1 桜の花の咲く頃に
「やっべ、遅刻遅刻。」
自宅から駆け出した拓斗のその口には焼き立ての食パンが。
今日から、高校生になる。真新しい制服とカバンを身につけ、曲がり角を曲がりかけ、ふと、ここを曲がったら可愛い女子とぶつかって恋愛に発展しないだろうかと妄想をしながら、そんな訳無いかと走り続け角を曲がる。その瞬間、盛大に誰かとぶつかる。
「痛え。」
そうは言ったが、思ったほど痛くはなかった。なぜなら相手が妙な格好をしていたから。
「キノコ?」
そう、人型のものにびっしりキノコが生えていた。毒々しい色のキノコ。
正直、引いた。これは人なのか、キノコなのか。
尻餅をついたまま、身動きできず相手を見ると拓斗が落とした食パンを齧ろうとしている、その口の中にもキノコが。
「うえ。」
非常にグロかった、若干の吐き気を感じながら、これは、ここから逃げるべきだと本能が伝えてくる。
来た道を戻るように再び駆け出す。不意に視線を感じて振り向くとキノコモドキがこちらを向いて追いかけてくる。何だよ、何でだよ、と理不尽を感じながらも逃げる以外の手立てが思いつかない。
体力には自信がある方だが、いつまでもは走れない。不安を感じながら振り返ると、やはりまだ追いかけてくる。
あれにつかまったら碌なことにならない予感しかない。不思議と、行き交う人や車などにはキノコモドキは反応しない。つまりは自分しか追われていない。
とにかく走り続ける、息が上がってきたがまだいける。だが、そのうち捕まると考えたとき、不意に横を並走してくる者がいる。一瞬あのキノコかと思ったが、普通に人間だった。
「君、見えるんだね。」
涼しそうな顔をして栗毛のきれいな顔をこちらに向けてくる。ちなみに黒のスーツを着ている。
「は?」
汗だくになりながら、やっと言えた言葉は一言だった。
「見えるんでしょ、あのキノコ。」
光明の光が拓斗を照らした。
「良かったあ、お前もあれ見えるんだ?」
「うん、そう。」
走りながら、会話するがキノコもまた追ってくる。
「あれをね、やっつけないといけないの。」
栗毛の美青年は立ち止まり、反転しキノコに対峙する。
「終わるまで君はそこらへんの端っこにいて。」
そういうと栗毛は双剣をスーツの中から取り出し、キノコに向かって走っていく。
迎え撃たれると察知したキノコは身構え、全身のキノコを成長させ増幅させる。胞子が毒ガスのように辺りにひろがる。徒手で戦う予定のようだ。
「胞子飛んじゃうとまためんどうがふえるからね。」
そう言うと、栗毛は双剣に炎を纏わせキノコに向かって跳躍し、少し離れたところから双剣を振り切る。
ボンッという音とともに人型のキノコは縦2つに分かれ、燃えていた。
呆然と見ているだけの拓斗のもとに戻った栗毛は何事もなかったかのように、汗一つかいていない。
「今日のは簡単で良かった。君も色々知りたいことがあるだろうけれど、ひとまず学校へ行こうか。送るよ、学校が終わったらちょっと付き合ってほしいんだ。」
恋の告白なわけがないのは拓斗も分かったが、パンを咥えて曲がり角は二度と曲がるまいと誓った。
その日、黒塗りの高級そうな黒塗りの車で高校まで送ってもらい、帰りも迎えに来るからねと念を押された。
入学式は終わり、それぞれクラスに移動していたので、ひとまず自分のクラスに入っていき、担任から遅刻の理由を聞かれたが、一身上の都合としか言えない拓斗だった。




