19話:風国の五人之異才(クインテット)
前回の簡単なあらすじ:ルークは婚約/結婚、及び実家の昇格を賭け、依頼を受ける。
ライセンさん視点。ついに彼らが登場!!
ということで、今回は説明が多くなります。
「ライセンよ、話はまとまったかの?」
「ええ、あとは、ルークくんがこの依頼を完遂してくれるのを待つのみです。」
ルークくんとフェリシアちゃんの婚約を取り決めて一夜明け、私は足取り軽く王城に向かった。今日までの仕事は、3日前に片をつけておいた。今日登城したのは、ルークくんに出した依頼の“同行者”に話を通すためである(どちらかといえば、この依頼の主役は、その同行者の方ではあるのだが)。
「それにしても、よく五人とも集まったのぉ。うち一人はワシの娘とはいえ、一昨日に手紙を出したばかりなのじゃろう?」
「ええ、ほかの貴族たちにも見習ってほしいものです。」
今回の任務は、まだ被害報告は受けていないものの、ある程度スピードが求められる。そのため、一昨日に早馬で手紙を届けさせ、今日王城に参上するように指示を出した。とはいえ、手紙を出した者たちは、遠く離れた領地から向かう者が二名おり、あとの3名も、王都近辺、または王城に住むと言えど、その場を離れるのは容易でない者たちだ。
にもかかわらず、「民を守る」という目的のため、こうして期日内に集まってくれている。まだ若いにもかかわらず、彼らの愛国心は相当なものであり、依頼を出すこちらとしては感謝するばかりである。
「陛下、彼のものたちが揃いました。現在、王座の間に移動中でございます。」
「わかった、すぐに向かう。ゆくぞ、ライセン。」
「御意。」
さて、それでは行こう。我が国が誇る五人の天才、『風国の五人之異才』のところへーー
私と陛下が王座の間に到着すると、やはり五人とも、全員揃って待っていた。
「お久しぶりでございます、国王陛下、宰相閣下。」
エメラル公爵令嬢、『単独歌姫舞台』ルル・エメラル。腰のあたりまで伸びた髪は、光沢を放つ翠色をしており、整った柔和な顔立ちと相まって、幻想的な雰囲気を醸し出している。背は160ほどで、少女の清楚さと女性の色気、2つの要素を持っている。
エメラル家は芸術に力を入れている家系で、演奏会の公演や、美術館の運営を手掛けている。そんな家に生まれた彼女は、生まれつき音楽の才能を有しており、美しさも相まって、今では我が国が誇る歌姫として、国民すべてに愛されている。また、彼女は歌だけでなく、楽器、絵画、彫刻など、芸術においてあらゆる分野で秀でており、彼女一人で舞台が完成するとまで言われている。
「………」(黙礼)
ヴェルト公爵家次期当主、エリック・ヴェルト。深緑の髪を後ろに流しており、その髪型と鋭い眼光、そして190を超える鍛え上げられた肉体は、相手に威圧感を与える。しかし実際は、他を思いやり、民のために戦う、心優しい青年である。
数々の武芸者を輩出してきたヴェルト家において、過去最強と呼ばれている男で、あらゆる武器に精通している。三年前にあった隣国からの侵略の際は、たった一人で敵の7割を相手取り、その武勇から、『一騎当千』の異名で知られている。あまり口は開かないが、礼節を弁えており、理想の騎士として、多くの騎士や男から尊敬されている。
「いや、なんか喋ろうよエリック!?」
「相変わらずの無口だなぁ。」
ノークレッド侯爵家令嬢、『魔術の探求者』マオ・ノークレッドと、次期当主、《理系の申し子》プロトン・ノークレッド。我が国の研究機関の運営に携わる家系に生まれた双子で、かたや魔“術”、かたや研究・開発の才を以て、我が国の発展に貢献している。ーー時々実験に失敗して、大目玉を食らうところを見かけるが、その分国が発展するので、あまり強くは言えない。
銀髪が混じった黄緑の髪を(ルークくんは「メッシュ」と呼んでいた)、マオ嬢は左右に一つずつ結んでおり、プロトン殿は肩にかかるかどうかという長さで切り揃えている。双方同年代の同性の者と比べると小柄で、マオ嬢はその、発育もあまり良くはないが、どちらも溌剌としており、見る者に元気を与える。人当たりも良く、信用できる相手である。
「二人とも、王と宰相閣下の御前ですよ。少しは取り繕ってちょうだい?」
最後が、エアリス王国第二王女、『才媛なる美姫』シルフィ・ウィン・エアリス王女。政治・経済・人身掌握、およそ王家の人間に必要とされる才覚を保有し、学園に在学していた頃から、国の運営に携わってきた。人当たりも良く、分け隔てなく人と接するため、民衆からの人気も高い。
王妃様譲りの金髪はウェーブがかかっていて、背中を覆い隠している。その所作は洗練されており、見目麗しく、2つ名にふさわしいお方である。
以上の5名が、我が国の次世代を担う若者の筆頭である。改めて考えると、この五人と並んで、教師たちから『風国の六花之逸材』と呼ばれるルークくん、すごくないかい?
「本日は、明日行う任務の説明に来ていただき、感謝します。」
私の冒頭の挨拶に、五人は首を横に振る。
「…国民を守ることが、我らの使命。この力、存分に振るいましょう。」
「そうですとも!マオちゃんの魔術にかかれば、魔獣の大群なんて、ただの的なんですから!!」
「こらマオ、いい加減に一人称を変えなさい。
それにしても、任務の説明を手紙ではなく、わざわざ口頭でするとは、何かあるのですか?」
エリック殿とマオ嬢に続いて、プロトン殿が質問する。これには全員が疑問を抱いていたらしく、こちらに注目している。
「はい、実は今回の任務には、私の私情を多分に含んでいましてね。断りを入れるのが筋かと思いまして。」
「宰相閣下の私情、ですか?それはまた、随分と珍しいですね?」
「ええ、実は先日、私の娘が婚約することになりまして、その者に武功を立ててもらいたいのですよ。」
「「「「「!?」」」」」
私の発言に、五人が驚いた表情をしている。なにせ、男嫌いの印象を持たれているフェリシアちゃんが婚約したのだ。驚かないわけがない。
「ほお、それはめでたい!しかし、なぜわざわざ武功を立てる必要が?」
最初に口を開いたプロトン殿が、疑問を述べる。まあその疑問ももっともだ。公爵家に嫁ぐような者が、武功を立てる必要がある相手なはずはないからだ。しかし、
「いえ、実はその相手は子爵家の長男でして。実力は申し分ないのですが、如何せん伯爵・侯爵家から顰蹙を買いそうなので、今回の任務で武功を立て、伯爵家に昇格させたいのです。」
「…そのお相手、もしや、ルークのことですか?」
「「!?」」
エリック殿の問いかけに、ルル嬢とシルフィ王女が反応した。どちらも見た目はさほど変わらないが、よく知る者からすれば、なかなかに動揺していることが分かる。
「ええ、『風国の六花之逸材』が一人、ルーク・ゼネルです。」
「…なるほど。確かにルークなら、実力は申し分ない。家柄も、武功次第では伯爵になれる。…さすがライセン殿、見る目がお有りだ。」
「ありがとう、エリックくん」
エリックくんが、公的ではなく、私的な場での呼び方をしてきたので、私もそれに倣う。彼がこの呼び方をするときは、本当にそう思っているときなので、少し嬉しい。
そして、ここから任務の説明を始めた。ーー終始王女とルル嬢に元気がなかったのは申し訳ないが、さすがにこればかりは、私にはどうしようもない。後でこのこと、謝らないとなあ。
読んでくださり、ありがとうございました。
一応、本編に書かない捕捉を入れておくと、
魔獣による被害はまだ出ておらず、
今はまだ、「発生が確認された」に留まります。
早急な対処が必要とはいえ、生半可な戦略では、
むしろ興奮させるだけの結果となってしまうため、
こうしてしっかりと準備をしています。
次回はこの会議後の様子を書くのですが…
すみません、少し作者が用事が立て込んでおりまして、
数日更新が滞ってしまいます。
1週間以内に出せるようにします。