者が多いのです。とはいえ、荒事が得意だったり、好きだったりする人もいるわけで。
「はいはーい、ウチこの任務希望しま~す!」
「アタシも、久しぶりにアイツと話してみたいかも。この任務が終われば、アイツとはおいそれと会えないかもしれないし。」
このように、ネネとアリサは自分から参加を表明しました。わたしはあまり荒事は苦手ではありません。ですのでここは、荒事が苦手な方のためにわたしもーー
「あ、ちなみに、この任務にはシルフィ王女とルル嬢、それからプロトン・ノークレッドも同行するわ。」
「「「「「「うわ~…」」」」」」
「え、何この反応。」
“地域住民への訪問”と聞いて、誰が行くのかと思っていましたが、まさかというかやはりというか、そのお二人でしたか。
「なあネネ、お前このこと知ってたな?」
「さぁ~て、なんのことかな?」
「ったく、よりによってそのお二人かあ。プロトン様じゃ捌き切れないだろ、これ。」
「え、何。二人ともどういうこと?他のみんなも。」
フェリシア様の反応を見るに、どうやら事情をご存知ないご様子。これは教えて差し上げなければ。
「団長、そのお二人はどちらも、彼に恋をしていました。」
「ーーはい?」
「シルフィ王女もルル様も、彼、ルークさんを愛しておいでです。なので当日、修羅場になる可能性があるかと」
「ウッソでしょ!?」
相当驚かれたのでしょう、言葉が崩れてしまっています。そしてすぐに気づいたような顔で、わたしたちにたずねます。
「待って、もしかして明日、ワタシあの二人に詰め寄られたりしない?」
「あ、それはないと思いますよ。」
すかさずネネが告げます。そうですね、確かにあのお二人は、その場では何もないと思います。
「そう、なら良かっt」
「まあ任務のあと、公爵家に直接直談判に向かうとは思いますけど。」
「……」
ただ、ネネの言う通りになる可能性は、かなり高いですね。あのお二人、表面上は優しげな笑みをたたえていましたが、彼に女子生徒が近づこうとすると、とたんにプレッシャーを放っていたのを、今でも覚えています。しかもお二人は基本的に彼の近くにいたので、年をかさねるごとに、彼に近づこうとする女子生徒は減っていました。
それだけ彼を好いていたお二人のことです。何もないとは思えません。
「ねぇ、これって一緒に討伐に向かう子たち、大丈夫?」
フェリシア様がすかさず、任務に赴くことになる団員(現在二名)を案じていらっしゃいます。やはりフェリシア様は良いお方です。そんなお方のせっかくの婚期、わたしたちが怖じ気づいてはいられません。
「ご安心下さい。わたしたちは同学年ということもあり、慣れていますから。」
「まあ、元々狙っても仕方ないって割り切ってましたしね。」
「それに、一番風当たりが強いのは団長なんですから、まずはご自身の心配をすべきですって!」
「レナ、アリサ、ネネ…。わかった、あなたたち、頼んだわ。」
こうして、わたしたち三人は決まったわけですが、
「あとの人はどうする?」
「もう任務に適任な人から選ぶしかないんじゃない?」
あとの二人、それから護衛につく人選は少し手間取ってしまいました。
それにしても、彼は婚約するわけですか…。それまでに、何か恩返しができたら良いのですが。
読んでくださり、ありがとうございました。
これからも新キャラは出てきます。お楽しみに。




